レビー小体型認知症の治療|アリセプト等を使った薬物治療法

レビー小体型認知症は、多くの特徴的な症状が現れる新しいタイプの認知症です。したがって、次の様な疑問を抱いている方も多いのではないでしょうか。

  • レビー小体型認知症の治療はどうするの?
  • レビー小体型認知症を完治させる治療薬はあるの?
  • レビー小体型認知症の治療薬は何がいいの?アリセプトって効果があるの?

この記事では「レビー小体型認知症の治療法」について解説しておりますので、是非参考にしていただければと思います。

レビー小体型認知症の治療法は2つ

現在、残念ながらレビー小体型認知症を完治させる治療薬は存在しません。その為、レビー小体型認知症の治療は、その症状を和らげその進行を抑えることを目的に進められます。

レビー小体型認知症の治療法は「薬物治療」と「非薬物治療」の2つです。

それでは早速、「薬物治療」と「非薬物治療」をどのようにして進められていくのか、レビー小体型認知症の特徴の1つである「薬剤過敏性」の説明も交えて確認していきましょう。

レビー小体型認知症の「薬物治療」

レビー小体型認知症で良く現れる幻視やパーキンソン症状、認知障害、うつ症状の治療には、「薬物治療」が大きな効果を発揮します。しかし、「薬物治療」だけではレビー小体型認知症を十分に治療できるとは言えません。

薬剤過敏性の問題

なぜなら、レビー小体型認知症は、「薬剤過敏性」という症状が現れるためです。「薬剤過敏性」とは、文字通り治療薬に過敏に反応する症状のことです。

少量の治療薬でも高い効果が得られる反面、それ以上に副作用が出てしまい、かえって症状の悪化を招くことがよくあります。また、「薬剤過敏性」は治療薬の容量や種類が増えれば増えるほど、その症状が現れやすい傾向があります。

レビー小体型認知症の「非薬物治療」

したがって、レビー小体型認知症の治療は「薬物治療」だけに頼らず、「非薬物治療」で改善できる症状に対しては出来る限り治療薬を使わず対処することが大切です。具体的には、食習慣の改善、運動習慣をつける、睡眠の質を向上する、知的活動を行うなど、日頃の生活習慣を見直すことで症状の改善を図ります。

この記事では、レビー小体型認知症の「薬物治療」をメインに進めていきます。 レビー小体型認知症の「非薬物治療」については、以下で詳しく解説しております。

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コリンエステラーゼ阻害薬はレビー小体型認知症の第1選択薬

レビー小体型認知症の治療薬の第1選択薬として選ばれるのは、アリセプトレミニールリバスタッチパッチといったアセチルコリンの分解を防ぐ「コリンエステラーゼ阻害薬」です。

レビー小体型認知症対するアリセプト以外のコリンエステラーゼ阻害薬の処方は、国による承認を得ていないので保険が適用されません。処方する際には、利用者やご家族への説明と同意を得る必要があります。

「コリンエステラーゼ阻害薬」は、アルツハイマー型認知症の中核症状である認知障害の治療薬として広く知られています。ですが、コリンエステラーゼ阻害薬は、認知障害だけでなく、レビー小体型認知症のさまざまな症状に対し治療効果が期待できます。

それでは、なぜコリンエステラーゼ阻害薬がレビー小体型認知症の第1選択薬となるのかその理由を見ていきましょう。

レビー小体型認知症は、アセチルコリンが減少している

アセチルコリンとは、認知機能に大きくかかわっている神経伝達物質です。認知機能に大きく関係する大脳皮質や海馬、マイネルト基底核、中隔核といった脳の部位の神経細胞は、アセチルコリンを介して情報のやり取りをしています。

このアセチルコリンが減少することで、認知障害を引き起こしているのです。

アルツハイマー型認知症では、脳内のアセチルコリンが減少し認知機能の低下を引き起こしています。しかし、実は、アセチルコリンの減少(特に、マイネルト基底核)は、レビー小体型認知症ではアルツハイマー型以上に減少しているのです。

