てんかん発作の対処法&安全性を高める事前対応
突然、隣人がガクガクと全身を痙攣させる“てんかん発作”を起こしたらどう対処しますか。
きっと、大多数の人は “てんかん発作にどのようにして対処すべきか” わからずただ慌てふためくことでしょう。
しかし、それではダメです。
思わぬ事故を招いてしまうかもしれません。周囲(家族、先生、同級生、職場の同僚)にいる人は、冷静に状況を判断し、安全を確保するよう対処する必要があります。
また、患者さん自身やご家族も、日頃から“なるべく発作が起きないよう”、“発作が起きても事故を防げるよう”に事前に対応しておくことが大切です。
ここでは“発作時の対処法”および“安全性を高める事前対応”について解説していくので、是非参考にして下さい。
1.てんかん発作の対処法
てんかん発作時の対処法
てんかん発作に遭遇した時、家族や周りの人の驚きと戸惑いは大きいものです。息を止め全身を震わせるような大きな発作なら尚更だと思います。
しかし、決して慌ててはいけません。
対処の基本は“冷静な見守り”
てんかん発作の対処の基本は、冷静に見守ることです。
まずは落ち着いて、本人がケガをしないように注意対応し、発作の一部始終をよく観察します。無理やり身体を抑えつけても発作は止まりません。逆にケガをさせてしまう恐れもあります。
ほとんどの発作は、特別な処置をしなくても、徐々に痙攣は穏やかになり、やがて自然に止まります(およそ5分以内)。それと同時に止まっていた呼吸も再開されます。
ただし、発作が治まった後、完全に意識が回復するまでには、少し時間がかかることもあるので、静かに見守り続けましょう。
※余裕があれば、発作が始まった時刻を確認しておくと診断や治療に役立ちます。
ですが、痙攣が5分以上続く発作や、何度も痙攣を繰り返す発作の場合は、緊急の治療を要する危険な状態ですので、下のリンクを参考に対処して下さい。
危険物を退ける等の対処で“二次被害”を避ける
ほとんどのてんかん発作(てんかん重積以外)は、自然に治まり脳に障害を受けることはありません。
ですが、痙攣中に身体をぶつけたり、棚に当たって物が落ちてきたり、意識を失い階段から転げ落ちたり、浴室で転倒して頭を打ったり、等の不意の事故でケガを負うことがあります。
このような二次被害を防ぐには、発作が起きたら速やかに、本人やその近くの人が対処することが大切です。
- 落下してきそうな物を片づけ、家具を動かすなどして空間をあけます。
- クッションや枕など柔らかい物を、頭の下に入れ支えます。
- 発作の前兆症状がある場合、座らせる・床に寝かせるなどして安全な場所に移動させます。
- 意識を失い全身を痙攣させるような発作がある場合、椅子に座っていれば床におろします。頭を保護して、きつい衣類は緩め、横にします。眼鏡なども外します。
- お風呂の中で発作を起こした時は、本人の身体を支えると同時にバスタブの栓を抜き、溺れないようにして下さい。また、水を飲んでいないか確認します。
- 舌を噛まないようにと、口にタオル等を噛ませてもダメです。無理に口を開こうとすると、介助する人がケガをする恐れがあります。
- 食事中に発作起こった場合も、無理に口の中の食べ物を取り除かないで下さい。大きな発作が起きている間は呼吸が止まるので、飲み込み動作も出来ないため窒息する心配はありません。発作が落ち着いてから吐き出させるようにします。
- ただし、もし誤嚥した時は、吸引などの応急処置が必要になります。また、口の中に箸・フォーク等の危険物がある場合は、歯の折損、口や喉の損傷を招く原因となるので、十分に注意して取り除きます。
“てんかんの発作型”を知り対処法をシミュレーション
1つにてんかん発作といっても、その症状や大きさは患者さんによって異なり、一旦始まった発作がどこで治まるかは、その時々で違います。
- 始めから意識を失い、全身を痙攣させるような大きな発作(全般発作)
- 身体の一部の痙攣だけ、本人の自覚症状だけ、ぼんやりしているだけ、精神症状だけの意識のある小さな発作(単純部分発作)
