脳梗塞や脳出血の麻痺はリハビリでどこまで回復するのか
脳卒中(脳梗塞や脳出血など)の後遺症で一番残りやすい障害は、手足の片麻痺です。
ですが、決して後遺症が残ってしまったからといって、もう治らないというわけではありません。後遺症の程度にもよりますが、発症直後からリハビリテーションを開始できれば、患側(麻痺側)の関節が次第にスムーズに動くようになり、また、健側(麻痺がない側)の手足や体幹部の筋力の維持にも繋がります。
しかし、「最終的に、リハビリによってどれくらい身体の機能が回復するのか」という不安や疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。そこで、この記事では「最終的に、リハビリにより麻痺がどれくらい回復するのか」を、身体のパーツ別に、その回復プロセスと回復の目安をご紹介していきます。
※あくまでも、ご紹介するのは目安であり、回復の度合いには個人差があることにご留意下さい。
1.リハビリで脳梗塞や脳出血の片麻痺が回復する期間は?
リハビリの効果が期待できる期間|回復曲線
一般的に、脳梗塞や脳出血の後遺症に対しリハビリテーションが有効的な期間は、病気の発症後4~6ヶ月の間とされています。特に3ヶ月目ぐらいまでは急速に回復します。しかし、その後4~6ヶ月を境に、徐々に回復のスピードは鈍くなり、半年から1年ほど経つと状態がほぼ固定化していきます。このことから「6ヶ月の壁」と呼ばれています。
したがって、身体機能の回復を目的とするリハビリテーションは、症状が固定化するまでの4~6ヶ月の期間に集中的に行われます。この期間は”回復期”と呼ばれ、重点的なリハビリが受けられる回復期リハビリテーション病棟などで、集中的にリハビリに取り組むことが推奨されています。
それ以降は、再獲得した機能が低下しないように維持・向上していくリハビリテーションへとシフトしていきます。この期間は”維時期”と呼ばれ、在宅やデイサービス、デイケアにて、食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴といった日常生活動作(ADL)の維持・向上を目的としたリハビリに取り組みます。
したがって、なるべく早い時期(回復期の間)に、集中的にリハビリテーションに取り組み、身体機能の回復を図ることが大切なのです。
適切な時期に適切なリハビリをすることが重要
ですが、回復期を過ぎ維時期に入ったからといって、そこでリハビリテーションが終わりというわけではありません。自宅に戻ってからもリハビリは続きます。
維持期のリハビリの目的は、食事・更衣・移動・排泄・整容・入浴などにおいて、自分でできる項目を増やしていくことです。裏を返すと、ご飯を食べる・服を着る・車椅子を押す・トイレをする・髪の毛を乾かす・お風呂に入る、といった日常生活のあらゆる場面で、無数にリハビリの機会が存在しています。
なので、「不自由で可哀想・・・」だからと、ご家族が何でもかんでも片付けてしまってはいけません。リハビリの機会を奪うばかりか、せっかく回復期で取り戻した機能がリハビリ前の状態に戻ってしまう可能性もあります。したがって、自分出来ることは自分でしてもらいましょう。介護者は、本人の出来ること・出来ないことをしっかり把握した上でサポートするよう心がけることが大切です。
なお、必要であれば維時期でも、理学療法士などの専門家による身体機能の回復を目的としたリハビリを行います。
2.リハビリの流れ
リハビリテーションによって、誰もが発症前の状態にまで回復出来るわけではなく、後遺症の程度や年齢などにより個人差があります。ですが、一般的に手足の動きが改善していくプロセスには共通点があり、病気の予後がある程度予測できます。
上の図は、脳卒中の発症から歩行機能の回復を目標にして行われるリハビリの流れです。まずは、ベッド上での「関節可動域(ROM)訓練」から始まり、徐々に「ベッドの端に座る」「ベッドの横に立つ」「歩く練習」とステップアップしながらリハビリテーションを進めていきます。
しかし、誰もが上の図のような経過をたどるわけではありません。後遺症が重い人は、自分で車椅子に乗り移りする事を目標にリハビリは進められます。つまり、その人の状態に応じて目標が定められ、その目標を達成する為に必要なプログラムを組み、その人に合ったリハビリを進めていくのです。
それでは、発症後3ヶ月時点での身体機能の回復の目安に、「最終的にどれくらい回復するのか」「どこを目標にリハビリを進めていくのか」を、①肩や肘、②指、③下肢(下半身)のパーツ別に見ていきたいと思います。
※もちろん個人差がありますので、すべての人に当てはまるわけではありません。途中の段階で回復が止まってしまうケースもありますし、リハビリスタート時から様々な動きが出来るようになるケースもあります。
3.肩や肘がリハビリにより回復していくプロセスと予測
適切なリハビリを行うことによって、肩や肘は、次のような段階を経て動くようになっていきます。
上肢の麻痺は、次のようなプロセスで改善していきます。
- 最初は全く動かない状態です。自分自身の力で、患側の手を動かそうとしてもまったく動かすことが出来ません。
- 力を込めて両方の肘を曲げようとすると、麻痺している側の肩や肘が微かに動いてきます。
- 麻痺している側の肘を曲げようとすると、反動で肩が上がります。また、反対に肘を伸ばそうとすると肩が下がってきます。
- 麻痺している方の手を徐々に腰の後ろの方に回すことが出来るようになります。
