しなびた喫茶店

病院の隣にあるしなびた喫茶店に移動し、看護師さんから聞いた話を父と龍也に話した。

二人は、何とも言葉にし難い心境で私の話を聞いていたに違いない。

それもそのはずだ。

暗い部屋の中に設置された扉から一瞬光が差し込んだにもかかわらず、すぐに扉が閉まった上に見えたのが偽物の光かもしれないと告げられたのだから。だが同時に、本物かどうかわからないが一瞬扉が開かれ、そこから光が垣間見えたのは紛れもない事実なのだから。

今の私たちには、どんなに小さな可能性であっても、そこに希望を見出さずにいるわけにはいかなかった。

「お父さん、お兄ちゃん、とりあえずお母さんとの面会の時には、今日みたいにできる限り声をかけ続けよう。そしたら、今日みたいな反応をお母さんがしてくれるかもしれない。何回か続けているうちに、それが反射的なものか、お母さんの意思によるものか、きっと分かるはずやで」

達也は、サンドイッチを片手に持ち頬を動かしながら言った。

「おお、龍也のいうとおりやな。必死に声かけしたら、お母さんが気づいてくれるかもしれんな」

父は、笑顔を浮かべ決意に満ちた目で答えた。

「うん」

再度固く閉ざされた扉を、私たち3人の力で無理やりこじ開け、それが本物の光か偽物の光か確かめるよう計画したのだった。

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