それ故、アセチルコリンの減少を防ぐことが出来れば、レビー小体型認知症に対するより高い治療効果が期待できます。

コリンエステラーゼ阻害薬は、アセチルコリンの分解を防ぐ

レビー小体型認知症では、先のアセチルコリンの減少だけでなく、アセチルコリンを分解する酵素コリンエステラーゼが働きます。本来、コリンエステラーゼは、余分なアセチルコリンを分解する「お掃除役」として体内に必要な物質です。

アセチルコリンが十分に放出されていれば、問題はありません。しかし、レビー小体型認知症では、元々アセチルコリンの量が減少しているにもかかわらず、コリンエステラーゼにより必要なアセチルコリンまで分解され、加速度的に機能低下を引き起こしてしまうのです。

コリンエステラーゼ阻害薬は、このアセチルコリンの減少を防ぎ必要量にアセチルコリンを保つ治療薬です。コリンエステラーゼ阻害薬は、レビー小体型認知症に対して次の様な治療効果が期待できます。

認知障害の改善・進行抑制
アセチルコリンの量を増やすことで、神経細胞の働きを維持し、認知機能の低下を予防・改善
認知障害以外の症状の改善・進行抑制
アセチルコリンは末梢神経の働きにも深くかかわっている為、レビー小体型認知症で現れる「幻視」や「妄想」といった様々な症状の予防・改善

コリンエステラーゼ阻害薬は様々な種類がある

コリンエステラーゼ阻害薬には、日本で開発されたアリセプトの他、数種類の治療薬があります。また、他の薬とは異なった働きをする認知症治療薬も登場しています。

現在、日本で使用が認められているコリンエステラーゼ阻害薬は3種類です。しかし、それらを併用することはできません。

商品名

一般名

備考

アリセプト ドネペジル

日本で初めての認知症治療薬。服用1日1回

レミニール ガランタミン 作用時間が比較的短く1日2回の服用
イクロセロンパッチ リバスチグミン 張り薬。1日1回貼り換える
リバスタッチパッチ

コリンエステラーゼ阻害薬は認知障害が無くても使う

初期のレビー小体型認知症では、あまり認知機能の低下が見られない場合でも、コリンエステラーゼ阻害薬の使用をオススメします。

なぜなら、アセチルコリンは認知障害以外の”幻視”や”うつ症状”といった症状の改善効果が期待できるためです。

本人や介護者の同意の上でコリンエステラーゼ阻害薬の服用を開始

現在のところ、アリセプト(コリンエステラーゼ阻害薬)は、あくまでもアルツハイマー型認知症の治療薬です。したがって、レビー小体型認知症用の治療に用いる場合、専門医の判断が必要となるだけでなく、本人や介護者さんの同意が必要です。

追記;2014年9月に「レビー小体型認知症」に対するアリセプト(ドネペジル)の効能・効果が、厚生労働省により追加承認され保険適用の対象となりました。

追記;2016年6月1日付けでアリセプト(ドネペジル)などの抗認知症治療薬の規定容量未満の少量投与を容認し、周知することを決定しました。

多彩なレビー小体型認知症の症状に薬をピンポイント処方

第一選択薬のコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプトなど)を服用・使用することで、レビー小体型認知症の多くの症状の治療に役立ちます。しかし、中には次の様な問題が生じる場合があります。

  • 薬剤過敏性により、薬が効きすぎて、興奮や歩行障害といった副作用が現れる
  • 十分な量を使用しても、幻覚や妄想が改善しない

この様に、コリンエステラーゼ阻害薬の効果が薄かったり、副作用が出たりする場合は次のような方法を試みます。

  1. コリンエステラーゼ阻害薬の処方量を加減し、見直す
  2. コリンエステラーゼ阻害薬から、別の種類のコリンエステラーゼ阻害薬に切り替える(例えば、アリセプト→リバスタッチパッチ)
  3. コリンエステラーゼ阻害薬と他の薬を組み合わせる

