妄想とは?被害妄想の種類と対応法
皆さん「宝くじに当たったらどうしよう」「芸能人と結婚したらどうしよう」といった妄想を日頃していませんか?
誰でも、そんなポジティブな妄想の1つや2つしたことがあると思います。ですが、ここでご紹介する妄想は一味違います。
それは、認知症や統合失調症の方に現れるネガティブな妄想です。
病気により「お金を盗まれた」「浮気している」などの現実には起っていないネガティブなことを妄想してしまうのです。
健康な方なら「思い違いだよ」と説明することで、「思い違いか!」と気付いてくれますが、認知症などの病気を原因とする妄想は、そう簡単にはいきません。妄想を否定すると、逆に症状が悪化してしまうこともあるからです。
それでは、介護者はどう対応すれば良いのでしょうか?
ここでは、妄想にお困りの介護者様のために、妄想の種類別にその原因や対応法をご紹介しておりますので、是非参考にして下さい。
妄想の原因や種類はさまざま
認知症の方の妄想は、記憶障害などの認知症の中核症状が根本原因として現れます。
しかし、それだけではありません。
妄想は、これまでの人生経験・境遇や介護者への不満、介護されている自分自身への劣等感といったものが複雑に影響し合い現れるのです。
被害妄想は、認知症で現れやすい
1つに妄想といっても「被害妄想」「誇大妄想」「微小妄想」などその種類は豊富です。その中でも、認知症の方に多いのが「被害妄想」です。
被害妄想とは、自分が被害的な立場でないにも関わらず、被害者だと思い込んでしまう症状です。
数ある被害妄想の中でも、認知症の方に現れる代表的なものが「物盗られ妄想」ですが、他にもいくつかありますので1つ1つ確認していきましょう。
物盗られ妄想
物盗られ妄想とは、財布やカバンといった物が盗まれたと思い込んでしまう症状です。泥棒や介護者などの身近な人が犯人扱いされることもあります。
物盗られ妄想は、認知症(特にアルツハイマー型)の代表的な症状である記憶障害(物忘れ)が主な原因です。しかし、記憶障害だけが原因ではありません。
- 他人に依存する状況を嫌う人
- 昔お金に苦労したり、トラブルを抱えていた人
- 介護者との関係が悪く、自分を優位に立たせたい人
こうしたことを背景に、物盗られ妄想が強く出ることがあります。
しかし、犯人扱いされた人は納得がいかないでしょうし、介護を一生懸命している人であれば大変ショックなことだと思います。
つい「私ではない」「泥棒呼ばわりするなんて酷い」「どうせ自分で失くしたくせに」などと、正論な意見で反論したくなると思いますがいけません!本人は「自分こそが被害者だ」と思っているところに正論を返すと、「大切なものを盗まれた上に、侮辱されるなんて屈辱的だ」と逆上し一層被害妄想に拍車がかかってしまいます。
嫉妬妄想
嫉妬妄想とは、妻(もしくは夫)が外出中に、他の異性と関係を持っていると思い込む症状です。嫉妬妄想は、もつれると暴力や介護拒否に発展することが多く注意が必要です。
嫉妬妄想は、次のような強いコンプレックスや不安感が影響しエスカレートします。
- 介護をされる立場になってしまった屈辱を感じている人
- 寝たきりや体に不自由があって行動が制限されている不安な人
- 自信のなさからくる「見捨てられるのではないか」という孤独な人
- 配偶者が性的な求めに応じてくれなかったり、自分に注意を向けてくれない人
- 生活範囲は家の中だけで一人でいる時間が長いなど人間関係が閉鎖的な人
こうした辛い感情を抱えている時に、嫉妬妄想が現れる傾向があります。
つまり、介護者と本人との生活のギャップが嫉妬妄想をエスカレートさせています。
例えば、「介護者は自由に行動できる一方、本人は家の中だけで生活をしていて配偶者のことが分からない」といった環境が、不安感をあおり、嫉妬妄想が現れます。
介護者は、「そんな事あるはずがないでしょ」「こんなおばあさん誰も相手にしませんよ」などと軽くあしらってしまいがちです。しかし、本人は裏切られていると信じ込んでいるので通用しません。むしろ疑いを深め、より嫉妬妄想がエスカレートしてしまう可能性があります。
その他の妄想
