話し合い
居間のテレビでは、東日本大震災のニュースが報じられていた。
私は、テレビに視線を移し、しばらく父と伯父とのの話し合いに耳を傾けることにした。
どうやら、明後日のお葬式は身内だけでしめやかに取り行う予定らしく、また、喪主は伯父が勤めるとのことだ。
このお葬式までの間に、おばあちゃんの友人や近所の人に声をかけ、最後の顔合わせをしてもらうという手筈のようだ。
大方の連絡は、日中の間に伯父が済ませたらしい。伯父が言うに主要人物となる3,4人に声をかければ、後はネズミ講のように上手く人伝いに伝わるだろう、と言うことらしい。伯父は「なかなか頭が切れるだろう。主婦は噂話が好きだからな」と、得意げにこう言いうと私の背中をドンっと叩いた。
父は「本当に済まないね。何から何まで」と伯父に頭を下げた。
「何を仰いますんや、困った時はお互いさまでしょ。今度、ワテが困った時は頼んますよ」と冗談めかして伯父は答えた。
「そうやそうや、早速ワテ今困ってるとこでしたわ。急に連絡があって長野の仕事場から、慌てて出てきたもんで持ち合わせが少ないんですわ。ほんでもって、銀行のカードも部屋に置いてきてもうて・・葬儀代も払わなならんので、ちょっとだけお兄さんコレ融通してくれまへんか?」
伯父は右手に親指と人差し指で円を作り、悪びれることなく少し戯けた様子で言った。
父は財布から一万円札を数札抜き出し、それを伯父に渡した。
「また、すぐに返しますんで」そう言うと、伯父は擦り切れたスウェットのポケットに手を突っ込みそれをしまい込んだ。
それから、しばらく私は父と伯父の談笑に耳を傾けた後、「ちょっと龍也を見てくる」と席を後にした。
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