前頭側頭型認知症(ピック病)とは?特徴症状や対応法を徹底解説
前頭側頭型認知症(ピック病、Frontotemporal dementia、FTD)という病気をご存知でしょうか?
前頭側頭型認知症とは、認知症の1つです。前頭側頭型認知症(ピック病)の特徴として、万引きや痴漢行為などの社会的ルールを無視した「反社会的行動」を取ってしまうことがあります。また、前頭側頭型認知症の患者の多くは、64歳以下で発症する若年性認知症であることも大きな特徴です。
例えば、”40~50代の社会経験豊富な大人が、何の悪気もなくスーパーなどで万引きしてしまった”といった問題行動も前頭側頭型認知症(ピック病)を原因とする症状の可能性があります。このような反社会的行動は、前頭側頭型認知症(ピック病)という病気が原因である為、当然本人に責任能力はありません。
しかし、ご家族が、病気の存在について気づかずにいた場合は、ただ目の前の出来事に唖然としてしまうことでしょう。下手をすると逮捕され「有罪」になってしまう可能性さえあります。一方で、ご家族が、病気の存在や特徴をきちんと把握している場合は、上手く対応することで危険を回避できます。
- 先取りした介護対応により、未然に万引きを防ぐ
- 医師に受診し前頭側頭型認知症(ピック病)と診断してもらい、責任能力が無いことを証明してもらう
この様に、前頭側頭型認知症(ピック病)という病気について、知っているか、知らないかで、本人やご家族の人生が左右されるかもしれません。したがって、この記事で前頭側頭型認知症(ピック病)の特徴症状や原因、発見方法、介護対応について学んで頂ければと思います。
前頭側頭型認知症(ピック病)とは
前頭側頭型認知症(ピック病)の原因
前頭側頭型認知症(ピック病)の原因は、ピック球という異常な構造物が大脳に発生し、脳の萎縮や障害が現れることです。そして、前頭側頭型認知症(ピック病)は文字通り、大脳の前頭側(前頭葉と側頭葉)付近がダメージを受ける「前方型認知症」です。
前方型認知症 | 前頭葉から側頭葉にかけての機能低下がみられる認知症(前頭側頭型認知症など) |
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後方型認知症 | 側頭葉後部から頭頂葉、後頭葉にかけての機能低下がみられる認知症(アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症など) |
前頭側頭型認知症(ピック病)の症状
理性がコントロールが上手くできず、万引きや痴漢などの症状が出現する
なぜ、前頭側頭型認知症では、万引きや痴漢などの反社会的な行動が特徴的な症状として現れるのでしょうか。それは、この病気によりダメージを受ける脳の部位に関係しています。前頭側頭型認知症(ピック病)で障害される「前頭葉」や「側頭葉」は、脳の中でも”感情”や、”理性”といった”人間らしさ”を司る部位なのです。
前頭葉 | 脳の後方からくる外界や体内の情報に対する衝動的反応を抑え、理性的な行動を取るよう「感情・意思・計画・運動性言語」コントロールする役割 |
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側頭葉 | 「聴覚・味覚・判断力・記憶・言語の理解」をコントロールする役割 |
前頭側頭型認知症(ピック病)では、この2つの脳の部位が委縮することで、万引きや痴漢、暴力といった人としての理性が外れた症状が現れるのです。
前頭側頭型認知症(ピック病)で現れる症状
最も特徴的な症状は「人格の変化」です。前頭側頭型認知症(ピック病)では、他人を思いやることや、善悪の判断をつけ正しい行動を取ることが難しくなります。したがって、暴力や万引きなどの問題行動を取ることがあるのです。その他にも、言語をコントロールする脳の部位が傷つくこともあり、失語といった言語障害が現れることがあります。
- 盗癖(万引き)
- 暴力
- 信号無視等の社会的ルールを無視
- 痴漢行為(性的な理性が働かなくなる)
- 常同行動(何度も同じ動作を行う)
- 散髪・入浴の拒否やごみの片づけができなくなる(不潔でも気にならなくなる)
- 尿失禁
- 暴食や拒食、異食(食べられないものを食べようとする)
- 模倣行為(人の物まねをする)
- 反響言語(オウム返し)
- 周回(徘徊とは異なり、同じ道を何度も歩く)
- 失語(言語理解力の低下)
問題行動に対する介護のコツ
前頭側頭型認知症(ピック病)の方は、暴力的になったり、短絡的になったりします。一方で、前頭側頭型認知症(ピック病)の人は、「常同行動」という症状が現れます。常同行動とは”律儀なほどに毎日同じことを繰り返し、習慣を守る”というものです。そして、この「常同行動」を行っている時は、落ち付きやすいという一面もあります。
