【てんかんの診断】問診と検査(脳波など)を受ける時のポイント
てんかん(癲癇)の診断は、簡単ではありません。てんかん発作と思われる症状があったからといって、直ぐに「てんかん」と診断がつくわけではありません。
てんかんが疑われる場合、“問診”と“検査(脳波など)”を徹底的に行います。いずれか一方が欠けてもいけません。問診と検査から、多くの情報を集めたうえで“本当にてんかんなのか”、”てんかんならばどのタイプなのか“といったことを慎重に検討する必要があります。
確かに時間と手間はかかりますが、正確な診断をしてもらえば、より良い治療に繋がります。しかし、実際の医療現場ではどうでしょうか?残念ながら診察が不十分なケースも存在します。
- 意識を失いけいれん発作が起きたことを伝えただけで、脳波もとらずにてんかんと診断された
- 脳波検査の結果だけで、ろくな問診もせずにてんかんではないと診断された
もしも、医師の診断に「おかしいな・・」と疑問を感じた方は、ここで紹介する内容を頭に入れておいて下さい。
1.てんかんの問診
てんかんの診察で最も重要なのが問診です。問診で幅広い情報を集めることが、正確な診断に結びつくカギとなります。また、問診は治療の効果をはかるためにも重要です。
問診の主な目的は、どのような発作症状が現れたのかハッキリとさせることです。後述する脳波などの検査も、てんかんを診断するうえで重要な情報源ですが、悪までも補助的なものと心得ておきましょう。
問診で尋ねられる質問
問診では、医師から次のような質問を尋ねられます。
- 発作好発時間
- 発作が起きた時の時間帯。何月何日何時に発作が起こったか。覚醒中か睡眠中か、それとも両方か。
- 発作起始症状
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発作の起こり始めの症状
- 突然、全身ががくがく震えていたか、あるいは身体の一部から始まったか
- 発作の前兆(しびれや吐き気、小さな発作など)の有無
- 発作時症状
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発作時の症状
- 痙攣発作の有無。痙攣があった場合、身体のどこから始まりどのように広がっていったか
- 意識障害の有無。意識障害があった場合はどの時点から無くなったか
- 強直間代発作の有無。手足を固く突っ張らせガクガクと震えるような変化はあったか
- 身体の左右で差はあったか
- 発作はどのくらい続いたか(発作持続時間)、発作は繰り返し起こったか
- 顔色、呼吸の有無
- 発作随伴症状
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発作そのものではなく、伴ってみられる色々な症状
咬舌、尿失禁、打撲、擦過傷、発汗、チアノーゼ、ぶつけた痕があったかなど
- 発作後症状
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発作が終わった後の症状
- 睡眠に移行したか
- 朦朧状態が続いたか、ぼんやりした状態で歩き回ったかなど
- トッドの麻痺(片方の手に力が入らない、細かな手の動きができないなど)の有無
- 頭痛、吐き気、健忘症状(発作の前後が思いだせない)、筋肉痛の有無
- 発作誘因因子
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発作を起こしやすい誘因があったか
発熱、入浴、睡眠不足、飲酒、テレビ、ゲーム、閃光、忘薬、過労、興奮、生理など
- 既往歴
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これまでにかかった病気の情報。脳の病気を始め治療中の病気の有無
- 脳炎・脳症、脳血管障害(脳梗塞や脳出血)、頭部外傷、脳腫瘍、神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病)など脳の病気があったか
- 妊娠中や周産期障害、過去の熱性けいれん(ひきつけ)の有無
- 自閉症などの発達障害の有無
- 発達面の問題
