一夜明け


昨日と同じく、注意書きの指示通りにインターホンを押した。

「はい、集中治療室です。面会希望でしょうか」
「はい、五十嵐の家族のものです」
「どうぞお入りください」

昨日とは打って変わり、誰も現れずに集中治療室の扉が開いた。私たちは扉をくぐると、マスクを着け、手を洗い、もう一つの自動扉を開け、集中治療室の中に入った。

私たちを待ち構えてたかのように、女性看護師が扉の近くに立っていた。
「お疲れ様です。どうぞこちらへ」看護師はそういうと、母のベッドへ私たちを案内した。

「恵理子さん、ご家族さんが面会に来てくれましたよ」

私たちはベッドの中を覗き込んだ。

昨日と同様、依然として人工呼吸器や心電図、管などが母の体のあちこちに取り付けられたままであり、増えているようにさえ感じられた。

そして何よりも、顔は痛ましく腫れ上がり、髪の毛を哀れもなく剃られている母の頭は、目をも背けたくなるものであった。

「お母さん、お見舞いに来たよ。元気にしてる」

私たちは母の手を握り、矢継ぎ早に声をかけ続けたが、母から返事は一向に返ってくることはなかった。

「今日から、眠り薬をとっていっています。そして、今は恵理子さんの意識が戻るのを待っている状態です。画像検査によると、昨日よりは血が少しずつ吸収されているみたいです。ただ、引き続き合併症に注意して治療をしています」

私たち素人には何ら変わりがないように見えるが、画像検査によると少しは病状が回復に向かってるようだ。

「ただ、昨日先生からも説明があったと思いますが、どれだか早く意識を取り戻せるかが、今後のポイントになってきます。軽いリハビリなどは本日から少しずつ行なっていきます。あとの詳しい話は、また主治医から聞いてもらうことになると思いますので、後で面会日をごれんらくいたしますね」

看護師は必要事項を話し終えると、しばらく間を開けたあとスッとその場を離れ自分の持ち場へと帰って行った。

看護師が離れた後も、私たちは母に声を10分、20分と声をかけ続けた。

「お母さん元のように元気になって、どっかに行こう」「しんどいやろ、もう直ぐ良くなるで」「昨日はよう手術に耐えたな。頑張ったな」

面会の制限時間まで、後数分を切ったところである。

一瞬ピックと、私の握る手に圧力がかかったかのように感じた。

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