てんかんの治療法【手術編】

てんかんの治療法, 発作の手術

てんかんの治療法は、薬だけではありません。手術による外科的な治療法も選択肢の1つです。

お薬だけでてんかんの症状が抑えにくい場合、手術による治療が有効なケースがあります。手術をすることで、てんかんの発作が劇的に改善したり、消滅したりすることも珍しくありません。

ここでは、誰でも分かるように「てんかんの手術」について解説していきますので、治療の選択肢の1つとして検討してみましょう。

てんかんという病気についてまず知りたい方はこちらの記事をご覧ください。

てんかん(癲癇)とは

1.てんかん手術の対象者

手術の詳しい方法について説明していく前に、「どのような人が、てんかんの手術に適応するのか」確認しておきましょう。

主な手術対象者は「難治性てんかん患者」

てんかんの手術の対象者

てんかんは脳の病気です。手術では、その脳の一部を切り除いたり、脳の神経経路を遮断したりします。医学の進歩により、てんかん手術の安全性は格段に高まったとはいえ、脳に手を加えるので後遺症や合併症などの「リスク」は存在します。

したがって、手術の対象となる人にはある程度の基準があります。例えば、「日本てんかん学会」のガイドラインでは、次の条件に当てはまる人が手術による外科的治療の対象となります。

  • 手術対象は薬物抵抗性の症例に限られる
  • 2ないし3種類の抗てんかん薬による単剤療法または併用療法がなされている
  • 発作の抑制されていない状態が2年以上持続している。しかし、小児では2年を待たず、より積極的に外科治療を考慮した方がよい

<参考:日本てんかん学会>

つまり、てんかんの外科的治療(手術)の対象となるのは、薬で発作をコントロールできない、あるいは副作用のために薬を飲めない、「難治性てんかん」の患者さんです。ですので、服薬でてんかんの発作が止まっている人に対しては、手術はあまり推奨できません。

もちろん、手術によりてんかんが完治する患者さんもいます。しかし、術後に、再発する人や脳に何らかの後遺症が残るリスクがあるので、手術の実施は慎重に検討しなければなりません。

てんかんの薬物治療【抗てんかん薬】

手術に適応する「年齢」「病巣」「症状」について

日本てんかん学会のガイドライン以外にも、次のような基準に照らし合わせて手術の対象になるかどうか考えましょう。

てんかん手術の適応基準
年齢 乳幼児のてんかんで、発作が消えない場合
成人では適切な薬を2種類以上、2年間以上使っているが発作が抑制されない場合
病巣 発作を起こす場所が脳の一部にあることが明らかな場合
脳の手術をする部位が、言語障害や手足のマヒなどの後遺症を起こさない場所である
症状 てんかん発作がある為に本人の日常生活に支障が来している
抗てんかん薬をどのように工夫してもてんかんの症状が止まらない
健康・精神状態 全身状態が良好で、手術をしても健康に問題がない
手術のための検査や術後の治療に、患者さんが協力的で同意している場合

2.てんかん手術の治療効果

術後60%以上の人に、症状の改善がみられる

手術は、てんかんに対してどれくらいの効果があるのでしょうか?

一般的に、手術によりてんかんの症状が、完全に消滅するケースはおよそ50%です。それ以外の10~10数パーセントの人では、発作頻度が減少し、稀に出現する程度になります。つまり、手術により60~70%の割合で、症状の消失あるいは改善が期待できるのです。

それ以外の例でも抗てんかん薬による薬剤治療を組み合わせることで、以前より発作のコントロールがよくでき、生活の質が上がることが期待されます。

手術の効果は、てんかんのタイプや年齢などで違う

しかし、悪までも先ほどのデータは平均値ですので「誰でも、どのような方法でも、同じような割合で手術に成功するのか?」と言われるとそうとはいえません。

手術とてんかん症状の改善率

対象者の症状や年齢、手術方法などによって手術の効果に差が出てきます。

3.術前の検査方法

専門病院で徹底的に検査してもらう

てんかんの外科的治療は、脳の組織の一部を取り除いたり切断したりする手術が中心です。

みなさんご存知の通り、脳は人間が生きていくうえで、とても重要な場所です。もし、発作に関係のない場所を切除しても意味がありませんし、最悪脳に後遺症を残る結果にもなりかねません。

