一縷の望み

「今、お母さんが僕の手を握った」

私は興奮を必死に抑えながら、父と龍也にそのことを伝えた。

「ほんと⁉︎手が動いたの?」

龍也は興奮気味に言った。父も驚いている。

「看護師さんにちょっと報告してくる」

私はICUに設置されたナースステーションまで早足で向かった。

「すいません。今、母の手が一瞬ギュッと力が入った気がしたんですが、これは意識が回復したことを意味するのでしょうか」

「ううーん・・・・正直、それだけでは意識レベルが回復に向かっていっているかは判断できないですね。意識がなくても、反射的に手や足が動くことはよくあります。ですが、もし息子さんの問いかけや刺激に対して、恵理子さん自ら手を握り返すなどの反応を示したとなると、少しずつ意識レベルが回復に向かっている可能性があります。なので、このことは一応主治医に伝えておきますね。」

看護師さんはそう言うと、うっすらと笑顔を浮かべた後、先ほどの業務に戻っていった。

看護師さんの反応から伺えるに、先ほどの母の反応はそれほど大したことではなく、意識が回復していない場合でもこのようなことが起こるようだ。

私は少し落胆した。だが、後者の可能性も否定できないことから、そこに一縷の希望を見出したのだった。

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