アリセプト(ドネペジル)はどんな薬?効果や副作用を学ぼう
「アリセプト」というお薬を知っていますか?
「アリセプト」とは、唯一の認知症治療薬として長い間使われてきた薬です。
「アリセプト」が世に出回ってから10年以上経ちますが、認知症に対する治療効果は高く評価され、今でも世界中で使用されている薬です。しかし、ただ医師に勧められるがまま、その効果や副作用を理解せず服用している方も多いのではないでしょうか?
それではダメです!本人や介護者も認知症の治療薬「アリセプト」についての効果や副作用など最低限の知識は持ち合わせておかなければ安心・安全に介護できません。
ここでは「アリセプト(ドネペジル)」は、「どんな薬で、その効果や副作用はどのようなものなのか」分かりやすく説明していますので、是非参考にしていただければと思います。
※「アリセプト」は製品名です。一般名は「ドネペジル塩酸塩」と言います。ここからは、「アリセプト(ドネペジル)」で統一します。
認知症の薬|アリセプトとは?
まず、「アリセプト(ドネペジル」はどのような経緯で誕生したのか確認していきましょう。
アルツハイマー病の歴史と治療薬の開発
20世紀初頭にドイツ人の精神科医アルツハイマーによって、認知症の1つ「アルツハイマー病」が発見されました。それ以来、「アルツハイマー病」の治療薬の研究開発は各国の大きな課題であり急務となりました。
そして、1970年代になり、ようやく「アルツハイマ―病」を発症すると「アセチルコリン」という脳内の神経伝達物質が減少し、記憶障害などの認知機能の低下が現れることが分かったのです。
その後も、「アルツハイマー病」の研究が進められ、ついに世界初の認知症治療薬「アリセプト(ドネペジル)」が開発されたのです。
アリセプトは認知症の治療薬
(写真はイメージです)
なんと、この「アリセプト(ドネペジル)」は、日本で開発された認知症の治療薬なのです。
「アリセプト(ドネペジル)」とは、日本のエーザイ株式会社において、杉村八郎氏によって発見、合成された認知症の治療薬です。アリセプトは、アセチルコリンという脳の神経伝達物質を分解する酵素の働きを抑える全身の中でも特に脳で選択的に作用する優れた認知症の治療薬です。
では、具体的に「アリセプト(ドネペジル)」が、どのように作用し、認知症の治療に役立つのか確認していきましょう。
アリセプト(ドネペジル)の作用効果
アセチルコリンの減少がアルツハイマー病を悪化させる
先の説明通り、脳内において記憶や学習といった情報の伝達は、「アセチルコリン」という神経伝達物質が必要です。この「アセチルコリン」の量が減少してしまうのが「アルツハイマー病」の特徴です。
元々、「アルツハイマー病」ではアセチルコリンが減少しているにもかかわらず、さらに、追い打ちをかけるように「コリンエステラーゼ」という分解酵素がアセチルコリンを分解し、脳内の「アセチルコリン」量が激減してしまうのです。
このアセチルコリンの急激な減少がアルツハイマー病の症状を悪化させているのです。
アリセプト(ドネペジル)はアセチルコリンの分解を防ぐ薬
引用:エーザイ株式会社、アルツハイマー型、レビー小体型認知症治療薬「アリセプト」
「アリセプト(ドネペジル)」は、アセチルコリンの分解酵素であるコリンエステラーゼに結合し、その働きを抑えることでアセチルコリンの減少を防ぐ薬です。
このように「アリセプト(ドネペジル)」の働きによって脳内のアセチルコリン量が一定に保たれることで、認知症の中核症状である記憶障害や判断力障害といった認知機能障害の進行を遅らせることが出来るのです。
また、アルツハイマー病では記憶と関係する海馬の萎縮がすることで記憶障害が現れます。「アリセプト(ドネペジル)」には、海馬の萎縮抑制効果が認められています。
アリセプト(ドネペジル)は様々な認知症に対応できる
「アリセプト(ドネペジル)」は、数ある認知症治療薬の中で、唯一「軽度」「中等度」「高度」まで全段階のアルツハイマー病の人に使用することが出来ます。更にアリセプトは認知症の前段階に当たるMCI(軽度認知障害)の方に対しても、認知症への移行を予防する薬として活用できます。
また、最近では厚生労働省から「レビー小体型認知症」というアルツハイマー病以外の認知症に対しても「アリセプト(ドネペジル)」が認可されました。
アリセプト(ドネペジル)は、完治させる薬ではない
ただし、ここで理解して頂きたいのは、「アリセプト(ドネペジル)」は認知症を完治させる薬ではないということです。これは、「アリセプト(ドネペジル)」以外の認知症の薬においても同じことが言えます。
しかし、早期に認知症を発見し、早期に「アリセプト(ドネペジル)」などの認知症の薬を使用することで、認知症の症状を改善したり、進行を抑制することなら可能です。
したがって、認知症やMCI(軽度認知障害)の疑いがある場合は、早めに専門医に受診し、治療を行いましょう。
アリセプト(ドネペジル)の服用方法
元々「アリセプト(ドネペジル)」は、アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症や若年性アルツハイマー)の治療薬として開発されたものです。しかし、最近ではレビー小体型認知症に対しても効果があることが分かり、治療で用いられるようになってきました。
それでは、「アルツハイマー病」と「レビー小体型認知症」でのアリセプトの処方・服用の仕方について確認していきましょう。
アルツハイマー病への服用方法
引用:エーザイ株式会社、アルツハイマー型、レビー小体型認知症治療薬「アリセプト」
「アリセプト(ドネペジル)」の服用は、1日1回3㎎の服用から開始します。3㎎という量は、副作用を起こさない為に定められた暫定的な容量です。副作用などの問題が無いようでしたら、2週間程を目安に1日5㎎に増やし、5㎎を維持量として経過を見守ります。