したがって、手術をする前にはてんかんの専門病院に入院し、医師に入念に検査してもらったうえで “手術をするべきか、しなくても良いのか”判断してもらいます。

てんかんの手術前検査では、手術によって“日常生活に支障を来す大きなダメージを残さずに、発作を抑制できるかどうか”徹底的に調べます。その為、検査にはおよそ3~4週間の入院が必要になってきます。

てんかんの手術前検査の調査項目

検査項目

手術前検査では、2つのポイントを徹底的に調べます。

  1. てんかん発作の震源地(焦点)を探す
  2. 脳機能への発作の影響をみる

実際に、次のような行われる検査が実施されます。

「脳波」および「脳磁図(MEG)」 てんかんの焦点(発作が起こる場所)や、発作の症状を調べる。時には、脳波と一緒に本人の様子をビデオに記録し、実際の発作症状を観察する「ビデオモニタリング」を同時に行う。
画像診断(CT・MRI、SPECT・PET) CTやMRIでは、てんかんの原因となる病変(認知症、脳梗塞、脳出血、脳腫瘍、脳炎)を調べます。また、SPECTやPETでは、脳の血流や代謝の状態を調べます。
神経心理検査 知識、記憶、言語、手術部位に応じた高次脳機能をチェックします。さらに、「和田(ワダ)テスト」と呼ばれる微量の麻酔薬を使った検査を行い、言語や記憶の優位半球を検査し、手術で言葉や記憶への影響がないか調べます。
発達評価 子供では、精神・運動発達や社会性、知的機能の発達などの観点からも検査します。
頭蓋内脳波 全身麻酔下で頭蓋内に電極を入れて、より正確な焦点診断を行います(上の検査でも情報が不十分な場合)。

そして、検査の結果、症状の改善が期待でき、かつ安全に切除出来ると判断されれば手術が勧められます。

4.てんかん手術の種類と特徴

てんかんの手術方法は大きく3種類

てんかんの手術法はいくつもありますが、それらは大きく「切除術」「遮断術」「迷走神経刺激療法」の3種類に分かれます。

  手術内容 目的 主な術式
切除手術(焦点切除術) てんかんの原因となっている病変部分(腫瘍や脳膿瘍、血管の異常、海馬の硬化など)を取り除く方法 てんかんの発作の完全に止める 内側側頭葉及び海馬切除手術(選択的扁桃体海馬切除術、側頭葉前内側切除術など)、大脳皮質切除術(前側葉切除術など)、多葉切除術、大脳半球切除術など
遮断手術(離断術) 焦点部分を取り除かず、発作が伝わる経路を断ち切る方法 てんかんの症状を和らげる 脳梁離断術、軟膜下皮質多切術(MST)、大脳半球離断術
迷走神経刺激療法 脳を傷つけず、電気刺激によりてんかんを抑制する方法 てんかんの症状を和らげる 迷走神経刺激療法

半球離断術は、切除手術に入れられる場合もあります。

それでは、「切除手術」「遮断手術」「迷走神経刺激療法」それぞれの代表的な術式をいくつかご紹介していきます。

①切除手術(焦点切除術)

切除手術は、てんかんの原因である脳の部位(焦点)を取り除くことにより、発作を抑制や消滅をはかる方法です。

脳を切除する範囲は、先ほどの「術前検査」で対象者の発作の起こり方や拡がり方を調べて決めます。病巣のみを切除する方法、さらにその周辺や少し離れた部位までを切除する方法などいくつかの手術法がありますので、代表的な3つの方法をご紹介していきます。