先程もご説明した通り、アルツハイマー型認知症を代表とする妄想は、「物盗られ妄想」や「嫉妬妄想」などの被害妄想がよく現れます。一方、レビー小体型認知症の妄想は、幻想に伴ってあるいは幻視が発展して起こることがほとんどです。幻視を原因とする妄想とは、例えば、「虫が飛んでいるが見えたので、殺虫剤をまく」「知らない人が立っているのが見えたので、バットで暴れる」といった具合に存在しないものが見えることで起こる妄想です。
妄想への対応
物盗られ妄想や嫉妬妄想は、認知症の根幹にかかわる問題です。これらは全て「介護されている自分を否定したい」といった一方的に人の世話になっているという負い目の気持ちから生じています。
したがって、妄想を失くすためにはそうした気持ちを改善すれば良いのです。まずは、妄想症状全てに共通の対応について確認し、ここの妄想の解決法を見ていきましょう。
妄想症状の共通的な対応
妄想というのは、本人が信じ込み、確信している場合が多い為、周囲の人がどれだけ否定しても、正常な思考へと戻すのはとても困難です。したがって、「そんなことはない」などと否定したり、相手を刺激するような言葉をぶつけても効果が無く、逆に「バカにされている」と思いますます妄想がエスカレートし逆効果になることがあります。それではどうしたらよいのでしょうか?次を参考にしてみて下さい。
- 「妄想ではないことを認めさせる」ことはこの際どうでも良いです。例え納得できなくても不安なく過ごす。
- 「介護されるだけで何もできない」という一方的な関係を解消し、対等な関係を築く。何か役割を持ってもらって介護者が助けてもらう事や お年寄りが得意なコトを介護者が教わりましょう。人の役に立ち自信がつくことで心理的な負担が軽減します。
- 妄想はイライラや怒り、不安感を伴います。したがって、優しく手を握ったり、心拍数と同じテンポ(一分間に60回程度)で背中を軽く叩くなどの対応が、精神的な安定をもたらす。
- 「物忘れ妄想」や「嫉妬妄想」の対象にされた介護者は、距離を置くことも1つの方法です。別のヘルパーや家族に交代してもらう。
物盗られ妄想の対応
物盗られ妄想は、「介護される自分への強い拒否」という葛藤が隠れています。自立的に生きてきたお年寄りにとって、そんな現状は屈辱的で受け入れ難いものです。「泥棒だ」と思いこむことで、「自分こそ迷惑を掛けられている」と信じ込もうとするケースがあります。物盗られ妄想は、次のような事に気を付けて対応してみて下さい。
- 犯人扱いされた人は嫌な思いをしますが、全ては認知症の症状と割り切りましょう。焦って否定してはいけません逆効果です。
- 物盗られ妄想は、第一に探す姿勢を見せることが大切です。盗まれたという主張を受け入れ、「本当ですか!お財布が無いとこまりますよね」と共感的な言葉をかけながら一緒に探しましょう。もし、家族が先に探し物を見つけた場合でも、一緒に探して本人が見つけられるよう誘導しましょう。
- 通帳などは金庫など決まった場所へ保管し、その都度、本人と一緒に確認しましょう。
- よく失くすものは置き場所を決めましょう。
- 代替品を用意して置きましょう。
嫉妬妄想の対応
嫉妬妄想は、閉鎖的な空間で一方的かつ献身的な介護を受けていることがエスカレートしやすくなります。しかし、この様な関係でも、素直に感謝の気持ちを伝えられる人や卑屈にならない人には嫉妬妄想は現れにくいです。したがって、嫉妬妄想には、日頃からなるべく寂しさを感じさせないようにすることが一番です。
- 嫉妬妄想は、本人の不安と寂しさの合図!「今から何をしにいくのか、誰と会うのか、何時に帰るのか」といったことをしっかりと伝えましょう。
- スキンシップや交流も大切です。
- 自分の周囲の異性の話題や、刺激思想な話題は避けるように気を付けしょう。
- デイサービスやショートステイを利用し介護者が見ることが出来ない要介護者の生活空間を作ると改善することがあります。そして、施設のスタッフと配偶者との関係を羨ましがってみせると、案外あっさり嫉妬妄想が収まることがあります。
まとめ
妄想が現れることで、暴力や抑うつ症状を引き起こすこともありますので注意が必要です。被害妄想を出来る限り克服し、本人も介護者も共に安らかな介護生活を送れるよう努めることが大切です。
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