救命救急センター
時刻は、夜中4時半。
当然のことながら、病院の正面玄関は閉ざされており、救急外来専用の入口だけが開放されていた。外からガラス越しに見える院内は、常夜灯だけが灯り、薄暗くどこか不気味さを漂わせていた。
私は、入口のすぐ横手にある受付案内の事務員に、弾む息を落ち着かせ声をかけた。
「先ほど、救急で運ばれてきた五十嵐の家族のものですが、どこに行けばいいですか」
「確認いたしますので、少々お待ちください」
カッタカッタ、カッタ・・・
「先ほど救急車で運ばれてきた五十嵐さんですね。現在、救急外来にて検査を行っておりますので、こちらのドアを入って右手奧にある待合室でお待ちくださいませ」
事務員の案内どおりに、私は救急外来へと続くドアを開け、薄暗い中待合室へと歩を進めた、ちょうどその時だ。
ガラッガラッガラッ
前方から医師と看護師が担架を押してこちらへと向かってくるのが、うっすらと確認できた。私は “あの担架には、母が乗っているにかもしれない、もし母なら「大丈夫、頑張って」と励ましの声をかけよう”と決心し、歩みを止め廊下の真ん中を譲った。
だが、私が励ましの声をかけることはなかった。
なぜなら、担架に乗り私の前を通り過ぎていく人物の、髪の毛は哀れもなく剃られ、顔面は痛ましいほどに大きく腫れてあがっており、私の知る母の姿とは似ても似つかぬものであったからだ。
“なんだ、別人か!お母さんじゃなくてよかった・・・”
内心不謹慎だと思いつつも“安堵の表情”を浮かべ、再び歩き出そうとした私の目の前を、顔面を白くし“絶望の表情”を浮かべた2人の男が通り過ぎていった。
「まさか・・・」
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