認知症の上手な対応~接し方1つで症状が良くも悪くもなる~

認知症接し方

さあ突然ですが、ここで認知症ク~イズ!!

あなたは認知症の母を介護しています。 ある日、母が「お前が私の財布を盗みやがった。返せ~」とあなたを責めてきました。しかし、財布はいつもの引き出しにキチンとしまっています。この様な状況で、あなたはどのような対応をしたらよいでしょうか? 次の選択肢からお選びください。

  • A.「お母さん家族のわたしを疑うなんてひどいじゃないですか?いい加減にしてください」といって責める
  • B.「いつもの引き出しにしっかりしまっています」としれっと財布を差し出す
  • C.「そのうち出てきます」と言って放っておく

みなさん、正解は分かりましたか?実は、この中に正解はございません。もし認知症の方に、選択肢ような接し方をしてしまうと認知症の症状が悪化してしまう恐れがございます。それでは一体、どの様に接することが正解なのでしょうか?これから、その答えを一緒に探っていきましょう!

1.認知症の中核症状と周辺症状とは?

そもそも、なぜ認知症のお母さんはこのような行動をとるのでしょうか?それを理解する為には、まず認知症の症状にはどういったものがあるのか知っておく必要があります。

認知症の症状は、大きく分けて「中核症状」と「周辺症状」の2タイプに分けられます。

認知症症状

中核症状
脳の変化に伴って現れてくる脳の機能の障害で、数ある認知症の症状のうち必ず起こる症状のことをいいます。分かりやすく言うと「主な症状」にあたるもので、記憶障害や見当識障害といった認知機能の障害のことです。
周辺症状
本人の性格、身体状況、生活環境、家族や周囲の人との人間関係、過去の体験など様々な要因が複雑に絡み合って現れてきます。

そして、さらに周辺症状は「心理症状」と「行動症状」に分かれます。

  • 心理症状には、抑うつ、不安、焦り、幻覚、妄想などがあります
  • 行動症状には、徘徊、暴力、暴言、睡眠障害、食行動の異常、失禁、無反応、介護に対する抵抗などがあります

このお母さんの場合、妄想障害の一種である「もの盗られ妄想」が出てしまったといえるでしょう。「もの盗られ妄想」は、お金で苦労した過去や介護者と本人との間で仲が悪い場合など自分が優位に立ちたいという気持ちがあると、この妄想が強く出たりすることがございます。

そんな「周辺症状」の厄介なところは、もし選択肢のように本人を責めたり、無視したりすると症状が悪化してしまう恐れがあることです。

2.認知症の人への対応・接し方を間違えると症状が悪化してしまう?

認知症悪化

認知症の初期の段階では、本人自身もその症状に違和感を抱いていることがあります。「なぜこんなことをしてしまったのか、なぜ思い出せないのか」など、「できなかったこと」への憤りや不安、戸惑いを感じています。

そんな時に、Aのように認知症の人を責めてプライドを刺激してしまうとどうでしょうか?また、Bのように無視すると何を感じるでしょうか?
きっと意固地になったり、プライドが傷ついたり、深い孤独感を感じてしまうのではないでしょか。次第に相手と距離を置き、自分の殻に閉じこもってしまうかもしれません。

認知症の予防・改善には、他人とのコミュニケーションやふれあいが必要不可欠です。逆に、他人とのコミュニケーションやふれあいがないと認知症の症状がますます酷くなってしまう一方です。

では一体、認知症の人に対してどのように関わっていけば良いのでしょうか?その答えを今から探っていきましょう。

3.認知症の人と接するときの5つのポイント

1.穏やかな気持ちで接して味方であることを理解してもらい、できるだけ不安を取り除く

認知症ストレス

認知症の人は、今まで当たり前だったことができなくなったり、知っているはずのことが分からなくなったりするなど、自分の変化に戸惑い、大きな不安を抱えています。

記憶力や判断力は低下しても、自尊心や羞恥心といった感情は、ずっと後まで残っています。周りの人から、自分の考えや記憶は間違いだと指摘されれば、ますます不安に陥り、自分自身を見失ってしまうかもしれません。

この様な不安な状態が続くと本人にとっては大きなストレスとなり周辺症状が悪化することがあります。抑うつが強くなって閉じこもったり、攻撃的になることもあります。

まずは、支援する家族が穏やかな気持ちで接することを心掛けて、じっくりと話を聞く姿勢を持つことから始めましょう。認知症の人の不安を受け止めて、味方であることを分かってもらい、安心してもらいましょう。優しく体に触れるなどのスキンシップも大切です。

2.言葉や行動を先取りせず、できないことだけ手助けする

手伝い

認知症の人は、だんだんと「できないこと」が増えてはいきます。

しかし、日常生活の中で「1人でできること」「1人では難しいけれど少しサポートがあればできること」が介護をしているうちに段々と分かってきます。認知症だからできないと決めつけて、すぐに介護者さんが手を貸してしまうと、段々と本人の意欲が無くなっていき認知症が悪化してしまうかもしれません。

