要介護5の母と共に|真夜中の悲劇Part5
龍也は少しの期待を抱きつつ、扉を少し開き玄関口から家の中をざっと見渡した。しかし、やはり玄関の中の明かりはもとより、どの部屋の明かりもついていなかった。
龍也は得体の知れぬ恐怖から、なかなか家の中に足を一歩踏み入れることが出来なかった。
しかし、家の中に入らないわけにはいかない。
龍也は意を決し、恐る恐る家の中に足を踏み入れた。
「ただいま、おばあちゃんどこに居るの?」
「・・・・」
返事はない。
龍也は早く部屋の明かりをつけたかった。しかし、明かりを灯すスイッチはいつもおばあちゃんが龍也の帰りを待つ居間にしかなかった。
なので、真っ暗な家の中を、頼りない携帯電話の明かりをたよりに歩かざるおえなかった。
玄関から居間までは、曲がり角が3つある長い廊下を歩いていかなくては行けない。いつもなら何てことのない長い廊下を重い足取りで少しずつ壁伝いに歩き続け、ようやく何とか居間に辿り着いた。
暗闇の中、手探りでスイッチを探し出し、ゆっくりとそれを押した。
「カチッ・・・ピイイーン」
電球は1度点滅を繰り返した後、部屋全体に明かりを灯もした。
龍也は、一瞬目が眩んでしまったが、すぐに部屋中を見渡しおばあちゃんを探した。洗い場には、汚れを落とすためにおばあちゃんが水に浸けておいた食器があった。
しかし、居間のどこを探してもおばあちゃんはいなかった。
龍也は急いでトイレやお風呂場、おばあちゃんの寝室、応接室と部屋の明かりを片っ端からつけて回った。
しかし、おばあちゃんはどこにも見当たらない。
「おばあちゃんは家にはいないのだろうか?」と龍也は思ったが、ふと家の中でまだ探していない場所があることに気が付いた。それは、2階にある龍也の部屋だ。
「そこかもしれない。」
龍也は急いで自分の部屋へと続く階段を上った。部屋のドアの前におばあちゃんの履物があった。
「やっぱりここだ。」
龍也はドアを開け、部屋に一歩足を踏み入れた。
部屋の中は暗かったが、窓から入ってくる月明かりに照らされており、微かながら部屋の様子が窺うことが出来た。
しかし、すっかり明るいところに慣れてしまった龍也の目は、まだ暗闇には慣れてはおらずここでも部屋の明かりを付けなければいけなかった。
この部屋の明かりを灯すには、ちょうど部屋の真ん中にある古い木枠で囲われた照明から延びる紐を引っ張らなければならなかった。
龍也は急いで部屋の真ん中の照明から延びている紐を目指し、それを早く掴もうと手を前に伸ばしながら歩きだした。
2~3メートルほど歩いた辺りだろうか、龍也の足に何か大きなものが引っかかり転びそうになった。
龍也は頼りない月明かりを頼りにそれを確認すると、何か黒い大きな塊がベッドから自分の足元にかけて横たわっていることを確認した。
「まさかな・・・」
龍也は、それが何なのか確認をするために、急いで部屋の真ん中に行き照明から延びる紐を引っ張った。
「カチッ・・・カチッ・・カチッ・・ピイイーン」
電球は3度点滅を繰り返した後、部屋全体に明かりを灯もした。
そして、龍也はまだ明かりで目が眩む中、必死で目を凝らしそれを確認した。
「やっぱり・・・」
龍也の嫌な予感は当たっていた。自分のベッドに横たわっていた黒い大きな塊は、紛れもなくおばあちゃんその人であった。
直ぐにおばあちゃんが息をしているかどうか口もとに手を当て確認した。しかし、息はしていないのはおろか、身体は氷のように冷たくなっていた。
龍也は本能的に誰か助けを呼ぼうと窓に目を向けた。その時に初めて部屋の窓が開いていることに気が付いた。
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