脳卒中ガイドライン|脳卒中は発症後3時間が決め手
脳卒中は日本人の死亡原因の第4位です(厚生労働省 平成27年(2015)人口動態統計) 。
また、一命をとりとめたとしても、麻痺などの後遺症により、要支援や要介護となる原因の第1位となっています(厚生労働省 平成25年(2013) 国民生活基礎調査)。
脳卒中は、死亡や後遺症の可能性がある恐ろしい病気です。しかし、発症後出来るだけ早く適切な治療を受ければ、脳のダメージを少なく抑えることができ、死亡や後遺症の重症化を防ぐことが可能です。
この記事では、脳卒中が疑われる場合の判断方法や対応方法について詳しく解説しております。是非、みなさんの脳卒中ガイドラインとしてお使い頂ければと思います。
1.脳卒中とは?
脳卒中とは、脳の血管に突然起こる障害の総称で、医学的には脳血管障害と呼ばれています。
脳卒中は、脳の血管が詰まったり、破れたりすることによって発症します。詰まるタイプを虚血性といい、脳梗塞がそれに当たります。一方、破れるタイプは出血性といい、脳出血やくも膜下出血などがあります。
虚血性 | 脳梗塞 |
---|---|
出血性 | 脳出血やくも膜下出血 |
脳卒中を発症すると、脳細胞に十分な酸素や栄養が供給されず、時間が経過するにつれ脳細胞が死滅します。そして、その死滅した部位が担っていた運動機能や言語機能といった生きていく上で重要な機能に障害が発生します。
脳卒中の障害は、脳の損傷部位やダメージによって程度の差はありますが、半身不随や言語障害など何らかの後遺症が残ることが多く、最悪死亡してしまうケースもあります。
2.様子見は絶対ダメ!脳卒中が悪化する危険性大!!
脳卒中は、突然に発症することが多く、周囲に気付かれやすい病気です。例えば、突然仕事中にろれつが回らなくなったり、食事中に箸を落としたり、意識を失って倒れたりしたら本人だけでなく周囲も、身体の中で重大な変化が起こっていることに気づくはずです。
しかし、脳卒中の症状として現れる症状は1つだけでなく、症状の重さや種類は非常に多彩です。
- 本人も周囲も「なんか変だぞ?」というレベル〜昏睡状態に至るレベル
- いつの間にか症状が消えている脳卒中〜症状が激しい・悪化していく脳卒中
以上のように、脳卒中の発症の仕方は様々です。また、初めは軽度の症状として現れ、次第に緩やかに悪化し、意識が無くなり昏睡状態に至るものもあります。
したがって、絶対に症状が軽い重いにかかわらず様子見は止めましょう。
3.脳卒中の症状
次の様な症状がみられる場合は、脳卒中を疑いましょう。ただし、これらの症状が全て現れるわけではありません。また、症状の程度にも個人差があることを心に留めておいてください。
- 激しい頭痛がする
- 発熱・発汗
- 目が充血している
- 吐き気がするまたは、嘔吐した
- めまいがする
- 身体の半分がしびれる、思い通りに動かない
- 口の片側から水や食べ物がこぼれる
- よだれが垂れる
- ろれつが回らない
- 言葉が出てこない
- 視野が半分かけている
- 物が二重に見える
- 真っ直ぐ歩けない
- 意識が朦朧としているまたは、意識がない
4.脳卒中が疑われる場合の対応|発症後3時間が鍵
脳卒中は時間との戦いです。脳卒中の症状が1つでも確認できる場合は、一刻も早く治療を開始する必要があります。
脳梗塞では発症後3時間を過ぎると脳細胞のダメージが激しくなり、同時に治療法の選択肢も限れてしまいます。また、脳出血の場合は、発症から6時間程出血が続く可能性があるため早急に止血し、血圧の調整や再出血の予防をする必要があります。
身体に何らかの異常を感じるものの、症状が軽く、口がきけたり、手足を動かすことが出来るような状態だと、どのように対処したらよいか判断に迷う人も多いと思います。 しかし、症状は軽いものかもしれませんが、何分か後には悪化している可能性があります。
