式場

式場には、80人ほどの人がいた。

近所付き合いがよく周りの人から慕われていたおばあちゃんにしては思いのほか少人数であった。まあ、叔父ひとりに全てを任せていたからしょうがないだろう、連絡をするのも大変だったのだと自分に言い聞かせた。

私たちは、式場の一番前に用意された席に座るよう案内された。

目の前には、祭壇がありその前には棺が置かれ、その周りを取り囲むように綺麗な花々が飾られていた。

 

しかし、きっちりとご近所さんや親戚はお通夜に来てくれていた。まだ、お坊さんは式場に入って来ていないので皆どこかしこで誰かと話をしていた。

その中の何人かは、私たちを見つけるなり「お母さんはどうなったの?」と尋ねて来てくれた。私たちは「ご心配おかけしております。まだ速水台病院に入院しているので今日は来れません」と返答した。

私たちは、棺に近づいていった。棺の前には、おばあちゃんの知り合いだろう人物が棺の中を見て悲しそうな表情を浮かべ語りかけていた。しかし、私たちが近づくと「あっ大きくなったね、ごめんねおばあちゃんの顔をゆっくり見てあげて」と告げ、お悔やみ申し上げますと言い一礼するとその場を譲ってくれた。

棺の中のおばあちゃんは綺麗に白粉を塗ってもらい、周りは花で囲まれ安らかに眠っていた。しかし、あの元気で活発なおばあちゃんが狭そうな棺の中に閉じ込められているのを見ると、いたたまれない気持ちになった。また、おばあちゃんの最後の姿を見れない母の思いになるととても悲しくなり、頬から涙が滴り落ちた。しかし、この場にいる母を見るのもなお一層辛かったであろうと感じた。

私たちは各々周りの人を気にすることなく、おばあちゃんに思い思い話かけた。

しばらくすると、とうとう2人のお坊さんが厳かに式場に入って来た。

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