ストロボカメラ

douro

「真夜中やし、道路空いとるな」母のいとこは、法定速度ギリギリをキープしながらこう言った。

「茂兄さん、夜中やのに車出してもらってありがとうございます。助かりました」

「そんな、かたいこと言わんでええねんで。困った時はお互いさまやろ。お母さん無事やとええな」

「ありがとうございます」

「・・・」この会話以降、車内は静まり返り、暗闇の中を走る車の風切り音だけが、静寂を嫌うように悲しげな声をあげ続けた。茂兄さんが言ったように、真夜中の道路には、昼間のような賑やかさがなかった。

時折通り過ぎる対向車のライトが、まるでカメラのストロボのように“パッ”と車内を一瞬照らしては、また暗くしていった。私は、今の起こっている現実を否定するように、ただ神経をその光追う事だけに集中させていた。

何回車のストロボが光った時だろうか、茂兄さんの声が聞こえた。

「明君、もうすぐ速水台病院に着くで。思ったよりもはよ着いたわ」私は、おもむろにダッシュボードのデジタル時計に目をやった。時刻は4時28分をしめしていた。車は、病院に入るために減速し、最後の曲がり角を曲がり病院の入り口の前に止まった。

「明君、お母さんはたぶん救急救命センターや。おじさんも後から行くから先に行き」茂兄さんは、私にそういうと救命救急センターの掲示ランプを指さした。

私は、茂兄さんに軽い会釈をし、急いで車のドアを開け、赤く光るランプを目指し走った。

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