脳出血・梗塞のリハビリはどうするの? 知っておきたいリハビリの基礎知識
皆さんは、家族が脳卒中(脳梗塞や脳出血)で倒れ後遺症が残ってしまった場合、どのように治療を進めていけば良いのかご存知でしょうか?
手が動かない、歩けないなど「失われてしまった機能」を取り戻すにはリハビリテーションが大切ということは、誰でも一度は耳にしたことがあると思います。でも、今まで家族や親戚に脳卒中で倒れた人がいなかった場合、具体的なイメージが湧かない方も多いのではないでしょうか。
- そもそもリハビリって何するの?
- どんな効果があるの?
- いつごろから始めればいいの?
しかし、病は突然やってきます。大切な家族が脳卒中で倒れてしまった時に、あなたがリハビリに関する知識を持ち合わせているかどうかで、その後の本人や家族の人生が大きく左右されてしまうといっても過言ではありません。あなたが必要最低限の知識を持ち合わせていなかった為に、最適なリハビリが受けられず”本来取り戻せたであろう機能”が回復せずそのままの状態で、後遺症として残ってしまったというケースもあります。
著者も、”リハビリについてもっと知っておけば良かった”と後悔している中の1人です。母が脳出血で倒れた時に”もっと早い段階でリハビリの目的や重要性を知っていれば、もっと回復していたのではないか”と酷く後悔しています。
皆さんには、同じような後悔をして欲しくはありません。その為にも、この記事で脳卒中(脳梗塞や脳出血)を起こした方にとって、いかにリハビリテーションが重要なのか、その目的や基礎知識を交えて確認していただければと思います。
1.リハビリの目標は機能回復と維持
リハビリテーションの目的は、病気によって低下した機能を最大限に回復させ、将来に向けて維持、向上させることです。また、患側(麻痺している側)の運動機能を回復させることだけではなく、健側(健康な側)の筋力を落とさないようにしたり、患側の関節が固まるのを防いだりすることも目的とします。
つまり、リハビリは”手足の自由が利かなくなった”、”上手に喋れなくなった”など、脳卒中(脳梗塞や脳出血)の影響で「失われた機能」を回復あるいは悪化させず、「失われていない機能」を維持・向上させることを目的として実施されます。
脳卒中により、脳が受けたダメージそのものを消し去ることはできません。しかし、死滅した脳神経細胞が担っていた機能を新たな脳神経細胞が引き継ぐことで「失われた機能」の回復が可能となります。これを脳の代償機能といいます。この代償機能を最大限に活かし、後遺症を改善させるためには、後にも先にもリハビリしかありません。
リハビリは、”歩く”、”ご飯を食べる”、”着替えをする”といったADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の維持・向上、さらには社会復帰も視野に入れて行われます。
2.リハビリはいつごろ開始するのがベスト?
皆さんは、「一日中寝ていたら、次の日身体の動きがかなり鈍くなってしまった」なんて経験はございませんでしょうか?
人の筋肉は、1週間寝たきりの状態が続くと約15~20%低下してしまいます。そして、元の筋肉量に戻すには、なんと1ヶ月近くもの時間が掛かってしまうと言われています。健康な人が、1週間安静にしていただけでも、これだけの筋肉量の低下が見られます。ましてや、脳卒中(脳梗塞や脳出血)で1ヶ月近くも意識が戻らなかった人はどうでしょう?
かつては「脳卒中の後は、動かすと危険」という見方が常識とされており、長期間の安静を保った後にリハビリを開始することが多かったものです。しかし、この間に症状が固定してしまったり、廃用症候群によって治療が必要になったりなど、リハビリが進まないケースが多発していました。
廃用症候群とは、長い間、身体の機能を使用しなかったために、身体の組織や器官が徐々に萎縮したり衰えたりする状態のことです。筋力の低下、関節の拘縮(こわばり)、筋肉や骨の委縮、床ずれ(褥瘡)、心機能や肺活量の低下、うつ病等様々な症状が現れます。詳しくは下のリンクを参考にしてください。
また、一般的に麻痺が残った人が、リハビリによる大幅な機能の回復が期待できる期間は、脳卒中の発症後4~6ヶ月と言われています。したがって、現在では、脳卒中の発症後、できる限り早期にリハビリが開始されるようになっています。急性期で意識がない状態の人に対しても、軽いリハビリやマッサージをするのもこれが理由です。
3.リハビリ不足によって寝たきりになるケースも
寝たきりというのは、「1日中ベッドで過ごし、排泄、食事、着替えにおいて介助を必要とする」状態です。
脳卒中(脳梗塞や脳出血)で寝たきりになる原因としては、次のようなものが考えられます。
- 脳卒中の症状が非常に重く、脳のダメージが広範囲に及んでいるケースです。このような場合、後遺症も重くなるので、自発的に動く意欲や身体機能も、著しく低下してしまうことが多いです。
- 脳卒中の他に病気を持っているケースです。認知症やパーキンソン病などによって運動機能や認知機能に問題がある場合も寝たきりになるリスクが高まります。
- 老化によって、元々の体力が低下している高齢者のケースです。
- 急性期や回復期に、十分なリハビリテーションが実施できなかったケースです。リハビリによる機能回復は、時間が経過するほど緩やかになっていきます。その為、なるべく早い時期に適切かつ重点的なリハビリを実施することが推奨されています。
上記のような原因から、結果的にADL(日常生活動作)が低下し、寝たきりになりやすくなります。
それでは、上のリストで出てきた”急性期”、”回復期”、”維持期”といった言葉について詳しく説明していきます。まず、リハビリテーションは、”急性期”、”回復期”、”維時期”と三段階で構成されています。
- 急性期
- 手術による症状が急激に現れ全身管理を必要とする時期。症状の発現が急激で、生命の危機状態にある。
- 回復期
- 生命の危機状態から脱し、症状が安定に向かっている時期。機能障害の程度に応じた日常生活・社会生活への適応を促す。
- 維持期
- 症状・徴候は激しくないが、治癒することが困難な状態が長期間に渡り持続する時期。長期間の管理、観察、あるいは治療、看護が必要とされる。
4.リハビリで肺炎などの感染症も妨げる?