- 麻痺している方の肘を真っ直ぐに伸ばし、真横にあげる(伸ばす)ことが出来るようになります。
- 麻痺している方の肘を真っ直ぐに伸ばし、前に伸ばすことが出来るようになります。
- 肘を徐々に伸ばしながら、耳の横を通って真っ直ぐに上にあげることが出来るようになります。
- ゆっくりとした動作でならどちらの方向にも腕や肘を動かすことが出来るようになります。
脳梗塞や脳出血の発症後3ヶ月の時点で、①②③のレベルの場合は、残念ながら日常生活を送る上で不便を感じざる負えません。介護者による食事や排泄介助が必要な場面も出てきます。しかし、この段階でリハビリをストップしてしまうと、関節が曲がったままの状態で固まる”拘縮”になってしまうので、毎日関節を動かし拘縮を予防する必要があります。
脳梗塞や脳出血の発症後3ヶ月目の時点で④⑤⑥程度のレベルの場合は、工夫さえすれば日常生活の様々な行為ができる可能性があります。また、⑦⑧まで動くようになれば、日常生活にさほど不便を感じることなく暮らせるはずです。
4.指の動きがリハビリで回復していくプロセスと予測
指の動きも、リハビリを続けているうち次第に良くなっていきます。指を開きやすくするマッサージ、指を曲げやすくするマッサージ、伸びにくい指を伸ばしやすくするマッサージなど、スムーズにできない動作に応じて運動療法を行っていきましょう。リハビリスタッフの指示を受け、定期的に本人が健側(麻痺がない側)の手でマッサージをすることも有効です。
指の動きは、一般的に次のようなプロセスを経て改善していきます。
- 全く動かない状態。
- 健側の手を力いっぱい握ると反動で麻痺している方の指がわずかに曲がります。
- 患側でグーを作ることが出来るようになります。つまり、指を曲げることが可能になったということです。しかし、人差し指だけ、中指だけというように、一本ずつ曲げることはできません。また、曲げた指を開くこともまだ出来ません。
- 曲げた指を次第に伸ばすことが出来るようになります。しかし、1,2,3,4というように1本ずつ伸ばしていくことはまだ出来ません。
- 親指と人差し指を横にくっつけるようにして物を挟むことが出来るようになります。
- 親指と人差し指の指先をくっつけ、丸が作れるようになります。
- 親指と中指、親指と薬指、親指を小指という順で、丸が作れるようになります。
- 発症前と同じように指が動くようになります。ただし、動くスピードはゆっくりです。
脳梗塞や脳出血の発症後3ヶ月の時点で①②③のレベルの場合は、やや日常生活に不便が生じます。
④⑤⑥程度のレベルの場合は、工夫次第でタオルをつかむ、カバンを持つ、洋服の着脱をするといた更衣も出来るようになります。⑦⑧にまで回復していれば、ゆっくりとした動作でほとんどの日常動作を行うことが出来るようになります。
5.下肢(下半身)の麻痺がリハビリで回復するプロセスと予測
下肢の麻痺に対しては、装具や杖など歩行を補助するものがあるので、健側(麻痺がない側)の足の筋力が極端に落ちない限り、麻痺が完全に回復しない段階でも歩行が可能になるケースが多くあります。
下肢(下半身)の動きは、一般的に次のようなプロセスを経て改善していきます。
- 全く動かない状態。
- 横になって両足を閉じるように力を入れます。この時、介助者が健側の足を閉じないように抑えると患側がわずかですが閉じる方向に動きます。
- 患側の足の膝を自分の力で曲げようとすると、股関節も一緒に曲がってしまいます。次に膝を伸ばそうとすると、股関節も一緒に伸びてしまいます。この時、足先が反ったような形になってつま先が下を向いています。
- 患側の足の膝を自分の力で曲げようとすると、股関節を動かすことなく、膝だけを曲げることが出来るようになります。
- 足首だけを上下左右に動かすことが出来るようになります。
- 速度は遅いものの、発症前と同じようにスムーズに歩くことが出来るようになります。
脳梗塞や脳出血の発症後3ヶ月程度経った段階で、①②のレベルの場合は、太ももまでカバーする金属支柱つきの装具(長下股装具)を装着することによって、手すりにつかまりながら歩くことが出来るようになります。とはいえ現実的には、この段階では車いすを利用した方が便利です。
③の動作が出来るようであれば、膝下までの金属支柱付きの装具(短下股装具)と杖の使用で歩行が可能です。④の動作が出来るまで回復していれば、膝下までのプラスチック製の装具と杖で歩くことが出来ます。⑤の動作が出来れば杖だけで歩行が可能で、⑥であればゆっくりと普通の歩行が出来ます。
まとめ
上の章で確認した麻痺の回復の目安は、あくまでも一般的な予後の目安です。例え回復期を過ぎ維時期に入ったとしても、回復が見られるケースは多々あります。それだけ、人間の身体というものは不思議なものなのです。
著者の母も、脳出血で倒れて以降、2年近く口からの食事がまともに取れず、胃ろうを付けていましたが、日常生活やデイサービスでのリハビリで口から物を食べられるようになりました。立つことや歩くことはままならないですが、今では食べることだけは、「人並み、いやそれ以上」です。母は何よりも「食べたい」という気持ちが強かった為、維時期を過ぎても嚥下能力が回復したのだと思います。
ですので、リハビリの有効な期間は1つの一般的な目安として、参考にしていただければと思います。リハビリを進める上で何よりも必要なことは本人の強い意思なのではないでしょうか。
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