夢の国~回想 Part-1
「あなたたち、ちょっと付いてきて」
母はそう言うと、私たち兄弟の手を握り、並んでいた列を抜けアトラクションの入り口とは反対方向に駆け出した。
「折角、真ん中まで来たのに・・・」と龍也が愚痴をこぼした。「いいから速く付いてきて」と母は弟を諭しつつ、速足で歩を進めた。列に並んでいる人達は、長い列を逆走する3人を好機の目で見ていたが、母はお構いなしだ。
ちょうど20メートルほど列を戻ると数人に囲まれている父の姿が見えてきた。私たちは急いで父の元に駆け寄った。
「私の旦那です。お父さん、大丈夫!!」と母は大きく声をあげた。
私は子供ながらに父の様子に異変を感じとった。
父は、固く眼を閉じ地面に向かってうつむいたまま動かず、周りの問いかけに返事をしなかった。
「いつものだ」母は小さな声で“そう“を漏らし、父を取り囲み心配してくれていた人達に感謝の言葉を述べ、意識が朦朧としている父をゆっくりと列の外に連れて行った。
それから2~3分ほどが経過して、父はゆっくりと目を開きこう呟いた。
「ここはどこだ?」
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