パーキンソン症候群(パーキンソニズム)って何?そんな疑問を解決
パーキンソン病ではなくても、「手足の震え」や「筋肉の強ばり」、「緩慢な動作」、「歩行障害」などのパーキンソン病に似た症状が現れることをご存知ですか?
つまり、パーキンソン病と似た症状があっても、別の病気である可能性があるという話です。
しかし、なぜパーキンソン病と似た症状が現れるのでしょうか?
ここでは、「パーキンソニズム」や「パーキンソン症候群」という言葉をキーワードに、その正体を探っていきたいと思います。
パーキンソニズム(パーキンソン症状)
みなさん「パーキンソニズム」という言葉を聞いたことはありますか?この言葉は、パーキンソン病を理解する上で非常に大切な言葉です。
パーキンソン病の症状は大きく次の2つの症状に分けることが出来ます。
- 運動症状
- 手足の震えや筋肉の固縮、動作緩慢、姿勢反射障害など
- 非運動症状
- 便秘や立ちくらみ、頻尿などの「自律神経症状」、「認知症の症状」、うつなどの「精神症状」など
特に、前者の運動症状はパーキンソン病でよく見られる特徴症状で「パーキンソニズム」といいます。
ただし冒頭でもお伝えした通り、このパーキンソニズムは、パーキンソン病以外のさまざまな病気でもみられる症状です。つまり、震えがみられるからといって必ずしもパーキンソン病とは限らないということです。また、「パーキンソニズム」は症状を現す言葉であり、病名ではないということを覚えて置いて下さい。
次に「パーキンソン症候群」とはどういった用語なのか確認していきましょう。
パーキンソン症候群
パーキンソン症候群とは
「パーキンソン症候群」とは、パーキンソン病以外のパーキンソニズムが現れる病気の総称です。したがって、”症候群”という言葉通り、パーキンソン症候群に含まれる疾患は次のリストのように沢山あります。
- 薬剤性パーキンソン症候群
- 脳血管性パーキンソン症候群
- 正常圧水頭症
- 神経変性疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、多系統萎縮症)
- レビー小体型認知症
- シャイ・ドレーガー症候群
では、「パーキンソン病」と「パーキンソン症候群」では、どのような違いがあるのでしょうか?
パーキンソン症候群とパーキンソン病の違い
「パーキンソン症候群」と「パーキンソン病」ともに、パーキンソニズムが現れます。しかし、これら2つは下のリストのような違いが存在します。
- 一般的に「パーキンソン症候群」では、振戦よりも筋固縮の症状が現れるケースが多く、左右対称に症状が現れやすい。
- パーキンソン症候群は、進行が早く早期から転倒する。
- 「パーキンソン症候群」では、パーキンソン病の治療薬(L-ドーパなど)が効きにくい。
- 「パーキンソン病」は、「特定疾患」として国に指定されているが、「パーキンソン症候群」は該当しないものもある(注1)。
- 「パーキンソン症候群」でもパーキンソニズムが現れるが、それらの多くは「パーキンソン病」とは実質的な原因が異なり治療法も異なる。
注1:多系統萎縮症や進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症などは特定疾患に指定済
では、実際に「パーキンソン症候群」に含まれるものを、その原因別に詳しく説明していきます。
薬剤性パーキンソン症候群
薬の副作用によってもパーキンソニズムが現れ、これを「薬剤性パーキンソン症候群」と呼びます。パーキンソン症候群全体の約20%を、この薬剤性パーキンソン症候群が占めているとも言われています。
制吐薬や抗うつ薬などさまざまな薬でパーキンソニズムが引き起こされる可能性があります。下の表は、パーキンソニズムを引き起こす可能性のある主な薬の一覧です。
薬効分類 | 一般名 | 主な商品名 |
---|---|---|
定型抗精神病薬 | クロルプロマジン | ウィンタミン、コントミン |
レボメプロマジン | ヒルナミン、レボトミン | |
ペルフェナジン | ピーゼットシー | |
チアプリド | グラマリール | |
スルピリド | ドグマチール | |
非定型抗精神病薬 | リスペリドン | リスパダール |
クエチアピン | セロクエル | |
ペロスピロン | ルーラン | |
降圧薬 | レセルピン | アポプロン、セルパシル |
