正常圧水頭症とは|原因や症状から診断・治療法まで
治る認知症が存在することをご存知だろうか?
今現在、認知症の代表格の「アルツハイマー病」や「レビー小体病」などの原因を完全に消し去る方法は存在しません。
一方、認知症の中には原因となる病気を、早期に適切に治療することでほぼ完全に消し去ることができるものがいくつか存在します。
そこでここでは、「治せる認知症」の中でも「正常圧水頭症」という病気についてご紹介していきます。
正常圧水頭症とは
まずは、正常圧水頭症についての具体的理解を深めていきましょう。
正常圧水頭症の定義
正常圧水頭症とは、次のような病気です。
正常圧水頭症とは、脳の内側や脊髄の周囲を満たしている無色透明の液体「髄液」が過剰に溜まって脳室が拡大し、脳を外側へと圧迫する病気です。
脳は、硬い頭蓋骨と硬膜で守られていて、その中にある髄液に受かんでいる状態と考えて下さい。髄液は脳内にある脳室という部位で作られています。
※脳室・・・脳の中心にある髄液という液体に満たされた空間。脳画像で真ん中に映る、カーブを描き左右に広がった黒い部分。
脳室で作られた髄液は、脳内から脊髄の先までを循環し、最終的には脳の表面で吸収されるようになっています。髄液の循環順序は次のよう流れで運ばれます。
側脳室⇒モンロー孔⇒第三脳室⇒中脳水道⇒第四脳室⇒ルシュカ孔・マジェンディー孔⇒脳槽⇒上矢状性動脈洞という経路で流れている。
しかし、何らかのトラブルでこの循環が滞り、この経路のどこかで流れが詰まった状態が正常圧水頭症です。
正常圧水頭症の原因
また、正常圧水頭症は、「原因が明らかになっているかどうか」で2タイプに分けることが出来ます。
- 続発性正常圧水頭症
- 原因明らかな場合(くも膜下出血、頭部外傷、髄膜炎、脳腫瘍などの後遺症で炎症や癒着を起こし循環経路を塞ぐ)
- 特発性正常圧水頭症
- 原因が明らかでない場合
髄液は、脳や脊髄を回ったあとに頭部の静脈から吸収され、脳室の中には常に一定量の髄液が溜まっています。ところが、正常圧水頭症になると、脳や髄液を循環⇒頭部静脈が吸収というプロセスがスムーズに出来なくなる循環障害が起こります。すると、髄液が静脈から吸収されなくなり、一定量を超えて過剰に髄液が脳室に溜まり、その髄液が脳を圧迫するのです。
正常圧水頭症の症状
想像してみて下さい。
通常、頭蓋骨の中に正常に収まっている脳が、髄液が過剰に溢れて圧迫されてドンドン押しやられている状態を、きっと何か問題が発生することは簡単に想像できるはずです。
その通りです。正常圧水頭症を発症すると様々な弊害をもたらします。
正常圧水頭症の症状としては、次の3つの特徴的な症状が現れます。
- 歩行障害
- 認知症(記憶障害などの症状)
- 尿失禁
そして、3つの症状は上から順番に発生するケースがほとんどです。
特に、正常圧水頭症を発症している人の目立つ症状は、歩行障害です。次の病気の診断のポイントにもなるので頭の隅にそのことを置いといてください。
正常圧水頭症の診断
正常圧水頭症の診断は、画像検査と特徴症状を判断材料にして行います。医師ではない、介護者の方でも診断のポイントを知っておくことで病気を早期発見することができます。
当然、早期に病気を発見できれば、症状が軽いうちに治療することが可能です。特に、正常圧水頭症は手術で治せる病気ですので、早期発見する意義は大変大きいです。
CTやMRIによる診断
正常圧水頭症の診断は、MRIやCTといった画像検査で行い次の2点をチェックします。
- 脳室が拡がっているかどうか確認
- 脳溝が消えているかどうか確認
脳室が広がって、脳の外側にあるくも膜下腔を圧迫しているように見えるのが正常圧水頭症の特徴です。したがって、脳の真ん中部分(脳室)は黒く映り、外側部分(脳溝)では黒さが目立ちにくくなります。
引用:難病情報センター
CTやMRIによる画像診断により、高い確率で正常圧水頭症は発見できますが、次の3つの症状が現れていないかチェックして診断の質を上げましょう。
3つの特徴症状による診断
また、正常圧水頭症に特徴的な3つの症状「物忘れ」「歩行障害」「尿失禁」があるかどうか確認することも診断のポイントです。
歩行障害による診断
引用:ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社