- ②の小さな発作から、徐々に意識が障害されるような発作(複雑部分発作)
- ③の発作から①のような全身の痙攣を伴う発作に移っていくもの(二次性全般化発作)
また、強直間代発作、強直発作や複雑部分発作等のけいれんの後に現れる、朦朧状態(意識がハッキリとしない)の時は、意識がくもったまま無目的に歩き回ることもあります。
しかし、何もこれら発作がランダムに現れるわけではありません。現れるてんかん発作の種類は、患者さんごとにある程度決まっていて、ほぼ毎回同じ症状です。したがって、てんかん発作に上手く対処するためには、事前にどのような発作が現れるのかを知り、頭の中でシュミレーションしておきましょう。
てんかん発作から完全回復までの看護対応
回復度合いを注意深く観察
無事てんかんの発作が治まってきた場合、元の活動にすぐに戻って良いかどうかは、本人の様子を見て判断します。完全に発作前の状態に戻るまでは、注意深く様子を見守ります。
発作が起きても回復が早く、特に問題がないようなら特別な手当ては不要です。一方、発作の影響が残っている間は無理をしないことが原則です。
“てんかん発作から回復できているかどうか“、下の表のチェック項目を参考に確認してみましょう。
5分以上の発作や、反復する発作があるか | このようなてんかん重積状態は危険です。てんかん重積の対処法を参考に対応して下さい |
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ケガの有無 | 勢いよく転倒して頭や体を打ち付けたり、ケガをしてしまったりすることがあります。痛みや出血が無いか確認し、必要があれば手当をします。 |
体調や気分は悪くないか | 頭痛や吐き気、身体のだるさ等がしばらく続くことがあります。本人の体調がすぐれない時は、ゆっくり休ませましょう。 |
意識の回復レベル | 呼びかけに応えられるくらい意識が回復しても、記憶力は十分に戻っていないこともあります。しっかり回復するまで、休ませましょう |
手足に麻痺が残っていないか | 運動発作が起きた後、手足が麻痺して動かない状態がしばらく続くことがあります。動かせるかどうか確認しましょう。 |
発作後は無理をさせないのがベストな看護対応
もしも、先ほどの「発作後の確認チェック5項目」のいずれかに問題がある場合は、無理をさせないことがベストな看護対応と言えるでしょう。
- 痙攣や強ばりが治まり、力が抜けた後は、そのまま眠り込んでしまうことも多いです。これは激しく興奮して疲れた脳を休ませる為のものですので、無理に起こさず静かに休ませます。衣類を緩めて、汗を拭いてあげましょう。また、眠っている間に吐いてしまうこともあります。吐物を誤嚥し窒息させないよう横向きの姿勢で寝かせましょう。
- 意識がハッキリしない朦朧状態の時は、時折声掛けをして意識の回復を待ちます(「○○さん」と名前を呼んでみる、「ここはどこ?」「今日は何日?」と質問しみるなど・・)。
- 朦朧状態で歩き回っている時に、無理に行動を制限すると、激しく抵抗されることがあります。押えつけず付き添うかたちで、危険物を取り除き保護しましょう。転落や事故の危険がある場所では、身体でガードする等してさりげなく歩く方向を変えるように導きます。
- 朦朧状態での口からの服薬は禁止です。むせたり、誤嚥して肺炎を起こす危険があります。発作を起こし時の処方薬でも同じです、意識がハッキリしてから飲ませましょう(座薬等の安全性が高いものを使うと良いでしょう)。
完全にてんかん発作が治まったら
完全に回復すれば、発作前の活動を再開できます。
特に指示が無く、発作も自然に治まったのであれば、発作の度に医療機関に駆け込む必要はありません。通院中なら次回受診時に発作のことを伝えましょう。しかし、てんかん発作と確定診断されていない場合は、意識障害や痙攣があるからといって、必ずてんかん発作とは限らないので、早めに受診しましょう。
“てんかん重積状態”の対処法
発作が5分以上続く、繰り返し起こるといった場合は“てんかん重積状態”かもしれません。