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- 出生時体重、生まれたときにすぐに泣いたか、首の座り、寝返り、ハイハイ、1人歩きなどの運動発達
- 言語や発語、手先の器用さ、学校などの集団生活上の問題の有無
- 家族歴
- 両親や兄弟姉妹などにてんかんの家族がいるか
- 治療歴
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- てんかん発作の頻度や程度についての情報
- 治療中の病気
- 抗てんかん薬の投与期間とその量、副作用の有無
問診に活かす!発作時の観察ポイント
こうした情報は、実際に発作時に居合わせた患者さん側が、医師に知らせることになります。医師もより多くの情報がわかると、診断がしやすくなります。ですので、患者さん側も全て医師に任せるのではなく “発作をよく観察し問診に役立てよう”とする心構えを持つことが必要です。
突然の発作に慌ててしまうとは思いますが、事前に発作時の対応を学んでおくことで冷静に対応できます。
そして、安全を確保した上で、冷静に発作の様子を観察し、小さな異変も見逃さず医師に報告しましょう。先ほどの「問診でよく尋ねられる質問」を頭に入れておくとよいでしょう。
また、発作時の様子をメモに残しておきましょう。スマホや携帯のカメラで動画撮影するのも手です。不謹慎に思えますが、言葉では表現しにくい発作症状を正確に伝える良い手段となります。また、お薬手帳を用意し医師に見せるとよいでしょう。
2.てんかんの検査法(脳波など)
てんかんの診断を確定する為には、必ず”脳波検査”を行う必要があります。また、頭の中にてんかんの原因となる病気があるかどうか、”画像検査(CTやMRI)”で調べます。その他、脳血流をみる”SPECT”や脳の代謝を見る”PET”、磁場を読み取る“脳磁図“も必要に応じて行います。
それでは、具体的に各種検査法について説明していきます。
脳波検査
脳波はてんかんの診察で必須
脳波とは、頭部に電極を貼り付け、脳内で起きている異常放電を見つけ出す検査です。
通常時の脳波は緩やかな波のような形をしていますが、てんかん発作に関係する脳波は、棘のように尖った「棘波(スパイク)」や、棘波よりも緩やかな「鋭波(シェープ・ウェーブ)」といった、通常の脳波よりも鋭い異常波が現れます。より鋭い脳波ほど発作を起こす力が強いとされます。
ただし、発作波が現れていても、発作波が脳のごく一部にとどまり、他の部位にまで広がらない時は発作が現れないこともあります。また、棘波らしき異常波が現れてもてんかんとは限らず、逆に脳波に異常が無くても、てんかんを否定することはできません。
もし、てんかんかどうか確定診断がつかない場合には“ビデオ脳波モニタリング検査”を実施します。
長時間ビデオ脳波モニタリング検査
長時間ビデオ脳波モニタリング検査とは、脳波と同時にその時の様子をビデオに撮影・記録する検査です。
最低でも一日、長い場合には数日間に渡って脳波を測定し続けます。長時間ビデオ脳波モニタリング検査では、実際のビデオ映像と脳波測定記録を照らし合わせてみることが出来るので、より正確に診断することができます。てんかん発作と紛らわしい状況関連性発作との識別、発作型の診断、てんかんの発作波の発作源(焦点)部位の推定に役立ちます。
脳波以外の検査(CT、MRI、PET、脳磁図、心理検査など)
MRI・CT
脳の画像を撮影する検査です。てんかんの原因となる病変の有無を調べることに始まり、外科治療の適応を決めるうえで必須の検査です。焦点と考えられる部位を中心に詳しく見ていきます。
脳磁図(MEG)
脳内の電気活動に伴って生まれる磁場を読み取りその変化を計測・記録する検査です。電気活動そのものを記録する脳波では読み取りにくい変化まで、明瞭に捉えることが可能です。コンピューターでスパイク(異常波)の発生源の立体的推定が容易です。焦点を発見するのに優れています。また、頭蓋骨や脳脊髄液の影響をあまり受けないので、脳波に比べて精度の高い情報が得られるなどの特徴があります。しかし、現在脳磁図を受けられる施設は限られているのがネックです。
PET、SPECT