したがって、前頭側頭型認知症(ピック病)の方の問題行動には、「常同行動」を逆手にとって、ケアすると良いでしょう。
- 入浴や散髪を拒否する場合、毎日同じ時間に入浴する
- 悪い常同行動ではなく、毎日同じ道を散歩するなどして良い常同行動を行う習慣をつける
- ヘルパーやデイサービスの職員で、本人と相性の良い人に毎回担当してもらう
- 行動の順序など本人の生活習慣つまり「常同行動」を妨げない
- 常同行動により同じ道を通るので、立ち寄りやすい場所に予め声掛けや万引き対策の為に料金の前払いをする
この様に、「常同行動」を逆手に取り、「いつもと同じ」働きかけを行えば、暴力的になることが抑えられたり、生活習慣の改善が図ることができます。
前頭側頭型認知症は、前頭葉変性症の1つ
実は、これまで説明してきた前頭側頭型認知症(ピック病)は、前頭側頭葉変性症という病気の1つです。前頭葉変性症は、前頭側頭型認知症(ピック病)も含めて次の3つのタイプに分かれます。
- 前頭側頭型認知症(ピック病)
- 進行性非流暢性失語
- 意味性認知症
そして、前頭側頭葉変性症は、その症状から2つの群に分けられます。
- 認知症症候群
- 失語症候群
前頭側頭型認知症 | 認知症症候群 |
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進行性非流暢性失語 | 失語症候群(運動性失語) |
意味性認知症 | 失語症候群(感覚性失語) |
失語症候群(進行性非流暢失語と意味性認知症)は、認知症の中核症状である「失語」が現れます。その為、同じ前頭側頭葉変性症である前頭側頭型認知症においても失語が現れる場合があります。
脳卒中の後遺症として、有名な「失語症」という症状があります。失語症は、前頭側頭葉変性症の失語症候群と同じく前頭葉や後頭葉の言語を司る部位がダメージを受けることで似たような症状が現れます。
しかし、両者を同一視してはいけません。前頭側頭葉変性症の失語は、あくまでも「認知症」によるもの、失語症は「脳卒中の後遺症」によるものです。そのため、末期の認知症患者で失語が重度の方に、脳卒中の失語症と同じようなリハビリを行うことは得策とは言えません。
詳しく知りたい方は「言語障害とは?構音障害と失語症の症状と原因」で詳しく解説しているので参考にしてください。
前頭側頭型認知症(ピック病)の診断と治療について
前頭側頭型認知症(ピック病)では、脳内でどの神経伝達物質が不足しているのか等、病気の全容解明とまでは至っておりません。したがって、診断の際は、画像検査と、実際に現れている症状を、慎重に照らし合わせ総合的に判断する必要があります。
前頭側頭型認知症(ピック病)の疑いチェックリスト
前頭側頭型認知症かどうかのチェックリストです。40~70代でこのリストの内3つ以上当てはまる場合は、注意が必要です。
状況に合わない行動 | 身勝手な行為、状況に不適切な悪ふざけなど |
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意欲の減退 | 原因不明の引きこもり、何もしない |
無関心 | 服装や衛生状態に無関心で不潔になる。周囲の出来事に興味を示さなくなる |
逸脱行為 | 万引きなどの軽犯罪を繰り返す |
時刻表的行動 | 散歩などを決まった時間に行う。止めると起こる |
食物へのこだわり | 毎日同じ物しか食べない。際限なく食べる場合がある |
常同行動・反響言語 | 同じ言葉を何度も繰り返したり、他人の言葉をオウム返しにする。制止しても一時的にやめるのみ |
嗜好の変化 | 好きな食べ物が変わる。飲酒・喫煙が大量になる |
発語障害・意味障害 | 無口になる。ハサミ、眼鏡等を見せても、言葉の意味や使い方がわからなくなる |
記憶・見当識は保持 | 最近の出来事は覚えているし、日時も間違えない。道は迷わない |
出典:2005年 中日新聞(宮永和夫)
前頭側頭型認知症の治療薬
前頭側頭型認知症(ピック病)の初期では、陽性症状(盗癖、常同行動、異食)などを繰り返すことが多い為、その場合は、抑制系のお薬が第一選択薬となります。しかし、その人の症状に合わせて治療薬の処方の仕方を変えることが一番です。
- 盗癖、常同行動、異食といった症状には、ドーパミンの抑制効果があるお薬「ウィンタミン」など
- 意欲の低下、落ち込み、無気力といった症状には、興奮系のお薬である「シンメトレル」など
前頭側頭型認知症(ピック病)では、認知症の治療薬の1つであるアリセプトは、前頭葉にストレスをかけ常同行動を起こすと考えられていますので使用は控えます。