てんかん重積(痙攣発作重積)とは、てんかん発作が長く続いたり、意識がハッキリしないまま繰り返したりする状態です。無呼吸状態が続き、無呼吸状態が続き脳や全身の酸素が欠乏を招きます。
てんかん重積は、けいれんが主体の「けいれん性てんかん重積」と意識障害が主体の「非けいれん性てんかん重積」に分かれます。
このてんかん重積状態に陥ると、通常のてんかん発作とは違い、“脳に後遺症を残す、最悪命を落とす危険性”があります(特にけいれん性てんかん重積に注意が必要)。
したがって、てんかん重積状態の場合、発作を止めるための緊急治療(注射や点滴)を受けなければなりません。痙攣が5分以上続くようなら、すぐにかかりつけ医に相談するか、救急車を呼び医療機関に受診しましょう。
全身のけいれんが5分以上止まらない |
意識が回復しないまま発作を2回以上繰り返している |
呼吸の状態がおかしい |
2.てんかん発作への事前対応で安全な生活を
てんかん発作がある人でも、日常生活を見直すことで“発作の回数を減らしたり”、“症状を和らげたり”することは可能です。
発作の誘因と対処法
てんかん発作は誘因なく出現するのが一般的です。しかし、特定の刺激(特異的要因)、特定の状況(非特異的要因)がてんかんの誘因となることがあります。
特異的要因 | 非特異的要因 |
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視覚性(光、テレビ、ゲーム) | 疲労 |
聴覚性(音) | 睡眠不足 |
知覚性(接触) | ストレス |
精神活動性(計算、思考、パズル、読書) | 薬の飲み忘れ |
その他(入浴、食事) | 飲酒 |
月経・妊娠 |
特異的要因の対処~光刺激など発作の直接的な誘因を回避
光刺激など“特異的要因”により、てんかん発作が誘発されていることが明らかな場合は、できるだけその誘因を避けることが必要です。例えば、光刺激に弱い人の場合、部屋を明るくし、テレビ画面を暗めに設定し、離れて見るなどして対応するとよいでしょう。また、サングラスなどでも発作の予防効果が期待できます。
非特異的要因の対処~生活リズムを整え、体調管理を徹底
睡眠不足や疲労、ストレス、飲酒などの“非特異的要因”にも気を付ける必要があります。非特異的要因は、生活リズムを整え、体調管理を心掛けることが大切です。
十分な睡眠時間を確保し、良質な睡眠をとる | 極端な睡眠不足が続くと発作が起こりやすくなります。また睡眠不足は体調の変化も招きやすく、さらに発作の危険が増してしまします。 |
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深酒はしない | アルコールはてんかんの悪化要因の1つと言われています。深酒は睡眠不足や薬の飲み忘れにも繋がりやすく、二重の意味で危険です。 |
規則正しい服薬 | てんかん発作は薬で抑制するのが一般的です。多くのてんかん患者さんは薬を長期間にわたって服用することになります。抗てんかん薬は毎日規則正しく服用することで、その効果が十分に発揮されます。しかし、薬の飲み忘れが続くと、発作が抑制されませんので、飲み忘れを防ぎましょう。 |
※タバコとてんかん発作の関係性は明確ではありません。しかし、たばこは健康に悪いので吸わないことに越したことはありません。
発作に備えた事前対応でリスク管理せよ
いくらてんかん発作の誘因をなくすよう努力したとしても、抗てんかん薬をしっかりと服用していても、発作は起こる時は起こります。
ですので、ケガや事故等のリスクを回避・低減させるためにも、いざ発作が起こった時に備え事前に準備しておくことが大切です。
室内の環境整備
- 室内に鋭利な物や、ストーブなど危険な物は置かないようにする。
- 転倒に備え床はクッション性の優れた畳やセラピーマットを敷く、机の角などにはクッション材を貼るなどの対策をとる。
入浴時の対応
- 火傷をしないように、火を止めてから入浴する。
- 意識を失う発作がある方は、シャワー浴を習慣化する方が安全です。