ジルチアゼム | ヘルベッサー | |
抗てんかん薬 | バルプロ酸ナトリウム | デパケン |
抗認知症薬 | ドネペジル | アリセプト |
これらの薬には、脳内のドーパミンをブロックしたり、減らしたりする作用があるため、パーキンソニズムを引き起こすのです。ただし、上の表に載っている薬を服用している全員にパーキンソニズムが現れるわけではありません。また、薬の種類によってもパーキンソニズムの出現頻度に違いがあり、特に「定型抗精神病薬」でパーキンソニズムの出現頻度が高いと言われています。
「薬剤性パーキンソン症候群」の原因は薬の副作用ですので、新しい薬を服用して間もない時や今までの薬を増量した時に出現しやすい傾向があります。したがって、その多くは薬の減量や服用の中止をすることで症状が改善します。ただし、素人判断で服薬を中止すると、逆に元の病気が悪化してしまう恐れがあるので必ず医師に相談して下さい。
脳血管性パーキンソン症候群
脳血管障害が原因の病気により、運動機能が障害されパーキンソニズムが現れるものを「脳血管性パーキンソン症候群」と呼びます。
「脳血管性パーキンソン症候群」では、安静時振戦が無く手の動きは悪くないのに、歩行障害や姿勢反射障害が目立って現れるケースが多いです。また、歩き方は小刻み歩行で、パーキンソン病とは違い左右の足を開いた歩き方になります。呂律がまわらなかったり、認知症の症状が現れることもあります。
「脳血管性パーキンソン症候群」の治療は、脳血管障害の再発予防を目的とした薬物治療と、血圧や血糖値などのコントロールが治療の中心になります。
正常圧水頭症
脳には、脳室という髄液を溜めている場所があります。「正常圧水頭症」とは、この脳室の髄液の流れが滞り、過剰に溜まることで脳を圧迫する病気です。
正常圧水頭症では、「歩行障害」「尿失禁」「認知機能障害」の3つが特徴的な症状として現れます。具体的には、歩き方が小刻みになり、尿を漏らす、もの忘れをするといった症状が見られます。
正常圧水頭症は、チューブを脳室に入れて髄液を出す「シャント手術」による治療が効果的です。
神経変性疾患
神経変性疾患とは、パーキンソン病のように脳神経が変性する病気の総称です。パーキンソニズムを引き起こす神経変性疾患には「進行性核上性麻痺」、「大脳皮質基底核変性症」「多系統萎縮症」などがあります。
神経変性疾患は、初期にはパーキンソン病との鑑別が難しいことも少なくありません。一方で、パーキンソン病とは異なり有効な治療法が無いものもあります。
進行性核上性麻痺(PSP)
パーキンソン病の原因はレビー小体の蓄積ですが、「進行性核上性麻痺」の原因はタウというタンパク質の蓄積です。「進行性核上性麻痺」では、目の動きが悪くなります。特に、下方を見にくくなります。また、パーキンソン病は、ある程度病気が進行してから「姿勢反射障害」というバランスが取りにくくなる症状が見られますが、「進行性核上性麻痺」は、初期からバランス障害やすくみ足などの症状が現れ転びやすくなります。
大脳皮質基底核変性症(CBD)
「大脳皮質基底核変性症」も、上の進行性核上性麻痺と同じくタウというタンパク質が原因の病気です。
パーキンソン病とは違い、「大脳皮質基底核変性症」の場合は左右どちらかに症状がハッキリ現れ、病気が進行しても片側だけに強い症状が見られます。初期から、片側の手足が使いづらい、勝手に動く、硬くなるといった症状が現れます。また、言葉の扱いや片側の空間認識障害や認知症などの症状も現れます。
多系統萎縮症(MSA)
病気の初期から排尿障害などの自律神経症状が現れ、飲み込みが悪くなったり、睡眠中のいびきや無呼吸が現れます。
レビー小体型認知症|パーキンソン病の兄弟
実は、パーキンソン病には「レビー小体型認知症」という兄弟がいます。パーキンソン病は、レビー小体が脳幹を中心に現れることで発病する病気です。一方で、レビー小体型認知症は、レビー小体が脳の大脳皮質を中心に現れ発病する病気です。このレビー小体を原因とする病気をまとめて「レビー小体病」と言います。
しかし、いくら兄弟とはいっても、症状の現れ方や治療法などは異なってくるので注意が必要です。薬によっては、症状を悪化させるものもあります。もし、パーキンソン病が進行し、レビー小体型認知症の特徴的な症状である幻覚などが現れた場合は、直ぐに医師に相談し治療法を見直してもらいましょう。