だからと言って、すべてを任せるだけではいけません。支援する人に必要なのは、「厳しく接したり」「すべて片づけてしまったり」することではなく「本人に残っている能力を活かす」という視点です。

服の着方が少しくらいおかしくても本人が満足しているならそれで構わないのです。周りにあれやこれやと口や手を出されると、感謝どころかかえって抵抗されてしまうかもしれません。抵抗されることで、さらに介護負担が増えていく・・・という悪循環に陥ります。

考えられないような言動があったとしても、認知症に常識はないものと割り切って、余裕を持って見守りましょう。結局はそれがお互いの負担を減らすことにも繋がります。

3.さりげなくアドバイスする

advice

認知症の人は、自分ができなかったり、忘れたりすると少なからずプライドを傷つけられています。しかも、家族にそれを指摘されると、ますますプライドは傷つき意固地になってしまいます。

こんな時は、指摘するのではなく「さりげなくアドバイスをする」ことが大切です。例えば、トイレの場所を忘れてしまい、もぞもぞしている時は、「ここがトイレです」と教えるのではなく、「こんなところにトイレがある」とあたかも自分も今気が付いたかのような言い方で、さりげなくトイレの場所を示しましょう。

4.無視したり、孤立させたりしない

孤独

認知症の人は様々な不安を抱えるとともに、孤独を感じやすくなっています。

自分の話を信じてもらえず否定されたり、存在を無視されたりすると、誰でも辛いものです。認知症の人であれば、なおさら「誰も自分のことを分かってくれない」と心を閉ざしてしまうかもしれません。

認知症の人の場合、自信の身体の変化に対する不安と、誰にも理解されないという孤独が、周辺症状を悪化させます。

症状の悪化を防ぐためにも、まずお年寄りを孤立させないことです。自分がまだ周囲の役に立つ人間であると自覚してもらうことが大切です。その為にはできるだけみんなと同じように接し、上手く他人と交流できるようにしましょう。

5.過去の体験を大切にする

過去の体験

認知症の周辺症状の現れ方には、強く記憶に残っている過去の体験が影響していることがよくあります。

例えばとても大事な人や物をなくして歩き回った経験がある人は、その時の記憶が強く残っており、どうにも歩き回らないと気が済まない、という症状が現れることがあります。それが周りからは、意味もなく徘徊しているように見えてしまうのです。

認知症の人は、古い出来事ほど鮮明に覚えている傾向にあります。思い出に残っていることは、本人も話していて楽しいものです。過去にどのような体験をしてきたのか、じっくりと話を聞いてみましょう。自信を無くしている本人にとっては、過去の成功体験などを思い出すことで、自信を取り戻すこともあります。

4.認知症の進行度別対応ポイント

認知症の人に見られる症状や行動は、進行度によっておおよその目安があります。

進行度 認知症の症状進行度別対応チャート
軽度 記憶障害が始まり、少し前のことを覚えていなかったり、同じ話を何度も繰り返したり、手順が決まっている作業(料理など)で失敗したりすることが増えていきます。この様な時は本人の言葉に耳を傾け、否定の言葉を含めずに、さりげなく軌道修正したりしましょう。
中度 記憶障害がさらに進み、見当識障害もみられるようになり、同じものを何度も買ってきたり、季節や天候に合わない服装をしたりします。この様な時は、一緒に行動することで、さりげなく手助けすると良いでしょう。
高度 記憶障害や見当識障害がさらに進むと、家族の顔が分からなくなったり、それまではできていた着替えなどの日常生活動作が出来なくなったりします。この様な時は、会話の中に不足している記憶を補う言葉を入れたりすると良いでしょう。

5.認知症クイズの答え

認知症の人と上手に接する為には、認知症の人との接する時の5つのポイントをしっかりと押さえ、認知症を受け入れて「指摘しない、議論しない、叱らない、急かさない」ことが何よりも大切です。

お年寄りの繊細な心を理解し、介護の時はゆっくりと構えお年寄りのペースに合わせながら、常にその人の人格を尊重し温かく接するようにしましょう。

「あっ!!そうでした冒頭のクイズの答えですが、ここまで読んで下さった方なら、もう答えが分かったのではないでしょうか?」

そうです正解は、「本当ですか?財布がないと困りますね」等の共感的な言葉をかけながら一緒に財布を探し、本人に見つけてもらうよう、さりげなく誘導する」です。

犯人扱いされた人は嫌な気持ちがしてしまうかもしれませんが、すべては認知症が悪いと割り切りましょう。探し物は家族が先に見つけた場合でも、一緒に探して本人が見つけられるように誘導しましょう。通帳などは決まった場所へ保管し、その都度本人と一緒に確認しましょう。

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