てんかんの治療法【抗てんかん薬による薬物療法編】
てんかんの治療では、「抗てんかん薬」を使用した薬物療法が主流です。
抗てんかん薬とは、てんかんの症状である発作を抑える治療薬のことです。この抗てんかん薬を使った治療により、60~70%の人で症状の軽減または消失が期待できます。
しかし、抗てんかん薬は種類も多く調整が難しい薬として有名ですので、医師ならともかく一般の人には分かりづらいことでしょう。そこで、ここでは誰にでも分かるように「抗てんかん薬を使用した薬物療法」について解説していきます。
1.抗てんかん薬による治療目標
抗てんかん薬による治療目標は、副作用なしに発作の頻度を減らし、強さを和らげることです。そして、発作が落ち着き安定している(寛解)状態を長く維持すること、可能ならば“完全抑制”させることを目指します。
2.抗てんかん薬の種類
抗てんかん薬一覧表
1つに『抗てんかん薬』といっても、その種類は豊富です。なんと、日本で認可されている抗てんかん薬は20種類以上もあります。現在、使用可能な抗てんかん薬のうち代表的なものを一覧でチェックしていきましょう。
一般名 | 略号 | 商品名 | |
---|---|---|---|
カルバマゼピン | CBZ | デグレトール (※レキシン、テレスミン、カルバマゼピン) | |
フェニトイン | PHT | アレビアチン、ヒダントール、フェニトイン | |
バルプロ酸ナトリウム | VPA(R) | デパケン、デパケンR、セレニカR (※エピレナート、バルプラム、サノテン、バレリン、ハイセレニン、セレブ) | |
バルビツール酸系 | フェノバルビタール | PB | フェノバール、フェノバルビタール、ワコビタール、ルピアール |
プリミドン | PRM | プリミドン | |
ゾニサミド | ZNS | エクセグラン (※エクセミド) | |
トピラマート | TPM | トピナ | |
ベンゾジアゼピン系薬(BZP) | クロバザム | CLB | マイスタン |
クロナゼパム | CZP | リボトリール、ランドセン | |
ニトラゼパム | NZP | ベンザリン、ネルボン | |
ジアゼパム | DZP | セルシン、ホリゾン | |
スルフォンアミド系 | アセタゾラミド | AZA | ダイアモックス |
スルチアム | SLM | オスポロット | |
エトスクシミド | ESM | エピレオプチマル、ザロンチン | |
ガバペンチン | GBP | ガバペン | |
ラモトリギン | LTG | ラミクタール | |
レベチラセタム | LEV | イーケプラ | |
ピラセタム | ミオカーム内服液 | ||
ブロム(臭素塩) | KBr、NaBr | 臭化カリウム、臭化ナトリウム | |
抱水クロラール | エスクレ坐剤、エスクレ注腸用キット | ||
副腎皮質刺激ホルモン | ACTH | コートロシンZ |
※括弧内は後発薬(ジェネリック)
誰でも治る「万能薬」は存在しない
なぜ、これだけ多くの種類の薬が存在するのでしょうか?