特に、正常圧水頭症の人に特徴的な歩行障害について見ていきましょう。
健康な人の足の運び方 | つま先が真っ直ぐに向き、歩幅は普通 |
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正常圧水頭症の人の足の運び方 | つま先が外側に向き、歩幅は小さい |
また、歩行障害が特徴症状として現れる病気にパーキンソン病があります。両者の違いは次の通りです。
正常圧水頭症 | 左右両足の距離が広く開脚している |
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パーキンソン病 | 左右どちらかの足が出しにくい、突進歩行 |
しかし、高齢になるほどこれら3つの症状があらわれやすくなるため、診断が困難になります。
タップテスト
そこで行われるのが「タップテスト」です。
タップテストは髄液排除試験とも呼ばれ、その名の通り髄液を抜き症状が改善するかどうか確認する検査法です。
タップテストのやり方は、背中から30㎖程度の髄液を抜き、数日から1週間期間をあけて歩行障害の改善がみられるか確認します。
そして、歩行障害の改善が見られれば手術により治療を行います。
アルツハイマー病との鑑別
しかし、医師でも、正常圧水頭症をアルツハイマー型認知症と誤診し、そのまま放置してしまうケースが度々存在するのも事実です。
なぜ、このような誤診や見逃しが発生するのかというと、正常圧水頭症とアルツハイマー病は似ている点があるからです。
なぜなら、アルツハイマー病では、正常圧水頭症と同じような特徴があります。
- 物忘れといった認知症の症状が現れる
- CTやMRIでは脳の中心部分(脳室)が委縮し黒く映る
ですが、正常圧水頭症はアルツハイマー型認知症とは違い、根本的に原因を失くすことができる治せる認知症です。本来は、正常圧水頭症なのにも関わらず、他の病気の治療が続けていると当たり前ですが良くなるものも良くなりません。
したがって、正常圧水頭症とアルツハイマー病を鑑別する為にも、上でご紹介した画像診断と特徴症状にしっかりと目を配って下さい。
病名 | CT・MRI画像 | 歩行症状 |
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正常圧水頭症 | 脳溝が消失する(特に頭頂部) | 初期から歩行障害が現れる |
アルツハイマー型認知症 | 脳溝があり深い | 中後期~後期に歩行障害が現れる |
正常圧水頭症の治療
今までお伝えしてきた通り、正常圧水頭症は治る認知症です。手術により脳に溜まった髄液を排出することで病気は治り歩行障害や認知症の症状も治まります。
シャント手術
正常圧水頭症の治療は、「髄液シャント術」という手術で、脳室に過剰に溜まった髄液を外に出します。髄液シャント術では、脳と脳以外の腹部などをシャント(細い管)で繋ぎそちらへ逃がします。
脳室腹腔シャント手術 | 脳室から腹部へ |
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脳室心房シャント手術 | 脳室から心房へ |
腰椎くも膜下腔腹腔手術 | 腰髄から腹部へ |
3つの中でも一番多く用いられるのが、脳室から腹部へと髄液を流すバイパス手術です。手術方法は、バルブと呼ばれる装置を逃避の下に取り付け、頭蓋骨にちいさな穴をあけてそこから脳室へと管を通し、管のもう1方を頭から首から腹部の皮膚の下へと通し、お腹の中へと髄液を誘導します。
正常圧水頭症は、脳のダメ―ジが比較的軽い状態でシャント手術を行うことで、脳室の髄液が元の量に戻り高い確率で歩行障害や認知症の症状が劇的に改善されます。しかし、シャント手術による歩行障害や認知機能障害の改善の程度は、脳のダメージの度合いにより変化しますので、早期発見・早期治療することが大切になってきます。
その為も、本人やご家族はここで説明した、正常圧水頭症の3つの特徴症状が現れたら直ぐに医師に受診しましょう。
また、あってはならないことですが、医師でも誤診や見逃しがあることを頭の片隅に入れて置くことも大切です。必要に応じて、治療の見直しやセカンドオピニオンを求めましょう。