あなたや周りの人が、迅速な判断が出来るどうかが、あなたの今後の人生を大きく左右する分岐点になるかもしれません。したがって、直ぐに救急車を呼ぶことが大切です。そして、一刻も早く医師の管理下に移し、早急に何の病気であるか診断してもらい、適切な治療を開始することが大切です。
脳卒中が疑わる場合は、周囲の対応も非常に重要です。脳卒中を発症した人の側にいた場合は次の手順で対応しましょう。
1.救急車を呼ぶ
脳卒中の疑いが少しでもあると判断したら、直ぐに119番へ通報し、救急者を呼びましょう。
もし、携帯電話などをお持ちではない場合は、周りにいる人に電話を借りて下さい。躊躇している時間はありません。
2.安全確保(安静体位と気道確保)
屋外であれば安全な場所に寝かせて、安静体位と気道確保をさせましょう。無理やり動かさず慎重に数人で動かし、出来るだけ身体を動かさないようにすることが重要です。
- 安静体位の方法
- 麻痺があれば麻痺側を上にし、横向きに寝かせる。膝を曲げ体位を安定させる。窓を開けるなどして換気をよくしましょう。
- 気道確保の方法
- 意識を失うと、呼吸がスムーズにできなくなることがあります。呼吸の有無を確認して下さい。口の中に食べ物や吐物があれば取り除き、顔を横向け、息が出来るよう気道を確保しましょう。呼吸がない場合は、仰向けにしてアゴを少し突き出させ、下の付け根が気道を塞がない体制にします。ベルトやネクタイなどは緩めておきましょう。
3.発症時の状況を伝える
救急車が到着したら、倒れた時の様子やおかしな症状を救急隊員に伝えましょう。場合によっては、救急車に同乗し医師に発症時の様子を具体的に伝えましょう。
なお、意識がしっかりしているからといって、家族が運転する車で病院に連れていくことは止めておいた方が無難です。例えその時は軽症に見えても、途中で状態が急に悪化してしまうのが脳卒中の恐ろしいところです。呼吸困難、嘔吐、痙攣をおこした場合は直ぐに適切な処置を施す必要があります。また、救急車を利用することで、搬送中にある程度の病状確認もでき、病院到着後の医師の判断が円滑に進められる等のメリットがあります。
5.自分で出来る脳卒中のセルフチェック
「脳卒中の疑いがあるかどうか」判断が難しい場合に、簡単に脳卒中の疑いがあるかどうかを判断できる”FAST”というものがあります。自分で何となく変だと感じた場合には、この脳卒中のFASTでチェックしてみてください。
前準備
鏡の前もしくは自分以外の人の正面に立ちます。
チェック1 Face
「イー」と発音しながら口を横に開きましょう。左右対称に口を開くことが出来れば正常です。一方、左右どちらかに唇が引っ張られて表情がゆがむような場合は、麻痺が生じている可能性があります。麻痺しているのは、動かない方の顔面です。
チェック2 Arm
目を閉じて両腕を上げます。正常な場合、両腕を上げた状態で維持できます。どちらかの腕が上がらない場合は、上がらない側に麻痺が生じている可能性があります。
チェック3 Speech
文章は何でも構いませんので、短い文章を用意してください。そして、それをスムーズに読み上げられるかどうか確かめます。ろれつが回らない、あるいは間違った言葉が出てくるような場合、脳に何らかの異常が出ている可能性があります。
チェック4 Time
FASTの最後の「T」はTIMEです。FASTテストの3つの項目の内、1項目でも問題がある場合、脳卒中の可能性が70%以上あると言われています。このような場合は、早急に救急車を呼びましょう。
まとめ
何度もしつこいと思いますが、脳卒中の治療は時間との勝負です。
脳卒中は治療の開始が早ければ早いほど、一命を取り留め後遺症を最小限に抑えられる可能性が高まります。逆に、遅くなれば遅くなるほど、後遺症も広範囲に重く残り、最悪死に至る可能性が高くなります。
したがって、この記事の「脳卒中ガイドライン」に従って、迅速かつ適切に対応して下さい。