言語障害とは?構音障害と失語症の症状と原因

「言葉が上手く喋れない」いわゆる「言語障害」には、いくつかのタイプがあることをご存知でしょうか?

脳卒中(脳梗塞や脳出血)の後遺症や認知症で起こる言語障害は次の2タイプです。

  1. 構音障害こうおんしょうがい(運動障害性構音障害)
  2. 失語症しつごしょう

会話が不自由という点では、「構音障害」も「失語症」も同じような印象が持たれがちですが、まったくその症状や原因も異なる障害です。その為、同じ言語障害といってもリハビリテーションの進め方や介護の仕方に違いが出てきます。

この記事では、”構音障害”と”失語症”のタイプ別に、その症状や原因について解説していきます。

構音障害

構音障害の症状

構音障害とは、正しい言葉を選択し話せるものの、声が出にくかったり、呂律が回らず正しい発音が出来なくなる言語障害です。つまり、構音障害の人は、口や舌といった発声発語器官を上手く動かすことが出来なくなってしまいます。

構音障害の原因|口やのどの筋肉の運動障害

構音障害の原因は、脳の運動機能を担当する部位が障害を受け、スムーズに動かせなくなることです。例えば、脳卒中の後遺症やパーキンソン病などが原因で、のど(咽喉)や呼吸器、舌、顎、唇といった発語発音器官がスムーズに動かすことができず、発声が上手く出来なくなります。

なお、認知症では、病気がかなり進行してから構音障害が現れることがほとんどです。

失語症

失語症の症状

失語症とは、発語発音器官に運動障害が無いものの、脳の言語をコントロール言語中枢の障害により、思ったことと異なる言葉が出たり、聞いた言葉を理解できなくなる障害です。例えば、”言葉が分からない国に、突然放り出されたような状態”と捉えていただくと分かりやすいかもしれません。

誰でも、相手の言葉を理解できず、自分の思いも上手に伝えることが出来ないもどかしさは想像に難くありません。ましてや、失語症の場合は、今まで住み慣れた環境が突然外国のように感じるので、そのもどかしさやショックは図り知れないものです。

失語症では、言語中枢に障害が現れるため、大きく6つの働きに障害が現れます。

  • 聞き取れない。
  • 話せない。
  • 相手の言ったことを復唱できない。
  • 読み書きができない。
  • 物の名前が言えない(呼称できない)。
  • 計算できない。

失語症の原因|言葉の理解力の問題

失語症の原因は、高次脳機能障害の1つで、大脳の言語中枢がダメージを受けることです。言語中枢は、左右に分かれた大脳の左脳に障害が起こった人に多く見られます。左脳の脳血管障害では、右半身麻痺が起こりますが、それに失語症を伴うケースがよく見られます。

なお、認知症の場合でも、言語中枢が障害され「失語」という症状が現れることがあります。

失語とは

運動性失語と感覚性失語がある

言語中枢は2カ所に分かれ、それぞれの働きに応じた失語症が現れます。

運動性失語
前頭葉のブローカ中枢という場所が障害されることで起こる失語症です。ブローカ中枢の障害により、言葉の理解はできるものの、発語がぎこちなくなります。
感覚性失語
側頭葉のウェルニッケ中枢という場所が障害されることで起こる失語症です。ウェルニッケ中枢の障害により、言葉の意味が理解できなくなったり、意味不明な言葉を話したりします。

失語症の症状はさらに2つに分かれる

失語症の症状は、2つのタイプに分けられます。

表出|思ったのと違う言葉が出る

失語症に見られる言葉の発し方(表出)の症状は主に次の通りです。

症状名 内容 補足
換語困難 思うことを言葉にするのが難しい状態。質問の答えが頭の中にあっても「えー」「あの・・・」などとしか言葉が出なくなる 保続 直前の質問の答えを繰り返してしまう。
迂言 「包丁」と言いたいのに「さかなを切るやつ」など遠回しに言ったりする。
失名詞失語 流暢に話せるが物の名前等いくつかの単語が出てこない。
錯語 考えていることとは別の言葉が出てしまう状態 語性錯語(意味性錯語) 「何が食べたい?」と聞かれ、本当は「うどん」が食べたいのに「そば」など違う単語を発声してしまう。
音韻性錯語(字性錯語) 「ハサミ」のことを「サハミ」等単語の中の語が入れ替わってしまう。
発音の障害 構音障害の様に麻痺などの運動障害が無いのにも関わらず、発音がぎこちなく、発語速度や話し方のリズムが障害されている状態 「お~げんき~ですか」といった具合にリズムが一定しない。

文法の障害

言葉を組み合わせ正しい文を作って話せない状態 本当は「お腹の右側が痛い」と言いたい時に「右の痛いお腹のね」などとなってしまう。
ジャーゴン まったく意味をなさない音の繋がりや単語の繋がりを発してしまう状態 「おはよう」と言われ「だはたいえ」等、意味のない言葉を発してしまう。
書字の障害 書くことが困難になる状態 自分の名前の様によく分かっていることでもとっさに求められると書けなくなることがある。