それは、万人に効果がある万能薬が存在しない為です。つまり、人によって「効く薬」と「効かない薬」があり、Aさんに効いた薬と同じ種類のものが、Bさんにも効くとは限りません。
したがって、患者さんの症状をしっかりと見極めた上で、適切な薬剤が選びます。
3.抗てんかんの薬の作用機序
てんかん症状の原因は、脳の神経細胞(ニューロン)の過剰な興奮です。抗てんかん薬は、この脳細胞の過剰な興奮に対して、興奮そのものを抑えたり、脳全体への広がりを防いだり、することで発作をコントロールします。
抗てんかん薬の種類によって「どうして効くのか、つまり人間の身体に及ぼす仕組み(作用機序)」はそれぞれ異なります。ですが、抗てんかん薬の作用機序は、大きく3つに分けることができます。
タイプ | 作用機序 | 薬品名 |
---|---|---|
脳神経細胞の興奮系の働きを抑える | 興奮に作用する「ナトリウムやカルシウム」といったイオンの出入りを阻害する効果 | フェニトイン、カルバマセピン、バルプロ酸、ゾニサミド、エトスクシミド、トピラマート、ラモトリギンなど |
脳神経細胞の働きを抑える抑制系の働きを強くする | 脳を抑制させる神経伝達物質「GABA(ガンマ・アミノ酪酸)」の働きを強める効果 | ガバペンチン、ベンゾジアゼピン系薬(ジアゼパム、クロナゼパム、クロバザム)、フェノバルビタールなど |
これまでとは違った作用で興奮を抑え、抑制的な働きを強める | SV2A(シナプス小胞蛋白2A)というタンパク質に作用し、グルタミン酸等の神経伝達物質の放出を抑制する効果 | レベチラセタム |
4.抗てんかん薬の副作用
副作用は眠気、めまい等さまざま
抗てんかん薬は脳神経細胞の興奮を抑え、発作をコントロールすることを目的としています。しかし、脳の別の働きまでもが抑制されてしまいうことで、思わぬ副作用を生んでしまうことがあります。
特に、抗てんかん薬の副作用として、脳が抑制されることで発生する“眠気”や“めまい”などの症状は多いです。
フェニトイン | ふらつき、歩行困難、構音障害、眠気、肝障害、歯肉増殖、多毛症、白血球減少、不随意運動、スティーブン・ジョンソン症候群 |
---|---|
バルビツール酸系 | 眠気、鎮静、ふらつき、多動、不穏、発疹、口唇口蓋裂 |
エトスクシミド | 消化器症状(食欲低下、下痢など)、倦怠感、不眠、傾眠、めまい、ふらつき、不安、白血球減少、再生不良性貧血、スティーブン・ジョンソン症候群 |
カルバマセピン | 眠気、めまい、ふらつき、低ナトリウム血症、白血球減少 |
バルプロ酸ナトリウム | 吐き気、二分脊椎(生まれつき脊椎の一部が開いている状態) |
ベンゾジアゼピン系 | 眠気、ふらつき、めまい、精神活動低下、筋緊張低下、鎮静、行動異常、構音障害、レンノックス・ガスト―症候群 |
スルフォンアミド系 | 眠気、だるさ、しびれ、尿路結石、再生不良性貧血 |
このような副作用があることを理解しておけば、実際に副作用が出現した時にも冷静に対処することができるでしょう。いつもと違う症状が現れた場合は、すぐに医師や薬剤師に相談しましょう
①飲み始めにでるもの
飲み始めの副作用には、眠気、頭痛、複視、めまい、ふらつきなどがあります。これらは少量から開始しゆっくり増量することで防げます。
②服薬量が多いための副作用
服薬量が多すぎると副作用として、視界がぼやける、複視、ふらつき、めまいなどの症状が、服薬数時間後に一過性に出現する傾向があります。服用回数を増やし1回の服用量を減らすことで改善できる場合があります。
③アレルギー反応
アレルギー反応による副作用として、薬疹、骨髄抑制、肝障害などがあります。特に薬疹は出現頻度が多い副作用です。ほとんどは飲み始めの数ヶ月以内に出現し、多くは服薬を中止すれば改善しますが、失明に至るような重症薬疹がごく稀に現れます。アレルギー反応は予見できないため、少量で開始して注意を怠らないことが大切です。
また多くの抗てんかん薬は、主に肝臓で代謝を受け、一部は腎臓から排泄されるので、重度の肝障害・腎障害のある方では減量が必要です。
小児、妊婦、高齢者の薬物選択はより慎重に!
薬を選択する際は、年齢や性別、発作への効果、副作用、薬物代謝の個人差など発作型以外の要素も考慮します。特に、小児、妊娠可能な女性、高齢者に対する抗てんかん薬の選択は慎重に行う必要があります。
小児 | 発汗障害・認知機能障害 |
---|---|
妊娠可能な女性 | 妊娠中の急激な薬物濃度の上昇、胎児の催奇形性、避妊薬の薬効の弱まり |
高齢者 | 他の薬剤との相互作用、低蛋白血症や肝・腎機能の低下、 |
5.抗てんかん薬の治療ガイドライン
薬物治療の進め方
抗てんかん薬は、1種類の薬から開始する「単剤治療」が基本です。単剤治療では、薬の相互作用を避けることができ、副作用の管理が容易になります。薬の量を調整する際も、ゆっくりと増減させることで、副作用と発作の予防になります。
単剤投与で効果が乏しい場合、2剤目を追加する「多剤治療」を実施します。ただし、多剤治療では副作用の危険性が増加するとともに、治療効果の判定が困難になりますので、慎重に薬の量を調整する必要があります。
※単剤投与で約50%、2、3剤の併用投与で約10%強で発作が抑制されます。
抗てんかん薬の選択の流れ
発作型で薬を選ぶ
では一体、どのようにして1人1人に合う薬を選択すればいいのでしょうか?
