翌朝

翌朝5時、10時からの面会時間に合わせ8時にセットした目覚まし時計のボタンをOFFにした。

私は、弟を起こさないよう羽織っていた掛け布団をのけ、静かに足音を立てないよう軋む階段を降りた。あと数日で5月を迎えようとしていたが、早朝の肌寒さはしつこく、閑散とした居間がより一層それを引き立てた。

居間の電気をつけてから、私は椅子に腰をかけ、テーブルに置かれたリモコンに手を伸ばした。窓から差し込む灰色の薄明かりとは対照的に、脳内は一切の曇りもなく恐ろしいほど意識の輪郭がはっきりとしていた。だが、後に思い返すに当時放送していた内容は一つも思い出せずにいた。ただ、数本のビールの空き缶とウィスキーの空き瓶が、台所の洗い場に置かれていることだけは記憶している。

「ガラッッッ、ガラッッ、ガッッラ」

年期の入った引き戸が、苦しそうに悲鳴をあげた。私は引き戸に目をやると、そこには父がいた。そして、父はこっちを向き軽く挨拶の言葉を述べ、返事が返ってくるのを確認すると椅子を引き、私の横に座り一緒にテレビを観た。しばらくすると父は言った。

「面会時間は決まっているからそろそろ用意をしようか。朝食は病院内のコンビニでいいだろう」

時計の針は、8時5分を指し示していた。

私と父は、洗面台とトイレに別れ、交互に顔を洗いトイレを済ました(しばらくすると、龍也も起きてきた)。そして、グチャグチャに詰め込まれた旅行用のバッグから上着を取り出し、無造作に脱ぎ捨てられたズボンを広げそれを履いた。

「さあ、二人とも準備はできたか。そろそろ車に乗って向かおう」靴を履き終えた父は、そう言いながら玄関の扉を開け外に出た。

私と達也は両手を合わせ寝室で眠るおばあちゃんに”行ってきますの挨拶”を済ましてから、父に続き玄関の扉を開け外に出た。

そして、おばあちゃんの家から少し離れたところに駐車してある車に乗り込んだ。いつも母が乗っている特等席であるはずの運転席に、私は腰をかけ慣れないハンドルを握りしめた。

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