見えない未来

「先生!それでは母は、杖をついて歩くことになるのですか?手に障害が残ってしまうのですか?目を覚ますのですか?植物状態になってしまうのですか?」震える声を必死に押し殺し、私は矢継ぎ早に先生に尋ねた。

「今は、眠り薬を使い恵理子さんには、眠ってもらっている状態です。これからは、この眠り薬を徐々に取って、恵理子さんの意識の回復を待つことになります。正直に申しまして現状では、恵理子さんが絶対に目を覚ますとは断言できないような状態です」

「取り敢えず、今は恵理子さんが目を覚ますかどうかが一番の問題であり、どれくらいの後遺症が残るかなど具体的なことは、私の口からは現状なんとも言えません。ただし、意識の回復が早ければ早いほど、早い段階から機能回復に向けた本格的なリハビリが開始できるので、より回復が見込めるとは言われています。なので、今から一週間以内に目を覚ますかどうかが重要になってきます。そして、一週間後の状態をみて、今後の経過が徐々に予測できるようになってきます」

先生は苦虫を潰したような顔でこう答えた。そして、他に質問はないか促し2つ3つ質問に答えた後、「今日はお疲れだと思いますので、また後日詳しい話し合いをしましょう」と私たちを送り出した。

私たちは、再びベッドの上で人工呼吸器をつけ眠っている母の元に戻った。そして、20分ほど一方的に声をかけ続けた後、満面の作り笑顔を浮かべ「明日の見舞いに来るから、元気になっていてね」と言い残し、集中治療室を後にしたのだった。

どのようにして私たち家族は『全く先の見えない未来』を歩いていけばいいのだろうか・・・

<第1章終了>

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