それは、それぞれの患者さんの発作型、てんかんのタイプ等に応じて、適切な薬剤を選べばよいのです。したがって、抗てんかん薬を選ぶ前の「発作型の診断」が重要になります。脳波や画像検査で「患者さんの発作型は何なのか」しっかと検査・診断した上で、本人の発作型に有効な薬を選択します。
「各発作型に、どの種類の抗てんかん薬が有効か」という、基本的な枠組みはすでにある程度出来上がっています。各発作型に、第1選択薬、第2選択薬、無効薬があり、これを参考に治療が進みます。
発作型 | 第1選択薬 | 第2選択薬 | 無効または禁忌 |
---|---|---|---|
部分発作 | CBZ | PHT、ZNS、VPA、BZP、LTG、TPM、GBP、LEV | ESM |
欠神発作 | VPA | ESM、BZP、LTG | PB、PHT、CBZ、GBP |
強直発作 | VPA | PHT、ZNS、LTG、TPM | ESM、CBZ |
ミオクロニー発作 | VPA | BZP、ZNS、ESM、TPM、LEV | PB、PHT、CBZ、GBP |
強直間代発作 | VPA | PHT、PB、ZNS、LTG、TPM、LEV | ESM |
PHT=フェニトイン、CBZ=カルバマゼピン、ZNS=ゾニサミド、VPA=バルプロ酸ナトリウム、PB=フェノバルビタール、ESM=エトスクシミド、BZP=ベンゾジアゼピン系薬、GBP=ガバペンチン、LTG=ラモトリギン、TPM=トピラマート、LEV=レベチラセタム
てんかんの発作型の判断を間違えると、薬の効果がないだけでなく、時には発作が返って悪化することもあるので、発作型の判断は慎重に行わなければなりません。
最も効果のある薬を探す
また、表から分かるように、同じ発作型でも対応する薬が何種類か存在します。
抗てんかん薬の治療では、その中から「患者さんの発作型に最も効果があるだろう」と考えられる薬を最初に選びます(およそ各発作型の第1選択薬)。また、発作型が複数ある時は、生活上で一番困る発作を標的とした薬をまず選択します。
そして、第1選択薬で発作が止まれば服薬を続けますが、もし十分な量を服薬しても発作が止まらない場合や、困った副作用が現れた場合などは、その発作型に有効とされる別の抗てんかん薬に変えて調整していきます。
※新薬は一般に対象となる発作の種類が多く、薬同士の相互作用も少ないという長所がありますが、やはりそれぞれに注意すべき副作用があり、しかも概して高価です。効果の面でもいわゆる標準薬と比べて優れているとは 一概には言えません。
※ジェネリック薬品は安価ですが、品質、特に血中濃度の上がり方に微妙な差異がある場合もあり、日本てんかん学会のガイドラインでは「抗てんかん薬治療にあたって、後発医薬品への切り替えには意思と患者の同意が必要」で、「発作が抑制されている患者では後発医薬品への切り替えは推奨できない」とされていますので、その使用については医師と相談して下さい。
抗てんかん薬の調整方法
てんかんの薬物治療では、薬剤の選択だけでなく、投与量の調整も重要な問題です。
どの薬にも投与量の目安というものがありますが、それは悪までも一般的な目安に過ぎません。当然、症状が“強く出る人”と“出ない人”とでは、治療で使う薬の量も変わってきます。特に、抗てんかん薬は量の調整が難しい薬として有名ですので、より慎重に調整を行っていきます。
- 漸増漸減法
- 血中濃度
ここでは、薬量の調整法として代表的なものを2つご紹介します。
①漸増漸減投与
「漸増漸減法」とは、薬の量を少しずつ増やしたり、減らしたりしていく方法です。
抗てんかん薬は脳に作用する薬です。人によっては眠気、ふらつき等の副作用が現れることがあるので、最初は少量から服用を開始します。そして、副作用が現れないか確認しながら、発作が止まるまで薬を増やしていきます。もし、減らす必要がある場合も、急に減らさず少量ずつ減らしていきます。
②血中濃度測定
「血中濃度の測定」とは、服用した薬が血液中にどのくらいの量、含まれているのかを測る方法です。