急性期のリハビリテーションは、ADLの回復だけを目的に行われるだけでなく、急性期に合併しやすい病気を予防するためにも、重要な役割を果たします。
急性期に最も合併しやすい病気の1つが”肺炎”です。特に、安静が必要な時期には誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。誤嚥性肺炎は、飲み込む機能や咳をする機能が弱くなることで、唾液や逆流した胃液が気管に誤って入ることで起こります。
このほか、おしっこの管理の為に膀胱にカテーテルを入れている場合には、尿路の感染症が起きやすくなります。また、胆汁などの流れが悪くなることによって胆嚢炎、胆管炎なども起きやすくなります。心臓の機能が低下することもあります。
感染症だけでなく、安静にしていると深部にある静脈に血栓ができ、この血栓が肺に移動すると肺塞栓症を引き起こします。いわゆるエコノミークラス症候群のことです。この他にも、安静にしていることによる弊害は数限りなくあります。その為、寝ている時間をできる限り少なくし、ベッド上で座ることが出来る状態であれば立つ訓練をし、立てるのであれば歩く訓練をするというように、一歩先を見据えてリハビリテーションに取り組んでいく必要があります。
5.リハビリに最適な病院選びのポイント
脳卒中(脳梗塞や脳出血)の後遺症が全くない場合、あるいは、後遺症があっても日常生活を送るにあたり大きな影響がない場合は、治療が終了した段階で退院することが可能になります。一般的に、脳卒中の治療に必要な入院期間は、2~4週間程度です。
しかし、片麻痺などの後遺症がある場合や、さらに治療を必要とする場合は、急性期を出てから他の病棟や病院に転院しなければなりません。ここで重要になってくるのが、「その人にとって最適な病院を選べるかどうか」です。ここで、安易に病院を選択してしまうと、期待したリハビリの効果が得られないなど問題が生じる可能性が高まります。
病院の種類
病院の種類は、今後リハビリや治療を進めていく目的に応じて次のように分けられます。
- 一般病棟
- 急性期に必要な入院治療を行う病棟で、病状が安定すれば退院しなければならないため長期の入院はできません。比較的後遺症が軽く早期の社会復帰を目指す人向けです。
- 回復期リハビリテーション病棟
- リハビリを集中して行う病棟で、制度上受け入れの時期や入院期間に制限があります。状態の安定後も後遺症があり、継続したリハビリが必要な人向けです。
- 療養病棟
- 継続的な医療行為が必要で一般病棟や回復期リハビリ病棟から直接自宅復帰できず、施設にも入所できない人向けです。
積極的にリハビリテーションに取り組むことを前提とした場合、できる限り次の順番で調整することをお勧めします。
- 回復期リハビリテーション病棟
- 一般病棟
- 療養病棟
なぜなら、回復期リハビリテーション病棟では、文字通り理学療法士などのリハビリを専門にしているスタッフが多数在籍しているので、重点的にリハビリに取り組めるからです。それでは、回復期リハビリテーション病棟の入院条件などについて、詳しく説明していきたいと思います。
回復リハビリテーション病棟とは
入院条件
回復期リハビリテーション病棟には、一定の入院条件が定められています
- 脳梗塞や脳出血などの脳卒中の場合、発症後2ヶ月以内の入院が原則
- ある程度病状が安定している人
回復期リハビリテーション病棟と一般病棟との違い
病院のリハビリ方針の違い
回復期リハビリテーション病棟は、失われた機能の再獲得の場です。回復期リハビリテーション病棟には、理学療法士や作業療法士などのリハビリスタッフが多く在籍していて、患者さんはリハビリの対象の方しかいらっしゃいません。その為、病棟スタッフは患者様の機能回復を援助することに集中することができます。
一方、一般病棟では、急性期の治療の必要な方とリハビリテーションの必要な方が混在していて、リハビリの専門家の比率も回復期リハビリテーション病棟と比較して低い傾向にあります。
時間の違い
一般病棟では、1日最大2時間までのリハビリしか行えませんが、回復期リハビリテーション病棟に限って、1日最大3時間までのリハビリテーションが受けられます。回復期リハビリテーション病棟では患者1人に対し、1日に9単位までリハビリテーションが行えます。つまりは1単位が20分である事より、最大180分(3時間)までリハビリテーションを実施できます。
