母の病①
先生は父を見つめ、神妙な面持ちで話を切り出した。
「五十嵐さん、今後の恵理子さんの治療方針についてお話しておきたいことがあります。少しお時間をいただけませんか」
先生は父の返答を聞くと、目線を父から右下へと移し、ベッドで眠むっている母に優しく朗らかな表情で語りかけた。
「恵理子さん手術お疲れさま。少しの間、旦那さんと息子さんを借りるね」と言葉をかけると、再び父に目線を戻し「それでは、ご案内しますので、私の後に付いてきてください」と声をかけ歩き出した。
案内された部屋は、先ほどの部屋から壁を一枚隔てた所に作られた部屋だった。部屋の中は非常に簡素で、ただパソコンと、腕・脚・頭蓋骨・脳など身体をパーツごとに分解した模型が並べられているだけだった。
「どうぞ、お座りください」と、先生は私たちに席につくよう促し3人が着席したことを確認すると、自らも椅子に座った。
「ご紹介が遅くなりました。私は、恵理子さんの手術を担当致しました黒川です。今後も恵理子さんの担当医として治療に関わらせていただきますので、宜しくお願い致します。」と軽く会釈をし話を続けた。
「早速ですが、恵理子さんの病状と今後の治療方針について説明させていただきます。救急車で運ばれてきてから、すぐに院内で検査したところ、恵理子さんのご病気は”脳出血”だということが分かりました。脳出血とは、脳の血管が破れて出血を起こす病気です。脳出血といっても、出血した場所によって呼び名が変わります、恵理子さんの場合は右脳の被殻という場所が出血を起こした”右脳被殻出血”というものです」
黒川先生は脳の模型を手に取り、それを使って被殻の場所を指差した後、おもむろにパソコンのディスプレイを私たちの方に向けた。パソコンのディスプレイには、脳の画像が2つ並んでいた。
「これは恵理子さんの脳のCT画像です。左の画像の、この白い部分が出血を起こした被殻という場所です。手術後の右の画像では白い部分が失くなっていることがわかると思います。手術により、脳の血はほぼ摘出でき、一命を取り留めることはできたので、一応手術は成功したと言えます。ただ・・・・
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