- 入浴する場合は、家族(大人)と一緒に入浴する。
- 1人で入浴するときには、定期的に家族が声をかけ状況確認を行う。
- 浴槽のお湯を少なくする、浴室に鍵を掛けない。
- クッション性のあるマットを敷き滑らないようにしたり、インターホンを付ける等の工夫をする。
家事の対応
- 調理は誰かがいる時にするようにする。
- 安全装置の付いたガスコンロやポットを使用する。
- 電子レンジやIHクッキングヒーターなどより安全性の高いものを多用する。
- アイロンがけは1人で行わない。
外出時の対応
- 体調が優れない時や発作が頻発している時の外出は控えまる。
- 駅のホーム付近や崖など転倒や転落すると危険な場所は、できるだけ避け安全な場所で待機しましょう。
- 階段やエスカレーターではなく、エレベーターを使用する。
- 歩道を歩く時も、できるだけ車道から離れた位置を歩く、付き添って腕を組んで移動する。
- 転倒する発作がある方は、普段からの保護帽やサポーターなどの使用をオススメします。
旅行時の対応
- 薬は普段通りにきっちり服薬し、不測の事態に備え余分に持っていく。
- 主治医に旅行中に発作が起きた場合の対処方法、行動指針、連絡方法を訊ねておく。
- なるべく家族や知人など発作への対処法を知っている人と同行する。
- 旅行スケジュールを家族に伝えて、直ぐに連絡を取り合えるようにする。旅行中は、旅の経過を細目に報告する。
- 無理なスケジュールは立てず、ゆとりのあるペースで旅行し、疲れすぎには注意する。
スポーツ・運動・運転の対応
- マリンスポーツ(ダイビング、サーフィンなど)、落下をともなうスポーツ(スカイダイビング、ロッククライミング)、身体の接触や衝突が多いスポーツ(ラグビーや柔道など)は、興味があってもなるべく参加を控えた方が良いでしょう。
- 水泳への参加は条件によっては参加可能です。万一の場合に備え、直ぐに救助できるように見守り人(先生等)を付けておきましょう。
また、てんかん発作が頻発している場合は、車の運転や免許の取得・更新が制限されることがあります。
このように、普段からいつでも発作が起きても良いように危険を回避する方法を考えて行動することが大切です。普段から危険な場所の確認・対策をしてより安全に生活範囲を広げていきましょう。
周囲への告知も大切
てんかんがあることを誰にどこまで伝えるかは、多くの人が悩む問題です。
てんかんについては、「とても厄介な病気」というイメージを持っている人も少なくありません。また、ある程度付き合いのある相手であれば、「何か問題があるのだろう」と思いながら詳しい事情が聞けず、戸惑っているかもしれません。
そういった場合、事情を話すことで、相手も患者さん本人も、心の負担が軽くなることもあります。
告知するなら、できるだけ具体的な情報を伝えることが、誤解や勝手な憶測を生まないコツです。相手に伝える際は、以下のようなことを話しましょう。
- てんかんという病気について出来るだけ具体的な情報(原因、症状、治療)を知らせる。
- 発作が起こった時の対処・対応法について話しておく。
また、誰かれ構わず告知するのは得策ではありません。告知する範囲は、治療の進み具合や相手との関わりの深さで変わってきます。本人との関係性をしっかりと見極めて告知しましょう。いずれにしろ、よく主治医と相談した上で告知のタイミングや範囲を選択したほうがよいです。
子供の場合の告知対応
幼稚園や学校の担任の先生には必ず告知し密に連絡を取り合いましょう。“てんかんという病気の情報“、”発作時の対処法“、”治療薬の服用法“、”野外活動(体育活動、プール、お泊りなど)の注意点“を細かく伝えておきましょう。また、よく遊ぶ友達やその保護者にも話しておいた方が良い場合があります。
大人の場合の告知対応
恋人や結婚相手には告知しておいた方が後々のもめごとは少なくて済みます。また、近年発作が現れるようでしたら、職場の同僚や上司にも話しておいたほうが無難です。運転免許などを取る際も隠さずに伝えましょう。