要介護5の母と共に|真夜中の悲劇Part10

玄関扉は「キィー」と静かに音を立てながら開いた。

「誰だろう・・」

家の中から出てきたのは、水色の服を着た3人の救命救急士であった。どうも3人の救急救命士は、一仕事が終え次の現場に向かうようだ。

ということは、おばあちゃんは助かったのかもしれない。

私たち3人は、淡い希望を胸に救命救急士に軽い会釈と軽い感謝の気持ちを述べ、颯爽と家の中に足を踏み入れた。

玄関口からざっと家の中を見渡すと、夜中に似つかわしくなくほとんどの部屋に明かりが灯っていた。玄関口には、おばあちゃんと龍也の靴意外にも、何足かの靴が無造作に置かれており、聞き覚えの無い声がそこら中から聞こえてきた。

「龍也、龍也どこにいるの?」「おばあちゃんは大丈夫?」母は大きな声をあげた。

しかし、龍也の返事はない。「中に入ろう」父が言った。

父の言葉に従い、私たちは靴を脱ぎ土間に足を一歩乗せたその時、「ドスドスドス」と足音が聞こえた。家の奥から私たちの元に知らない小太りの男が近づいてきた。すぐに見知らぬ小太りの男の正体が、その服装から警察官だということが分かった。

「龍也は、龍也は、20歳くらいの男の子はどこですか?」母は焦りながら尋ねた。

「失礼ですが、どちらさまですか?」警察官は母の質問に答えずに質問をした。

「家族のものです。息子はどこですか?」母は直ぐに返答した。

「ああ、ご家族ですか。息子さんなら2階にいますよ」

母はその警察官の言葉を聞くやいなや、一目散に玄関のすぐ近くにある2階へと通ずる階段を駆け上がっていった。父と私は警察官に軽く会釈をし、母の後を追った。

私たちは十数段の階段を一気に駆け上がった。部屋のドアの前には、龍也とおばあちゃんの履物があった。

「龍也、龍也お母さん来たよ。大丈夫?」

私たちは、部屋のドアを開けた。

16畳の部屋はふすまで仕切られている。1つ目の部屋を抜けたその先が龍也の部屋だ。

私たちはすぐに1つ目の部屋に入り、龍也の部屋へと続くふすまを横手に開いた。

そこには、枯れ木のように立ちすくんできる龍也の姿があった。

「龍也大丈夫?おばあちゃんはどこに行ったの?」母は必死に龍也に声を掛けた。

龍也は私たちの方を振り返って小さく震えた声で言った

おばぁ・・・・・おばぁ・・・・・おばあちゃんが死んじゃった。おばあちゃんが死んじゃった。

顔をくちゃくちゃに泣きはらした龍也の足元には、布団が敷かれていた。その布団には静かに眠るおばあちゃんの亡骸が横たわっていた。

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