ひとときの甘い時間
先生の話では、母の準備が整うまでには1時間ほどかかるようだ。私達はその間に、遅ればせながらの朝食を頂くことにした。
院内のコンビニにて、各々が思い思いのご飯を購入し、その後休憩ルームへと向かい、いま買ってきたものを食べることにした(私はおにぎり2つとお茶、それに”シュークリーム”を1つ購入した)。
昨晩から一睡もしていない為か胃は荒れ放題であり、また手術中は一切ものを口にする気が湧かなかった為、おにぎりを2つも食べきれるか不安であったが、そんな心配をよそに、食欲が堰を切ったように湧き上がりあっという間におにぎり2つを平らげてしまった。これは私だけではなく、父と弟も同様であった。
そして、さらに3人ともに共通していたことは、甘いものを購入していたことだ(父は大福を弟はエクレアを購入していた)。後に思うに、これは疲労により体が甘いものを欲したという理由だけではなく、各自が無意識に母の手術の成功を祝い甘いものを欲していたようである。その証拠に、数十分前までの暗い表情がまるで嘘のように、3人ともが母との再会に思い焦がれながらいそいそと甘いものを口一杯にほうばっていた。
そして、ちょうど、皆が朝食を食べ終えた時だ。
父の携帯が「トゥルルル、トゥルルル」と鳴り響いた。
「はい、もしもし、はい、はい・・・」父は携帯電話を手に取り電話の向こうの相手と話し始めた。がしかし、数十秒も経たないうちに父は電話を切り目を見開き、私たちに言った。
「準備ができたらしいぞ」
私達は、胸を高鳴らせながら母のいるICUへと向かった。
しかし、この時は知らなかった自分たちの考えがどれほど甘かったのかということを・・・
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