【片麻痺の介護のポイント】脳梗塞,脳出血の後遺症の介助
後遺症の程度は個人差がございますが、一般的に脳卒中を発症した人の約6割に何かしらの後遺症が残ると言われています。そして、脳卒中(脳梗塞や脳出血)などの後遺症として、多く見られるのが「片麻痺」です。
片麻痺(半身麻痺)とは、左右一方の半身の運動機能が麻痺し、上手く動かなくなったり、シビレたりする運動障害の1つです。
重度の片麻痺の方は、思うように手足が動かず、1人で立つことや座ることはおろか、寝返りをするのもやっとの状態です。 また、記憶や計算、会話なども上手くできないことがあったり、感情のコントロールが出来ずいきなり叫びだすこともしばしばです。
介護者の方は「なんで、人前で怒鳴り散らすんだろう?」「排泄・食事介助が大変だな」など色々な悩みを抱えると思います。しかし、本人も同じく「手がもっと動いたらな・・歩けたらな・・」といった様々な悩みやストレスを抱えていることを忘れてはいけません。介護者にその気がなくても、ついつい上から目線で接してしまい、本人を傷つけ、喧嘩になることも少なくないでしょう。
「麻痺を治したらいいんじゃないの?」と考える方もおられると思います。確かに、片麻痺はリハビリなどによってある程度は回復しますが、何かしらの後遺症が残るケースのほうが圧倒的に多いです。結果残ってしまった部分とは一生付き合っていかなければいけません。
したがって、上手に片麻痺と付き合っていく為にも、片麻痺の特徴や介護のポイントを押さえておく必要があります。
<目次>
1.片麻痺の症状や特徴を知るには、まず「脳」ついて理解しよう
片麻痺は脳卒中などの脳の病気の後遺症として現れます。
そして、片麻痺の原因である脳梗塞や脳出血はその名の通り「脳の病気」です。したがって、片麻痺の症状や特徴を理解するためには、まず人間の「脳」について理解することが大切です。
脳の仕組みやその役割について知ろう
脳は、身体を動かす運動神経や視覚(視る)、聴覚(聴く)などの知覚神経、思考、学習、知性、感情といった人間活動すべてをコントロールしています。 そして、脳は大きく次の3つの部位に分けられます。
- 大脳
- 小脳
- 脳幹
脳の中の司令塔「大脳」について知ろう
3つに分けた脳の部位の中でも「大脳」は、”運動”や”視覚”、”聴覚”、”思考”、”記憶”、”学習”、”知性”、”感情”といった、人間活動全般をコントロールしているいわば司令塔的存在です。
大脳の表面部分のことを「大脳皮質」と呼びます。まず、脳と聞いて誰しもが初めに思い浮かべるあの「しわ」の部分です。なんと、大脳皮質は、100億以上の神経細胞から成り立っています。大脳皮質のしわの太さや曲がり方には多少個人差がありますが、しわの位置に個人差はなく規則的に並んでいます。
そして、大脳皮質はこの大きなしわを基準に①前頭葉、②頭頂葉、③側頭葉、④後頭葉の4つの部位に分けられます。
2.前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の役割
前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉には、それぞれ担当する役割(運動、感覚、視覚、聴覚、言語、思考など)があります。脳卒中の後遺症で手足に麻痺が残る人もいれば、言語が上手く使えなくなる人もいるのは、障害された脳の部位が異なるためです。では、各部位がどのような役割を担い、脳卒中により障害を受けた時どのような症状が後遺症として現れるのか確認していきたいと思います。
前頭葉
前頭葉は、大脳の前方の部分です。前頭葉は脳の中でも最高中枢と考えられています。主に、人間の思考や判断力、感情といった生きていくための意欲や実行機能などを司っています。また、手足などの身体を動かす運動機能や言葉を発声する運動言語の制御も担っています。したがって、前頭葉に障害が生じると、次のような障害が生じます。
- 感情障害
- 理性がきかない
- 運動障害性構音障害
- 上口唇やのどの筋肉が麻痺し呂律が廻らず、上手に言葉が喋れない運動障害(言葉の理解には問題はない)
