絶望と焦燥

night

救急車が家を後にしたあと、室内は先程までの異常な騒めきが嘘のように静寂に包まれていた。そして、室内には、私と警察官の2人だけが取り残された。

「お母さん大丈夫やとええな。心配やろうけど残ってもろうてすまんな。通帳や印鑑も見つかってないし、おじちゃん頑張って探すから、申し訳ないけどよろしゅうな」

60代そこそこだろうか、この老年の警察官は、大変申し訳なさそうに労いとお詫びの言葉を掛けてくれた。しかし、私はそんな警察官の気遣いにたいしても、「いえいえ、深夜までお仕事お疲れ様です。ご迷惑お掛けしています」と、魂の抜け落ちた骸のような声で、こう返事を返すのが精一杯の状態であった。

警察官の方には悪いが、今の私には通帳のことなどどうでもよかった。おばあちゃんの死に関しては事件性が少ないことは、龍也からすでに聞いていたからである。

おばあちゃんには申し訳ないが、直ぐにでも母が運ばれた病院へと駆けつけたかった。しかし、そうもいかない上に、病院へと向かう手段もない私は、ただただこの老年の警察官とともに、どこにあるかも分からない(必ずあるであろう)通帳と印鑑を探すことしかできなかった。

おばあちゃんが隠しそうな場所には、2、3万円ほどのへそくりが入った財布や封筒は4つほどあったが、肝心の通帳は探せど探せどいっこうに姿をあらわさなかった。

そして、時間が10分、20分と無慈悲に経過していき、私の心の中の絶望感と焦燥感がますます増幅していった。また、父からの連絡が無いこともより一層このような感情を掻き立てるとともに、何も出来ない自らへの憤りが募らせていtった。

そして、私はついに我慢に耐え切れず、父の携帯に電話を掛けようと携帯を手にした矢先だった。

「ピンポーン」

突然、静かな家の中にインターホンが響いたのである。

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