PETは脳で使われるブドウ糖、SPECTは脳血流やシナプスの働きの変化を捉えることで脳の働きを観察する検査です。てんかんの焦点は、発作時には興奮してブドウ糖の代謝や脳血流量が増加し、逆に平常時には低下するという特徴を利用した検査です。共に微弱な放射性医薬品を使います。
心理検査
知能、記憶、言語、思考、行為、注意などの高次脳機能障害の有無を調べる検査です。てんかん発作そのものの高次脳機能への影響や、発作を長く持っていることによる影響、薬剤の変更に伴って生じた影響、前頭葉機能・側頭葉機能・頭頂葉機能・後頭葉機能といった脳の局在機能に病変が及ぼす影響を調べます。
検査には、知能検査(主に就学前)、発達検査(就学後)、記憶検査、言語機能や注意機能といった各種の機能に関連した検査など多くの種類があります。
知能検査 | ウェクスラー式知能検査(WAIS-Ⅲ【成人用】、WISC【児童用】)、田中ビーネ知能検査V、長谷川式簡易知能評価スケール |
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発達検査 | 新版K式発達検査2001、遠城寺式乳幼児分析的発達検査法、津守・稲毛式乳幼児精神発達診断法、MEPAⅡ |
記憶検査 | WMS-R、三宅式記銘力検査、ベントン視覚記銘検査、レイ複雑図形検査(ROCFT) |
注意力検査 | 標準注意検査法(CAT) |
遂行機能検査 | 遂行機能障害症候群の行動評価(BADS) |
言語機能検査 | 標準失語症検査(SLTA) |
染色体検査、遺伝子検査
てんかんの原因は多々あり、原因不明であることも珍しくありません。しかし、最近は検査技術の進歩に伴い少しずつですが原因が判明してきています。染色体検査や遺伝子検査などでてんかんの原因がわかる場合もあります。
血液検査や脳脊髄液の検査
てんかんと似た症状を引き起こす病気との鑑別をするために行います。血液や尿の検査などで、感染症や代謝障害などてんかん以外の病気が原因でおこる発作を明らかに出来る場合もあります。
3.正しい診断を受けるためのポイント
てんかんは診断が難しい病気
てんかんは診断が難しい病気です。てんかんは、脳が過剰な興奮状態となり発作症状を引き起こします。
この“てんかん発作”といわれる症状は、すぐに異変と分かる大きな発作から、大した変化のない小さな発作まで、色々なタイプが存在します。また、発作の現れ方や、原因は人それぞれです。
状況関連性発作(機械発作・急性症候性発作)
さらに “痙攣”や“意識障害”などてんかん発作とよく似た症状を引き起こす、紛らわしい病気も数多くあります。この様なてんかん紛らわしい発作は、一時的な発作であり「状況関連発作(機会発作あるいは急性症候性発作)」と呼ばれます。
状況関連性発作は、一時的なものであり、慢性的に症状が現れるてんかん発作とは区別されます。
例えば、状況関連性発作の原因として下記のようなものが挙げられます。
- 脳血管障害(脳梗塞や脳出血)
- 脳炎・脳症
- 脳腫瘍
- 感染症(細菌性髄膜炎、結核性髄膜炎、ウィルス性脳炎など)
- 代謝疾患(低血糖症、低カルシウム血症、低ナトリウム血症、肝不全、尿毒症など)
- 中毒
- 熱性けいれん(=ひきつけ)
- 息止め発作(=泣き寝入りひきつけ、憤怒けいれん)
- 下痢に伴う発作
- 離脱症状(アルコール依存症、薬物離脱症候群)
- 失神(起立性低血圧=立ちくらみ、不整脈等の心原性の失神、神経調節性失神など)
- 不安やストレスによる心因性非てんかん発作(=ヒステリー発作)
こうした状況関連性発作から、てんかんへと移行するケースもあります。しかし、その原因にもよりますが、移行率は10%以下とも言われています。詳しくは下のリンク先をご覧ください。
てんかんの専門病院やセカンドオピニオンを利用
素人判断でてんかんと決めつけず、まずはどの病気が疑わしいか医師の診察を受けましょう。
また、在ってはならない事ですが、医師も誤診することがあります。ベテランの医師でも症状だけでは “てんかん性の発作か、状況関連性発作か”、判断が困難なケースもあります。そういった場合は “長時間ビデオ脳波モニタリング検査”などの、より専門的な検査と検討が必要です。
医師の診断に疑問や不満がある場合は、遠慮せずに“専門病院を紹介してもらう”、“セカンドオピニオンを求める”、“病院を変える”などして対応することも大切です。