それでは、他にもどのような薬が、レビー小体型認知症の治療で使用されるのか確認していきましょう。

抑肝散|幻視の治療①

まず、コリンエステラーゼ阻害薬以外の薬として使用されるのが、「抑肝散」という漢方薬です。

抑肝散は、近年レビー小体型認知症によく用いられるようになった漢方薬です。日本では、株式会社ツムラにより販売されています。

元々、抑肝散はこどもの夜泣きや成人の不眠症や神経症に使われてきました。2005年に東北大学医学部の研究グループが認知症に効果を上げたと発表し注目を浴びることになりました。しかし、作用メカニズムは十分に解明されていません。

抑肝散には、神経細胞を興奮させるグルタミン酸の働きを抑える効果があり、精神症状(妄想、幻視、興奮、抑うつ、不安)の改善が期待できます。特に、レビー小体型認知症の特徴症状である「幻視」や「妄想」に対して用いられます。また、抑肝散は、漢方ですので副作用が少ないのも特徴です。

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それでも、効果が薄い場合、ごく少量の非定型抗精神病薬が用いられる場合があります。

抗精神病薬|幻視の治療②

抗精神病薬は、主に神経伝達物質のドーパミンの量の抑える治療薬です。他の薬の効果が弱い時のみ、ごく少量を用いることがあります。

抗精神病薬のタイプ

抗精神病薬は、その作用の仕方によって「定型抗精神病薬」と「非定型抗精神病薬」の2種類に分かれます。レビー小体型認知症に用いられることがあるのは、非定型抗精神病薬です。

非定型抗精神病薬は、ドーパミンの働きを調整したり、他の神経伝達物質とのバランスを改善したりするタイプです。定型抗精神病薬に比べて副作用が現れにくいとされています。しかし、レビー小体型認知症の場合、薬剤過敏性が高いので、まったく問題なく使用できるわけではありません。

抗精神病薬は薬剤過敏性が現れやすい

ドーパミンは少なすぎれば運動機能の障害をもたらします。一方で、ドーパミンが働きすぎると、幻覚や妄想、興奮などの精神症状を引き起こすことがあります。そこで、他の薬では効果が薄い場合には、抗精神病薬が用いられることもあります。

ただし、レビー小体型認知症の場合、一般にドーパミンの量は減少していることが多く、抗精神病薬によってドーパミンの働きを抑えることは、必ずしも症状の改善に結びつかない場合があります。抗精神病薬は、「薬剤過敏性」の問題が発生しやすい薬ですので、慎重に使用する必要があります。

抗精神病薬服用後の副作用

過沈静

興奮を抑える作用が強く出過ぎると、感情や思考、動作などが思い通りにならない状態になります。

  • ボーっとした状態が続く
  • 表情が乏しい
  • 寝てばかりいる
  • 口数が減る
錐体外路症状(運動機能への悪影響)

黒質や線条体など、運動機能に大きく影響する神経系の働きを阻害してしまうことで、運動面で問題が現れやすくなります。これを錐体外路症状と言います。錐体外路症状は次の2タイプです。

パーキンソン症状の出現や悪化
  • 小俣歩行
  • 筋肉の拘縮による動作が遅くなる
  • 呂律が回らない
不随意運動
  • 自分では動かそうと思っていないのに、体が勝手に動いてしまう症状。
  • 手足が落ち着かず、動いてしまう(アカシジア)
  • 体がくねくねと動く、口をもぐもぐさせてしまう(ジスキネジア)
  • 体や首が引きつり、姿勢が傾いてしまう(ジストニア)

抗パーキンソン病薬|パーキンソン症状の治療

パーキンソン症状の出現にも、神経伝達物資のドーパミンが関わっています。減少しているドーパミンの働きを強める抗パーキンソン病薬を用いるのが基本ですが、他の薬とのバランスも考慮しましょう。