病状が進行して、1日5㎎では日常生活に問題が生じる高度期になったら、1日10㎎までの増量が可能です。また、「アリセプト(ドネペジル)」を服用開始する時点で既に症状が高度まで進行している場合は、1日5㎎で4週間以上投与を続けてから10㎎に増量できます。
ただし、薬の増量時や飲み始めの時期には、副作用が現れやすくなっております。したがって、十分に副作用に注意したうえで、「アリセプト(ドネペジル)」の処方・服用量を決めることが大切です。
アリセプトなどの抗認知症治療薬は「増量規定」があり、この容量を守らないと保険薬としてレセプト(診療報酬明細書)が認められないケースが多くありました。しかし、以前より規定通りの処方により副作用(めまい、頭痛、暴力、歩行障害など)が現れることが指摘され問題となっていました。
これを受け厚生労働省は、2016年6月1日付けでアリセプト(ドネペジル)などの抗認知症治療薬の規定容量未満の少量投与を容認し、周知することを決定しました。
レビー小体型認知症への服用方法
レビー小体型認知症に対する治療効果
「アリセプト(ドネペジル)」は、レビー小体型認知症の治療においてもその効果が確認されています。 なぜなら、レビー小体型認知症は、アルツハイマー病と同様に、アセチルコリンの減少により認知機能の低下やその他の症状の悪化が見られるからです。したがって、レビー小体型認知症でも「アリセプト(ドネペジル)」を用いることで次のような効果が期待できます。
- 認知機能障害の改善・進行抑制
- 認知機能障害以外の「幻視」や「妄想」といった症状の改善
注意点
ただし、レビー小体型認知症へのアリセプトの処方には、”アセチルコリンとドーパミンとの拮抗作用”がみられるため、注意が必要とする報告があります。逆に、”アセチルコリンとドーパミンの拮抗作用”については、論文上では拮抗作用によるパーキンソン症状の悪化は確認できず、「あることはあるが問題が生じることは少なく神経質にならなくて良い」との意見もあります。
どちらにせよ、その方の症状をよく観察しながら「アリセプト(ドネペジル)」の処方量を調整することが大切です。
アリセプトの剤形
「アリセプト(ドネペジル)」の剤型は通常の錠剤以外にも口腔内崩壊錠やゼリー剤、細粒など様々ですので、その人の症状に合った剤形が選べます。
アリセプト(ドネペジル)の副作用と注意点
「アリセプト(ドネペジル)」は、認知症に効果的な薬です。しかし、どのような薬にでも副作用は現れます。
身体的な副作用
「アリセプト(ドネペジル)」の副作用は、主に以下のような体の部位に現れます。
アリセプトの身体的副作用 | |
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消化器(胃腸など) | 吐き気、下痢、食欲不振 |
心臓 | 不整脈、徐脈(心拍数の低下)、心ブロック |
尿及び尿路 | 頻尿、尿失禁 |
一番多いのは消化器に現れる「吐き気」「下痢」「食欲不振」などです。
したがって、呼吸器の病気(心疾患、肺など)や消化器の病気(胃腸瘍や胃潰瘍など)の病歴がある人は、「アリセプト(ドネペジル)」の服用を開始する前に医師に相談しましょう。
認知症の症状に対する副作用
また、「アリセプト(ドネペジル)」を服用することで、人によっては「暴力的」になったり、突然「徘徊」を始めたりと陽性症状が強く出てしまうという報告もあります。これは、「アリセプト(ドネペジル)」が認知症の周辺症状に対して、興奮系の薬剤として作用している為だと考えられています。逆に考えると、”無気力”、”無関心”などの陰性症状が出ている方には、明るくなる、活動的になる、といった周辺症状の改善効果も期待できます。
アリセプトによる周辺症状への影響 | |
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陰性症状 | 陰性症状(無気力、無関心)が改善 |
陽性症状 | 陽性症状(徘徊、妄想、幻覚、過食、暴力)の悪化 |
副作用のまとめ
これらの副作用は「アリセプト(ドネペジル)」を飲み始めた時期や、増量した時期に多く現れます。介護者の負担が大幅に増えてしまうようでしたら、処方量を減らしてもらうか、抑制系の薬を処方してもらう等、医師に相談して対応することが大切です。
また、薬のみに頼らずに様々な認知症予防・改善法を試してみるのも良いでしょう。
アリセプトの主な副作用まとめ | |
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胃腸障害 | 吐き気、嘔吐、食欲不振、下痢、便秘などの消化器関連の不快症状 |
心臓障害 | 静脈や不整脈心拍数が低下する徐脈、不整脈、心ブロック(心拍が途絶える) |
尿および尿路障害 | 頻尿、尿失禁など泌尿器関連の不快症状 |
興奮系の精神障害 | 易怒、暴力、イライラ、徘徊、不眠、幻覚 |
ジェネリック医薬品
「アリセプト(ドネペジル)」は、2011年に特許が切れたのを皮切りに、各社から「ドネペジル塩酸塩」という名称でジェネリック医薬品が販売されています。
ジェネリック医薬品とは、特許が切れた医薬品のこと指し「後発医薬品」とも言います。ジェネリック医薬品は、薬の研究・開発費がかかっていない分安価で販売されています。
まとめ
「アリセプト(ドネペジル)」の発明は、認知症の治療において画期的な発明です。しかし、その服用法や副作用について良く知らずに服用していては、安心・安全に介護は出来ません。
もし、副作用が現れてり、改善が見られなかったりする場合は、すぐにかかりつけ医や認知症の専門医に受診することをオススメします。