皮質焦点切除術

皮質焦点切除術ひしつしょうてんせつじょじゅつとは、大脳皮質(脳の表面部分)にてんかんの原因となる「焦点」がある場合、この「焦点」を中心に大脳皮質を切除する手術です。皮質形成異常、脳腫瘍、頭部外傷、血管障害、脳炎など、さまざまな脳の病変によって生じた「部分てんかん」が、皮質焦点切除術の対象となります。

検査で、脳の病変と予想される発作の焦点が重なっていれば、皮質焦点切除術で発作が止まる可能性は60~80%に達します。一方、病変がよく分からない場合、手術で発作が止まる可能性は50%以下に留まります。

内側側頭葉及び海馬切除手術

内側側頭葉及び海馬切除手術とは、側頭葉の内側にある「海馬かいば」や「扁桃体へんとうたい」、「鉤回こうかい」にある焦点を切除する手術です。側頭葉てんかんは、成人の難治性てんかんとしても最も多く診られます。特に、海馬硬化が起きる「海馬硬化症」には、この手術療法が効果的です。

手術方法は、側頭葉の内側をくり抜く「選択的扁桃体海馬切除術せんたくてきへんとうたいかいばせつじょじゅつ」、それに加えて側頭葉の前側も切り取る「側頭葉前内側切除術」、側頭葉の前半分を切り取る「側頭葉前部切除術」などが挙げられます。

この側頭葉を中心とする手術は、高い確率で発作の症状が止められることで有名です。なんと、手術を行った患者さんの70~90%の人で、日常生活を妨げるてんかんの症状は消失します。

てんかん発作の止まる可能性は、術式の間で大差ないと言われていますが「選択的扁桃体海馬切除術」は、切除する部位が少なく、正常な神経の働きをより多く残すことが可能です。

多葉切除術

てんかんの原因となる病巣が広範囲に及んでいる場合は、「前頭葉と頭頂葉」といった具合に、複数の脳の部位を切除する多葉切除術が行われます。

②遮断手術(離断術)

遮断手術は、脳の神経経路を断ち切ることで、てんかんの症状を軽くしたり減少させたりすることを目的とした方法です。切除手術では、脳に後遺症が残ることが予想される場合に行われます。この遮断手術も、いくつか方法がありますので代表的なもの3つをご紹介していきます。

脳梁離断術

脳梁離断術のうりょうりだんじゅつとは、左脳と右脳を繋いでいる神経線維の束である「脳梁」を切断することで、脳全体に異常放電が広がるのを防ぐ方法です。この手術は病巣を切除する手術とは違い、発作の波が伝わるのを防ぐ遮断手術です。

脳梁離断術は、レノックス・ガストー症候群など「難治性の全般てんかん」で強直発作や強直間代発作、脱力発作、失立発作を度々起こしている場合に行われることが多いです。

脳梁離断術は、発作の回数を減らす目的でおこないます。発作の回数が80%以上減ることもあります。

大脳半球離断術

大脳半球離断術だいのうはんきゅうりだんじゅつとは、大脳の片側(左脳か右脳)の広い範囲が、発作の原因となっている場合、病変がある側を切除する方法です。半球離断術は、切除範囲が広いため、さまざまな脳機能が失われる可能性があります。反対側の麻痺や発作が一側性に起こることが多く診られます。

ですので、先天的に大脳に大きな奇形があり、てんかん発作が連続して止まらないような「重症患者」が対象となります。例えば、片側巨脳症、ラスムッセン症候群、スタージ・ウェーバー症候群などが、半球離断術の対象となります。

また、大脳半球離断術は、乳幼児を対象としています。なぜ、大人でなく乳幼児を対象としているのでしょうか?それは低年齢の子供の場合、残された側の健康な脳が切除した脳の代わりに働きだし、運動機能や言語機能なども回復していくケースも多いためです。