「血中濃度測定」は、薬の量をより細かく調整する場合や、「漸増漸減法」では不十分な場合などに用いられる方法です。抗てんかん薬の血中濃度測定は、以下のようなタイミングで行われます。
- 中毒が疑われる時
- 発作の増加
- 薬の効果判定を行う
- 相互作用による薬物調整
血中濃度の範囲【無効域・有効域・中毒域】
薬物の血中濃度の範囲は、大きく3つに分かれます。
- 無効域
- 薬の量が少なく効果が期待できない範囲
- 治療域
- 薬の量が適切で有効な範囲(有効血中濃度)
- 中毒域
- 薬の量が多く治療域を超えて、副作用が出現する範囲
抗てんかん薬は、治療域が狭く、投与量が難しいため、血中濃度の測定をしっかりと行う必要があります。
血中濃度に影響を与える要因はさまざま
服用する薬の量以外にも、様々な要因が、血中の薬剤濃度に影響を与えます。
- 薬の量や種類
- 服薬の仕方(服薬の間隔など)
- 身体の大きさ(体重など)
- 年齢
- 性別
その為、たとえ同じ量の薬を飲んでいたとしても、その人その人で、薬の吸収や分解、排泄のされ方が異なるとともに、血中濃度にも違いが現れます。その意味でも、血中濃度の測定が必要になってきます。
抗てんかん薬の有効血中濃度の目安
薬の種類によって、吸収、分解、排出のされ方が異なります。吸収の良い薬は、素早く血中に溶け濃度も高くなります。また、素早く分解される薬だと、血液中の濃度が短時間で低くなります。
各抗てんかん薬には、“およそこのくらいの濃度になれば効果がある”という“有効な血中濃度”が決まっています。有効血中濃度の幅が狭いものは、治療域の幅が狭く、中毒症状が現れやすいので調整が難しくなります。
それでは、有効血中濃度の範囲内にあれば良いのでしょうか?
それはそうとも限りません。血中濃度の値だけで決めるわけにはいきません。発作を起こす力が弱い場合には、有効血中濃度を下回る濃度でも効果がある場合があります。
したがって、抗てんかん薬の量を決める時は、血中濃度測定の結果を参考にすると同時に、本人の発作の頻度や強さ、副作用の有無など、あらゆる情報を総合して、より安全かつ効果的な投与量に調整することが大切です。
てんかんへの薬物治療の注意点
服薬は飲み忘れなく、継続的に、規則正しく
悪までも、抗てんかん薬を使った薬物治療の目的は、発作を弱め頻度を減らすことであり、完治を一番の目的とはしておりません。
したがって、薬を飲み忘れることなく、継続して服薬していくことが大切です。発作がある時だけ服用するということは、てんかんの治療には向かず、発作が止まっている場合でも、キチンと服薬を続ける必要があります。
1度の飲み忘れのために、てんかん発作が現れるケースも多いです。したがって、てんかんの薬物治療では、規則的な服薬の重要性を理解することが必要です。
飲み忘れに気付いた場合は、直ぐに服用するようにして下さい。例えば、朝・夕の服薬する場合に、朝の分を飲み忘れ、お昼に気付いたときは直ぐに朝の分の薬を服用し、それから4時間くらい空けて夕方の分を飲んで下さい。
過度のアルコール摂取は控える
アルコールは、抗てんかん薬と同様に中枢神経系を抑制するため同時に飲むことで抑制作用が強くなり、眠気・ふらつき等の副作用が現れやすくなります。また、アルコールが抗てんかん薬の代謝に影響し、血中濃度を低下させてしまう可能性もあります。過度のアルコールは控えた方が良いでしょう。
高齢者の薬物治療の注意点
高齢者の薬物治療では以下の点に注意が必要です。
- てんかん以外の薬も多く、抗てんかん薬による副作用なのかどうかが分かりにくい。
- 患者さん自身にてんかん発作の症状が分からず、薬によって良くなっているかどうか本人にも分からない事がある。
- 薬の吸収や排泄に影響する肝臓や腎臓などの内臓機能が低下するため、効果や副作用、血中濃度に注意が必要。
- 以上を踏まえ、てんかん以外の病気や、そのために使用している薬も考慮して、抗てんかん薬を選ぶ必要がある。
以上より、高齢者では合併症や併用薬を考慮して、副作用が少なく、他の薬への影響が少ない抗てんかん薬を選択して、少量から使用していくことが勧められます。
