待合室と走馬灯

opeway

時刻は午前5時過ぎ、遂に母の手術が始まった。

私達は、目の前に佇む手術室の扉をしばらく見つめた後、控え室へと向かった。

待合室には、私達の他にも何名かが待機していた。皆一同に程度の差こそあれ、深刻な顔つきをしており、室内はとても静かで重苦しい空気に包まれていた。

待合室は、雑誌が置いてある以外何もなく殺風景であった。しかし、この時ばかりは唯一の娯楽である雑誌すら読む気にはならなかった。

疲れからかそれとも絶望からか意識がはっきりしない中、私はここ数時間で起こった出来事を只々何度も思い出した。

おばあちゃんが倒れたという龍也からの電話、母の涙、暗闇の道路、おばあちゃんの遺体、先ほどまで元気だった母の急変、救急車に運ばれる母、哀れもない姿になった母との病院での再会と、一連の出来事が走馬灯のように何度も何度も頭の中を駆け巡っていった。
そして、それはさらに母との過去の思い出をも巻き込んでいった。

何人の人が待合室を入れ代わり立ち代わりしただろうか。私達3人だけが待合室に取り残されたまま、只々時間だけが過ぎていった。

「いがらしさん・・・・・」

「五十嵐さん・・・・・・・・・五十嵐さん」

塞ぎ込んだ顔を上げると、そこには男が立っていた。

「手術が終わりました」

時計の針は11時を指していた。

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