また、一般病棟では、土日祝日はリハビリがなかったり、午前だけということが少なくありません。ですが、回復期リハビリテーション病棟では、スタッフが多数在籍していることもあり、土日祝日休みなしでリハビリを受けることができます。
一般病棟 | 回復期病棟 | |
---|---|---|
一日のリハビリ時間 | 最大2時間(6単位) | 最大3時間(9単位) |
リハビリのスタッフ数 | 少ない | 多い |
土日祝日のリハビリ | 午前中だけ、無いことが多い | 土日祝日もある場合が多い |
良い回復期リハビリテーション病棟を選ぶポイント
それでは、数ある回復期リハビリテーション病棟から、どこの施設を選べば良いのでしょうか?次のポイントを参考に選んでいただければと思います。
- リハビリテーション専門医がいること
- 看護・介護スタッフの人数が豊富であること
- 療法士によるリハビリ時間が長いこと
- チーム力を感じる雰囲気やスタッフの雰囲気が明るいこと
回復期リハビリテーション病棟は「看護師・介護士を合わせて2ベッドに1人以上」と定められていますが、人数がより多いほど、食事や排泄の際に手厚い支援を受けることができます。また、最低でも1日2時間(=6単位)以上、できれば3時間のリハビリを実施している施設が理想です。
7.リハビリテーションはチーム医療
個々の患者によって状態が異なり、どのくらい動けるか評価したり、リハビリ内容を決めていきます。その為、医師や看護師だけでなく、様々な専門職がチームを組んでリハビリテーションに取り組むことになります。
- 理学療法師(PT)
- 寝返りを打つ、起き上がる、座る、立つ、歩くなど筋肉や関節が関係する基本的動作能力の回復を図る訓練を行います。理学療法(運動療法)、物理療法などを通じて、残存能力を活かしながら自立を促します。
- 作業療法士(OT)
- 上肢や手指の運動機能の回復を促すリハビリを行います。折り紙、手芸、手遊び、箸や茶碗などを使った食事動作、ゲームなどを通じて、日常生活動作がスムーズに行えるように訓練します。
- 言語療法士(ST)
- 失語症や構音障害など言葉によるコミュニケーションの回復を図るための療法を行います。また、言葉を発する際に用いる口や舌の動きと関連して、嚥下障害や摂食障害などの訓練も行います。
- 臨床心理士(CP)
- 心理的不適合、知的機能低下などに対して評価を行い、病気を受け入れる為のカウンセリングや知的刺激アプローチなどを行います。
- 医療ソーシャルワーカー(MSW)
- 在宅での療養に向けて、社会資源を有効に活用するための援助を行います。また、転院が必要な場合の援助も行います。
- ケアマネージャー
- 障害の為に在宅での介護が必要となった場合に、介護保険制度で受けられるサービスプランを作成します。
- 家族
- 期待したような成果が得られないとリハビリに対する意欲を失ったり、自暴自棄になるようなケースが多く見られます。この様な場合は本人の最大の理解者でもある家族の応援が何よりも大きな支えになります。
8.予後の予測を知ることも大事
脳卒中後に麻痺が生じても、リハビリを行う過程で、麻痺して動かなかった手足が動くようになり、介助を受けずに歩けるようになるまで、回復する例も見受けられます。「回復したい」という患者の意欲とヤル気が、リハビリテーションの効果を最大にし、継続させる大きな原動力になります。
しかし、残酷ではございますが、いくらリハビリを重ねても、完全に回復するケースばかりではありません。そういう場合は、歩行器や杖、車椅子などの介助器具を用いて訓練したり、退院後に生活しやすいように住宅をバリアフリー化するなど環境整える必要も出てきます。
現在の機能回復状態を評価し、運動麻痺の回復やADLの自立度、退院時期など将来の見通しを予測したものを「予後予測」といいます。これはある意味ではリハビリの限界の告知とも言えますが、限界を知ることも、その後のQOL(生活の質)を高めるためには必要なことです。過度な期待は、介護者・要介護者双方にとってもストレスの原因となってしまうということを気に留めておいて下さい。
まとめ:リハビリは退院後も一生続く
日常生活に戻っても、回復した機能を維持するためにリハビリを続ける必要があります。後遺症が軽い場合は日常生活の中でできる範囲で身体を動かすことがリハビリに繋がります。麻痺などが残っている場合は、近隣のデイケア(通所リハビリ)や訪問リハビリなどのサービスを利用するケースもあります。
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