- 失語症(運動性失語、ブローカ失語)
- 発語がぎこちなくなる(言葉の理解・筋肉運動には問題はない)
- 運動機能障害
- 手足などの運動機能に問題が発生
後頭葉
後頭葉は、大脳の後方の部分です。色や大きさ、形、距離といった視覚や色彩情報を認識し、解釈する働きをコントロールしています。したがって、後頭葉に障害が生じると、次のような障害が生じます。
- 視覚障害
- 同名半盲(視野の片側見えなくなる)、複視(2重に物が見える)、視野障害(両目または片目の視野が欠ける)
側頭葉
側頭葉は、大脳の側面の部分です。記憶や学習の機能のほか、会話や音楽のような聴覚情報や臭いのような嗅覚情報、味覚情報を認識する役割も担っています。したがって、側頭葉に障害が生じると、次のような障害が生じます。
- 記憶障害
- 昔のことが思い出せなくなったり、最近のことが覚えられなくなる
- 失語症(感覚性失語、ウェルニッケ失語)
- 耳は聞こえるが何を聞いているか理解できない(言葉や聞き取れるが言葉の意味が理解できない)
- 嗅覚障害
- 臭いがしているのは分かるが、何の臭いか認識できなくなる
頭頂葉
頭頂葉は、大脳のてっぺんからやや後方の部分です。主に、身体の様々な部位からの感覚情報を分析して、身体の動きをコントロールする役割を担っています。また、身体の位置や空間認識を司る高次脳機能を担う部位でもあります。したがって、頭頂葉に障害が生じると、次のような障害が生じます。
- 感覚障害
- 感覚の麻痺、しびれ、触覚、痛覚、温度感覚の鈍化
- 左右失認
- 左右の方向が分からなくなる
- 半側空間失認
- 左右どちらか片方の空間を認識出来なくなる
- 失算
- 計算できなくなる
- 失行
- 一連の動作が出来なくなる。例えば料理の手順や道具を使った作業ができなくなる
3.脳梗塞や脳出血と片麻痺との関係性
脳機能障害の重症度は、脳が損傷を受けた範囲と部位によって決まります。
つまり、後遺症の程度は、「急性期の重症度」や「障害された脳の部位」に応じて個人差があります。当然、”急性期の重症度が重い”あるいは”障害された脳の部位が広範囲に及ぶ”ほど、後遺症は強く様々な障害が現れます。
脳卒中の後遺症で一番多い片麻痺の運動障害
脳卒中の後遺症としてもっとも多くみられるのが運動障害であり、現れる症状のほとんどが片麻痺です。ダメージの受けた脳が左側の場合、反対側の右手足に麻痺が現れます。片麻痺の程度は以下のように様々で個人差があります。
- 痙縮
- 不全麻痺
- 完全麻痺
片麻痺の感覚障害
感覚を司る神経は、運動を司る神経とほぼ並んで配置しています。その為、麻痺などの運動障害が発生すると同時に感覚障害も伴うことがあります。手足にしびれを感じたり、物に触れても感覚が鈍くなったり、熱い・冷たいものに対する反応が鈍くなります。そのため、血行不良で床ずれ(褥瘡)ができても、重症化するまで気が付かないことがあります。
当然、障害が軽度の場合は、後遺症が軽いので無理なく1人で日常生活を送れますが、重度の場合は、介護者さんなどの手助けがないと日常生活を送ることが難しくなります。
4.右半身麻痺と左半身麻痺の違い
脳の神経は首のあたりで交差しています。その為、右脳の司令は左半身へ、左脳の司令は右半身へと伝達されます。したがって、右脳に障害がある場合は、左半身の運動機能が障害されて左半身麻痺が、左脳に障害がある場合は、右半身の運動機能が障害されて右半身麻痺が現れます。
左麻痺・右麻痺の共通症状として、次のようなものが現れます。
- 片側の手足の運動機能
- 片側の手足の感覚の麻痺
- 構音障害(口や舌が麻痺し、発音が上手くできなくなる症状)
- 同名半盲(患側=麻痺のある側の視界が狭くなる症状。それぞれの目の視界が半分が欠けている状態です。左麻痺の場合は左目の視界が欠けます)
また、右半身麻痺でしか現れない障害、左半身麻痺でしか現れない障害もあり、介護者はそのことをよく理解して接することが重要です。
5.右半身麻痺の人の介助方法
右半身麻痺の特徴