受容|聞いた言葉を理解できない

言葉の表出だけでなく、言葉の受け入れ(受容)にも特徴的な症状が見られることがあります。

聞いて理解することの障害 聴力は正常で耳は聞こえるのに、聞いた言葉や文章が理解できない状態。
読むことの障害 目で見た文字や文章が理解できない状態。音読できても内容が理解できなかったり、漢字と仮名で理解に差が生じることもあります。
記銘力の低下による障害 見聞きしたことを一旦は理解できても、長く覚えておけない為に会話が詰まったりする状態。
その他 時計を見て時刻を知ることが出来なくなったり、ごく簡単な計算が出来なくなることがあります。

構音障害と失語症の違い

人間は、脳の言語領域を司る「言語中枢」と口などの発音発声器官の運動領域を司る「運動中枢」の両方を使用し、言葉を話しています。

言語中枢
イメージに適した言葉を選び、更にそれをどのように伝えるかをまとめ運動中枢に伝える働きを持つ。
運動中枢
言語中枢から伝えられた命令をもとに、口や舌などの体の部分を動かす命令を発する働きを持つ。

構音障害は「運動機能」失語症は「高次脳機能」の障害によるもの

ところで、「構音障害」と「失語症」とでは、どの様な違いがあるのでしょうか。今までの説明も含めてその違いを確認してみましょう。

構音障害と失語症の違い
構音障害 「運動機能」のダメージを原因とする発語発音器官の「運動障害」によるもの、言葉の理解や言葉の選択には問題がない。
失語症 「聞いて理解する」「読んで理解する」「書く」といったことが「高次脳機能」のダメージを原因とする高次脳機能障害によるもの、発語発音器官の運動機能には問題がない。

つまり、両者の違いは、口やのどが上手く動かない「運動障害=構音障害」か、意味の理解や言葉の選択が上手くできない「高次脳機能障害=失語症」かの違いです。

言語障害の診断

言語障害のタイプの診断は、医師や看護師、言語聴覚士などの専門家が、実際に患者さんとコミュニケーションを取りながら行います。

構音障害の診断|声音や会話の明瞭度を診断

構音障害のどこに問題があるのか、見極めるには詳細な診断が必要です。次の様な項目を目安に”構音障害かどうか”診断していきます。

  • 声の大きさや質、強さはどの程度か(声)
  • 鼻に響く共鳴の有無(共鳴)
  • 発音の様子。発する音の誤りは、母音と子音でどのような傾向があるか(構音)
  • 話し方の調子。発話速度や抑揚、発話のリズムはどうか(韻律)
  • 声、共鳴、構音、韻律を総合し、発話の内容が聞き手にハッキリわかるかどうか。内容がハッキリしているか(明瞭度)

構音障害は、失語症とは異なり、発語が困難でも言葉の理解力には問題はありません。多くの場合、口を大きく開けて一音ずつはっきりと、自信を持って話せるようになることがリハビリテーションの目標となります。

失語症の診断|問題点のチェック

失語症については、「運動性失語」か「感覚性失語」か、「表出」か「受容」か、どこに問題があるのかを確認していきます。次の様な項目を目安に”失語症かどうか”診断していきます。

  • 言われたことへの反応
  • 言われた言葉・短文の復唱
  • 精神機能・状態
  • 挨拶への反応
  • 自分の名前の認識
  • 身の周りの物・事柄の理解

その他の言語障害

意識障害に伴う言語障害

脳血管障害が大脳の広範囲に及んだり、病巣が散在すると、意識障害や知的活動の低下を招くことがあります。

その為、ぼんやりして反応が鈍くなる、周囲との会話がスムーズにいかなくなる、簡単なことを忘れてしまう、といった問題が現れることがあります。これらは、急性期によく見られる症状で、意識の回復とともにそのほとんどは軽減または消失していきます。

他の高次脳機能障害もコミュニケーションに影響

高次脳機能障害とは、記憶や読み書き、会話、計算といった脳の細やかな知的活動に障害が生じるものです。失語症の他、日頃からよくわかっているはずのことが認知できなくなる「失認」と、分かっているはずの行動ができなくなる「失行」などが有名です。

まとめ

「構音障害」「失語症」とも症状や原因に違いがあることが分かって頂けたと思います。したがって、「構音障害」には構音障害のリハビリ、「失語症」には失語症のリハビリがあり、またその人の症状に合わせて進められます。そして、介護の仕方にも違いが出てきます。

言語障害の方のリハビリや介護のコツについては、また他の記事で解説させていただきたいと思います。

言語障害(失語症・構音障害)のリハビリテーション