妊娠可能な女性の薬物治療の注意点
抗てんかん薬に催奇形性(妊娠中の女性が薬物を服用した時に胎児に奇形が起こる危険性のこと)があることは広く知られています。
母親が抗てんかん薬を内服している場合の奇形発現率は、内服していない場合に比べやや高いです。なお、薬の種類によって差があります。特に、「バルプロ酸ナトリウム(デパケンなど)」は”二分脊椎”、「バルビツール酸系(PB・PRM)」は”口唇口蓋裂”などの奇形の発症が多いというデータがあります。また、多剤投与も催奇形性のリスクが高まります。
なので、それら2つを避けることで催奇性のリスクを低下させられます。医師に、薬剤の減量、整理、断薬が可能かを相談してみましょう。
小さな異変を感じたら直ぐに病院へ
医師の処方に従って正しく服薬できているにもかかわらず、発作が改善されない場合、更なる薬物調整が行われます。年齢や体格の変化によって発作様式が変化したり、長期服用によって体が慣れて、効果が弱まることがあるので、小さな異変を感じたら直ぐに医師に相談しましょう。
6.減薬・断薬について
薬物治療によって、てんかんを持つ人の60~70%が長期寛解(病気による症状が軽減あるいは見かけ上消滅した状態)に至ることが知られています。ただし、再発の危険性がないわけではありません。
患者さんの独断で、薬の“減量”や“断薬”をしてしまうと、発作の再発の危険性がありますので、医師と十分に相談して下さい。
減薬・断薬の基準
およそ3年間(2~4年間)発作がなく、脳波で発作性の異常波が2年以上みとめられない時は、抗てんかん薬の減量や中止を考えてもよいというのが一般的な考え方です。
日本てんかん学会のガイドラインによると、子供では、およそ3年のあいだ寛解した場合、薬の減量・中止を検討することが勧められています。一方、成人では、発作の再発が自動車運転や雇用に及ぼす影響を考えるとより慎重に検討することが勧められています。
これは、小児に多い「特発性てんかん」では、年齢が上がると自然に発作が収まことがある一方、成人に多い「器質性・症候性てんかん」では、脳の病変部位から再び発作が起こる可能性が高いことが理由です。
少量ずつ減薬し経過観察すること
抗てんかん薬の減薬を進める場合、徐々にその量を減らしていくことになります。その途中で発作が再び起こったり、脳波異常が再びみられるようになったら、減量を中止し、再度薬を増やして様子を見ることになります。
断薬後も定期検査を受けよう
無事に抗てんかん薬の断薬に至っても安心し過ぎるのは禁物です。
薬物治療を中止した後、発作がまた起こってくるのは、中止後3年以内が多いと言われています。中止後も定期的に脳波を記録し、発作が起こっていなくても脳波に発作性の異常波が出るようになったら、抗てんかん薬の服用を再開するなどの対処が必要です。
断薬後のてんかん発作の再発率については多くの報告があります。小児と成人を含む25の報告を要約した研究1)によれば、再発率は12~67%、再発の予測値は1年後に25%、2年後には29%となっています。別の総説2)では、再発率は症に12~52%、成人46~66%となっています。
7.外科治療の検討
てんかんの治療法は、薬物治療だけではありません。てんかんの種類によっては、手術といった外科的治療により、症状が劇的に改善するケースがあります。
医学の発展により、長い間薬物治療しか選択肢が無かった人でも、新たに外科治療の適応ありと判断される場合も少なくありません。
<参考文献>
- 1)Berg AT,Shinnar S:Relapse following discontinuation of antiepileptic drugs:a meta-analysis.Neurology 44:601-608,1994
- 2)Specchio LM,Beghi E:Should antiepileptic drugs be withdrawn in seizure-free patients? CNS Drugs 18:201-212,2004