左側の大脳が障害されると、言葉に関連する機能が特に障害され、頭では分かっているのに言葉にできない失語症という症状が現れることがあります。
失語症については「言語障害とは?構音障害と失語症の症状と原因」でさらに詳しく解説しております。
右半身麻痺の人の介護のポイント
右半身麻痺の人は、上手く話せなくなることがよくあります。いわゆる失語症というもので、 頭では理解しているのに 言葉にして上手く表現できなくなります。その為、本人は、苛立ちを覚え短気や暴力的になる人もいます。介護者はそのことを理解したうえでやさしく接してあげて下さい。
失語症は、とてもゆっくりですがリハビリや日常会話を何年かかけて繰り返している間に少しずつ回復していきます。ですので、ご家庭では粘り強く、急かさずに接して下さい。次の7つのポイントを心がけると良いでしょう。
- 言葉は短く区切ってゆっくりと話す。
- 文字や写真、ジェスチャーを使って説明する。
- 「YES」「NO」で答えられる質問をする。
- 話を先取りしない。
- 理解できたふりをしない。
- 何度か確認する。
- 別の言い回しで言い方を変えてみる。
言語障害(失語症・構音障害)の方とのコミュニケーションのコツ3選言語障害(失語症・構音障害)のリハビリテーションのススメ
6.左半身麻痺の人の介助方法
左半身麻痺の特徴
左半身麻痺の特徴的な症状は次のようなものです。
- 病態失認
- 自分の病状が理解できなかったり、ごく軽く考えたりする。重度の麻痺で起き上がれない人でも、病状を尋ねると「ただ腰が痛くて寝ているだけで、歩けますよ」と言ったりする
- 左半側空間無視
- 空間の左側を無視してしまう
- 注意障害
- 注意障害は、一度に複数のことをしたり複雑な事柄を行ったりする能力が極端に低下する(容量性注意障害)、集中力が持続できない(持続性注意障害)、注意を払うべきことに注意が払えず散漫な様態になる(選択性注意障害)、がある
- 身体失認
- 自分の身体の左側が存在しないような感じで行動する
こうした症状によって、左麻痺の方には次のような特徴が見られます。
- 自分の症状がピンときておらず現状を理解できていない。
- 左手足に注意が払えない。例えばお膳全体を見渡すと左側の食べ物に気づきにくくなる。それぞれの椀や皿に目が行くと、左側の食べ物に気づかない。
- 周囲の障害物を見落としたりする。
左半身麻痺の人の介護のポイント
介護者から見ると、「性格が変わってしまった」「ボケてしまった」ように見える行動も、左半身麻痺特有の症状からきている場合もあります。病状をよく理解し、少しずつ左側に注意が向くように働きかけることが大切です。また、身体失認や注意障害により、家の中や車椅子での移動の際、障害物にぶつかりやすいため、家具などの配置や誘導など介護者は十分に注意しましょう。
左半身麻痺の方は、性格が変わってしまったり、集中力が長く続かなくなったりします。介護者はイライラしてしまうこともあるとは思いますが、そこは”後遺症のせい”だと割り切って下さい。過度の期待は本人、介護者双方のストレスとなります。
7.片麻痺のリハビリテーション
脳卒中により、脳の神経細胞がダメージを受けた場合、2度とその機能は回復しないというわけではありません。一度途切れてしまった神経ネットワークを、つなぎ直しネットワークを修復することで、失われた機能を取り戻すことができます。この脳の代償機能を働かせる為には、リハビリテーションが必要です。
一般的に片麻痺などの運動機能の回復期間は、発症後4~6か月と言われています。それ以降は、回復の程度は徐々に緩やかになっていきます。したがって、回復が望める間に重点的にリハビリに取り組むことを強くオススメします。
しかし、運動機能の回復期間が過ぎたから、もうリハビリでの機能回復が見込めないというわけではありません。たとえ回復期を過ぎたとしても、自分のことを自分でする能力(ADL)の改善は望めます。麻痺からの回復だけにこだわるのではなく、日常生活動作の回復を目的としたリハビリにシフトし、それを継続していくことが大切です。自分でできる事柄を増やしていくことは、きっと生きる意欲の向上や介護負担の軽減に繋がるはずです。