数ある抗パーキンソン病薬の中でも、メネシットなどの「レボドパ(L-ドーパ)」が使用されます。

アセチルコリンとドーパミンの拮抗作用

ドーパミンの働きを強める「抗パーキンソン病薬」とアセチルコリンの働きを強める「アリセプト」は拮抗作用があります。つまり、ドーパミンの働きが強まると、アセチルコリンの働きは弱まるという関係です。したがって、「認知機能の低下」か「パーキンソン症状」のどちらの症状をより改善したいのかを見極めた上で、アリセプトと抗パーキンソン病薬の処方量を調整する必要があります。

アセチルコリンとドーパミンの拮抗作用については、否定的な意見もあります。レビー小体型認知症の発見者である小阪憲司先生は、論文上では拮抗作用によるパーキンソン症状の悪化は確認できず、「あることはあるが問題が生じることは少なく神経質にならなくて良い」との意見を示されています。

抗パーキンソン病治療薬の中にはレビー小体型認知症で使えない薬がある

ただし、抗パーキンソン病治療薬の1つである「抗コリン薬」は「アセチルコリン」の働きを弱めることで、ドーパミンの働きを相対的に強めるお薬です。したがって、認知障害を悪化させる心配があります。また、口渇や便秘、尿道閉塞などの副作用が現れることがあります。

「抗コリン薬」の他にも「ドパミンアゴニスト」という抗パーキンソン病治療薬も、幻覚や妄想が強まる傾向があります。

したがって、パーキンソン病の患者さんに、レビー小体型認知症の特徴症状である幻視や妄想症状が現れた場合は、認知障害や精神症状の悪化を招く恐れがある抗パーキンソン病治療薬の減量・中止を検討しましょう。

抗うつ薬|うつ状態、レム睡眠行動障害の抑制

レビー小体型認知症の特徴的な症状の1つであるうつ症状は、鬱病と見分けがつきづらい程深刻な状態であることもあります。その改善の為に、抗うつ薬等を追加して用いることもあります。

うつや不安に対処する

レビー小体型認知症では、次のような感情面での障害が現れます。

  • うつ状態長期間の気分の落ち込み
  • 焦燥焦ってイライラする
  • 無気力になる(アパシー)
  • 不安漠然とした不安

この様な気分や感情面での障害は、それに関わる神経系に必要なセロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンなどの神経伝達物質がレビー小体型認知症では減少するまたは作用しない為です。

したがって、これらの神経伝達物質の量を調整する抗うつ薬が、レビー小体型認知症の治療では用いられることもあります。抗うつ薬としては「ジェイゾロフト」などが用いられます。

抗うつ薬は副作用の出方を見ながら調整する

しかし、レビー小体型認知症を発症からくる、うつ症状や不安などの感情面での障害の場合は、抗うつ薬だけで治療しようとしても、期待通りに改善されません。薬の量を増やせば副作用も強くなり、逆に症状の悪化してしまうこともあります。

レビー小体型認知症からくる感情面での障害なら、先のコリンエステラーゼ阻害薬や抑肝散で改善することも多く、まずはこれらの治療薬を使って様子を観察します。

  1. コリンエステラーゼ阻害薬や抑肝散でも症状の改善が見られない
  2. 日常生活に大きな影響を与えるほどの深刻な症状

しかし、1,2の両方を満たすような場合、抗うつ薬の追加を検討しましょう。ただし、薬に対する過敏性の問題には十分に配慮しましょう。副作用の出方を観察しながら、種類、量を調整してもらいましょう。

まとめ

レビー小体型認知症の薬物治療を進めるにあたって様々な注意点がございます。それはレビー小体型認知症の症状は多彩だったり、薬剤過敏性がある為です。

したがって、本人の病状に合わせた治療薬の処方・服用が何よりも大切です。その為には、介護者が本人の日中の様子をよく観察し、それを医師に詳しく説明することが重要です。