要介護5の母と共に|真夜中の悲劇Part16
その時だった。
「失礼します。タンカーが通りますので前をどいて下さい!」
私は、この場に似つかわしくない程落ち着いたこの声により、はっと我に返るとともに後ろを振り返った。そこには、先ほどの救急救命士の人達が、両手にタンカーを持って立っていた。
直ぐに、私たちはその場から退き3人の救命救急士たちに譲った。
1人の救命救急士が母に「大丈夫ですか?」と声を掛けた。しかし、以前として母は言葉にならない言葉を繰り返しているだけであり、問いかけにまともに答えることは出来なかった。
「救急車に乗って病院で診てもらいます。今からタンカーに乗せますので、よろしくお願いします」
そう言うと、3人の救命救急士は母の身体の下から腕を通して抱え、タンカーに乗せた。そして、母の頭や腕、足首にビニールで出来た固定具を装着していった。母の全身は装具で固定されていったが、その間も母の痙攣は止まらないばかりか、より酷くなり悪化の一途を辿っていった。
「準備が整いました。今から病院に向かいますので、ご家族のどなたか付き添い願います」と作業を終えた救命救急士の1人が、私たちに声を掛けた。これに続き「まだ、現場検証も残っていますし、まだ実は貯金通帳などの貴重品も見つかっていませんので、ご家族の誰か御一人は残って頂きたいのですが・・・」と現場検証を行っていた警察官が声を発した。
父と龍也と話し合った結果、父と龍也が母と一緒に救急車に乗り、私は現場検証終了後に後からやってくる母の親戚の車で病院へと向かうことに決まったのだった。
そして、救急車に運ばれる母に、私は「お母さん生きていてね。無事でいてね」と縋るように言葉を掛け、救急車で病院へと向かう母を見送ったのだった。
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