要介護5の母と共に|真夜中の悲劇Part14
階段を降り終えた場所から5メートルほど離れた場所に、10人程の人だかりができているのが見えた。
その群衆の中には、父はもとより、先ほど見た警察官、さらには次の現場に向かったはずの救命救急士までいた。そして、この群衆の誰もが、下の方を見て慌ただしく語りかけており、ただならぬ雰囲気を醸し出していた。
「なぜ、帰ったはずの救命救急士がいるのだろう?」と違和感を覚えながらも、私たち2人はその群衆に近づいていった。
「お父さんどうしたの?何があったの?」群衆の外から龍也が尋ねたが、父からの返事はない。
群衆の隙間から覗き込むと、“何か”に向かい声を荒げながら必死に声を掛けている父の姿が確認できた。そして、私たちは、父が話しかけている何かに視線をゆっくりと移していった。
「まさか・・・・」
その瞬間、私たちは無我夢中で群衆をかき分けた。そして、父の奥にいる“何者か”の正体を再度確認したのだった。
なんとそこには、まるで踏み潰された虫のように、震える手足をギュッと曲げ、悶え苦しむ“母”の姿があった。
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