軟膜下皮質多切術(MST)

脳の中で運動や言葉に関係した部位に病巣があり切除が不可能な場合は、軟膜下多切術という焦点部皮質の軟膜下に5㎜間隔で、5㎜の深さで並行する小さな切り目を多数加える手術法をとることもあります。

③迷走神経刺激療法

迷走神経刺激療法(VNS)

出典:東北大学院医学医学系研究科

迷走神経刺激療法(VNS)とは、電気刺激装置を、胸に埋め込み、首の中を通る迷走神経を電気刺激する治療法です。手術に掛かる時間は約1時間と比較的負担が軽いです

迷走神経刺激療法の対象は、「発作の焦点が不明または広範囲に及ぶ場合」や「脳の重要な機能と発作の焦点が重なっている場合」など、切除手術が困難な難治性てんかんの方などです。

電気刺激は決められたパターンに従い、毎日の生活の中で繰り返されます。刺激により、脳の異常な興奮が鎮まり、発作を軽くすることが出来ると考えられています。

迷走神経刺激療法では、てんかん症状を完全に止めることは出来ませんが、術後3ヵ月で20~30%、1年後には30~40%、2年後には40~50%の人は半減すると言われています。

脳を直接触らない治療法ですが、刺激装置を長い間、体内に埋め込むことになりますので、手術を行うかどうかは慎重に検討する必要があります。

5.てんかん手術後の生活と注意点

手術後の薬物療法について

てんかんの手術をすれば手術後すぐに薬を飲まなくても良くなるのではないか、と考える方もいるかもしれません。しかし、手術後間もない時期に薬を自己判断で減らしたり止めたりすると、多くの場合発作が出現します。

手術後の、てんかんの再発率は約3~4割とするデータもあります。

悪までも、手術による治療の目的は発作の抑制し生活の質(QOL)の改善であり、薬の中止が主目的ではありません。手術によっててんかんが起こらなくなり、最終的に薬も飲む必要が無くなるのが最も望ましい状態であることはもちろんですが、現実には薬の減量や中止が困難な場合は決して少なくありません。

ですので、手術によりてんかん症状が止まっても、術後2~3年間は薬物治療を続けます。その間に前兆を含め発作がなかった場合には、徐々に減薬・断薬できることもあります。

ただしその場合でも、減薬によりてんかん発作が再発する場合もあるので、実際には生活状況(仕事、車の運転、結婚、妊娠など)を考慮に入れて、主治医とよく話し合ったうえで、減薬をはじめるかどうか決めることになります。

参考リンク>>正しい服薬管理の方法

術後の「合併症」や「後遺症」について

てんかんの手術では、脳の一部を切除したり、神経経路を切断したりします。

なので、大なり小なり「後遺症」や「合併症」が現れることがあります。「後遺症」や「合併症」の種類や頻度は、手術の部位によってさまざまです。脳の一部を切り取るからと言って必ず影響が出るわけではありません。

例えば、言語優位側ではない前頭葉を広く切り取っても、日常生活の妨げになるような合併症はほとんど見られません。これに対して、てんかんの原因となる大脳皮質が、運動、感覚、言語などの働きを担っている場所と重なっていると、手術によりこのような働きが損なわれる恐れがあります。

術後に異変を感じたら、直ぐに病院へ

激しい運動や遠距離の旅行は避け、規則正しい生活を心がけます。頭痛が続いたり、傷がズキズキし赤くはれたりなど普段と違う症状が現れた時、気分が落ち込んだりいらいらするなど精神的に落ち着かない時は、早めに病院を受診しましょう。

てんかんの手術費用

てんかんの手術費用は、100万円以上になります。しかし、安心して下さい。健康保険に加入している場合、保険が適用されるので通常3割の自己負担で済みます。また、高額療養費制度を利用することでさらに手術費用の負担を減らすことができます。

参考リンク>>高額療養費制度とは

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