要介護5の母と共に|真夜中の悲劇Part11

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「お母さん、お母さん!お母さん!!」

母は、横たわる亡骸に視線を落とした瞬間、ストンと畳に膝をつき両手を口に当て、魂を絞りだすように悲しげな叫び声をあげた。そして、這うようにおばあちゃんの元へと近寄り、その小さな胸に顔を埋(うず)めながら縋る(すがる)ように声を掛けた。

「お母さん、戻って来て。お願いだから戻って来て。もっと早く気づいてあげられれば良かったのに・・・ごめんなさい。ごめんなさい。」

母は「後悔」や「感謝」さまざまな言葉をおばあちゃんに投げかけ続けた。まるで、あちらの世界からこちらの世界におばあちゃんを必死に呼び戻そうとしているかのようだった。

その後も、母は返事が返ってくるはずがないだろう相手に何十分も言葉を投げ続けた。しかし、時間の経過とともに、母はその願いが叶わないであろうことを悟り、同時におばあちゃんが亡くなったという現実を受け止め正気を取り戻していった。

母は、顔をスッと挙げ、そして龍也に声を掛けた。

「1人で怖かっただろう?一緒に付いていてあげられなくてごめんなさい」

そう言うと、母は息子を軽く抱きしめた。

「ううん、大丈夫。警察の人の話によると、他殺じゃなくて自然に亡くなったらしいよ。あんまり苦しまなかっただろうって、良かったね」と龍也も返答した。

手を解くころには、母の顔はいつもの強くたくましい母親の顔へと戻っていた。それと同時に、龍也の顔も落ち着きを取り戻していた。

「よし、親戚に連絡を取ってくるから、お父さんは龍也から詳しい話を聞いておいて」と言い残し、一階の電話機へと向かっていった。

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