祖母と祭壇

「お客さん着きましたよ」

運転手の声でハッと我に返った。どうやらタクシーはもうおばあちゃんの家に到着したようだ。だが、もうすでに時計の短針は16時を指し示していた。

父は慌てて財布から取り出した小銭を運転手に渡し、私たちは車を降りた。

これから数時間後には、おばあちゃんのお通夜が始まる予定だ。だがしかし、おばあちゃんの家の玄関前には、忌中札や提灯も飾られておらずそのような装いを全く感じさせなかった(ただ、叔父が乗ってきたであろう使い古された中型バイクが停まっていた)。

龍也はインターホンを鳴らすと返事を待たずして、玄関扉に向かいドアノブを回した。大方の予想通り、鍵はかけられてはいなかった。

「ただいま、今日のお通夜はどうなった?」私は大声で部屋の奥にいるであろう叔父に問いかけた。しばらくすると、部屋の奥からのそのそとした足音を鳴らしながら、聞き馴染みのあるがさつな大きな声で返答があった。

「おおう、お前らやっと帰ってきたか。お通夜は身内だけですることになってな、それと、葬式も明後日にすることになったわ。それまで、おばあちゃんは1階の自分の部屋で寝てもらうことにしたわ」ようやく叔父の姿が我々の前に現れた。

「ところで、お姉さんはどないや?」

「どうもこうもないよ、ほんまに大変や。どうも脳出血を起こしたらしくて、少し前まで手術しとったんや。先生の話によると一応手術は成功したらしいけど、まだまだ危ない状態らしいわ。明日も見舞いに行きたいから、おばあちゃんには悪いけどその方が助かるわ」

「そうか、大変やな。大丈夫や大丈夫。直ぐにようなるわ」叔父は頭を掻きニヤつきながら私たちを慰めた。

私たちは靴を脱ぎ、おばあちゃんの寝室へと向かった。

寝室の襖を開けるとそこには、祭壇の前で安らかに眠るおばあちゃんがいた。

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