拘縮予防に効果抜群!関節可動域訓練(ROM)編
「脳梗塞や脳出血で倒れた」「老化や麻痺、認知症で寝たきりの状態になった」といった時、安静にしていた方が良いと思っていませんか?もし、そのまま安静にし続けると・・・拘縮になるかもしれません。
人間の体はベッドの上でじっと動かさない状態でいると様々な弊害が出てきます。このような弊害まとめて”廃用症候群”と呼びます。拘縮は廃用症候群において現れる症状の1つです。では一体、拘縮とはどういった状態で、どのような予防法があるのでしょうか?
この記事では「拘縮の正体」や「拘縮を予防するためのリハビリ=関節可動域訓練(ROM)」についてご紹介しています。是非とも拘縮予防の参考に役立てていただければと思います。
<目次>
拘縮とは?その正体や原因、問題点に迫る
私たちの体は、じっと動かさないままの状態でいると、様々な弊害が出てきます。その弊害の1つが拘縮です。
拘縮とは?
拘縮とは、手足の関節を動かさないことで、関節包、靭帯などの弾力性が失われ、筋肉の筋膜や結合組織が収縮することによって、関節の運動が制限される状態のことです。
つまり、拘縮とは、手や足の関節が固まってしまうことで、曲がらなくなる、あるいは、伸びなくなる状態のことを指します。拘縮の多くは、脳卒中(脳出血や脳梗塞)の後遺症である麻痺、認知症、パーキンソン病などにより、手足を動かさなくなることが原因で発生します。
健康な人は、実感はないかもしれませんが、私たちの体は動かないでいるとすぐに関節や筋肉が硬くなります。これは高齢になればなるほど顕著になります。
拘縮の問題点
「拘縮はいけないこと」といっても具体的にはどの様な問題があるのでしょうか?さっそく、拘縮によりどのような問題が発生するのか確認しましょう。
- 日常生活をスムーズに送ることが難しくなる
- 今後のリハビリテーションの妨げになる
- 介護を困難にする
例えば、足に拘縮が発生すると、自分で立てなくなったり、つまずいて歩けなくなります。それと同時に、”日常生活の自立”や”介護”がより困難になることは容易に想像できます。
「短期間で軽度の拘縮」であれば、リハビリや治療を行うことで、元の状態に戻すことはできます。しかし、「長期間放置された重度の拘縮」の場合、関節はしっかりと固定されてしまい、動かすと激しい痛みを伴うためリハビリや治療が困難となり、元の状態に戻らなくなります。また、重度の拘縮を治療するのにかかる期間は、拘縮が発生し放置された期間と比べて、その何倍もの時間が必要という事実も忘れてはいけません。
拘縮は治療よりも予防が大切
拘縮は一度起こると治療するのが大変です。したがって、拘縮対策としては「治療」よりも「予防」が大切です。拘縮を予防する為には、拘縮が起こる前段階から肩、肘、手首、手の指、膝、足首などの関節の曲げ伸ばしを日常的に行い、関節の結合組織の弾力性を保つことが大切です。
そこで、拘縮予防のリハビリとして行われるのが、関節可動域訓練(ROM訓練)です。
関節可動域訓練(ROM訓練)とは?
関節には動かせる範囲があり、これを”関節可動域”と言います。この関節可動域を保ちながら、拘縮を予防する目的で行われるのが”関節可動域訓練(ROM)”です。
ほとんどの拘縮は、必然的に起こるものではなく、むしろ麻痺や痛みなどで”動けない”、”動かさないこと”が原因で起こるものと考えられています。したがって、関節可動域訓練(ROM)により自分や他人の力で積極的に体を動かします。
拘縮予防のリハビリ|関節可動域訓練の進め方
それでは早速、拘縮予防のリハビリ関節可動域訓練(ROM)の進め方を確認していきたいと思います。
筋肉や関節が硬くならないうちに開始
ベッド上でのリハビリテーションは、出来るだけ早期に開始することが重要です。より早期にリハビリを開始することが、拘縮や他の廃用症候群の予防に効果的であり、ADL(日常生活動作)をより良く保つことができます。
安静時の良好な姿勢で、筋肉と関節の状態をより良く保ちながら、徐々にベッド上での機能回復訓練が開始されます。早ければ発症当日から、遅くても数日~1週間以内に始める必要があります。
確かに、治療に悪影響を与える場合は動かしてはいけません。しかし、治療に悪影響を与えないと判断された場合は、たとえ意識が無い状態でも積極的に体を動かさなければなりません。治療に悪影響を与えないと判断されれば、まだ血圧や脈拍が不安定であっても開始します。声をかければ目を開ける状態、あるいは痛み刺激を与えると目をあけるような状態でもリハビリは可能です。
※ただし、病状が安定していない場合、血圧や脈拍、動脈血酸素飽和度、心電図などのモニターを装着し十分に安全を確認しながら行う。
関節可動域訓練のチェックポイント
関節可動域訓練(ROM)は、理学療法士や作業療法士、看護師等の専門家だけでなく、時にはご家族である介護者が行うこともあります。その為、関節可動域訓練を効果的かつ安全に行うために、いくつか押さえて頂きたいポイントがあります。
- 1日2回(朝夕)程度を毎日行う
- 関節を温めてから行うと関節が柔らかくなり、痛みが少なくなる
- 患側(麻痺のある側)、健側(麻痺がない側)を問わず、日常生活での動作に必要な全ての関節を動かす
- 一回の運動は3~4秒かけてゆっくりと、無理のない範囲で動かす
- 回復の程度と症状に応じ、同じ動きについて、自動、自動介助、他動を使いわけて行う
- 高齢者は、筋肉や関節が硬くなりやすいので、維持期に入った人でも、関節可動域訓練を毎日行い拘縮予防に努める
関節可動域訓練は3つに分けられる
関節可動域訓練は次の3つの運動に分けられ、本人の状態に照らし合わせてどの運動を行うか判断します。
- 他動運動
- 意識がはっきりしない場合、あるいは安静が必要な場合は、他人による関節可動域訓練
- 自動介助運動
- 自分自身で少しでも動かせるような場合は、介助してもらいながら自発的に動かす関節可動域訓練
- 自動運動
- 自分自身で動かせる場合は、本人主体の関節可動域訓練
上半身の関節可動域訓練の方法
1.指の拘縮を解く
指の拘縮を解いていきましょう。この時、無理やり指を伸ばそうとすると、痛みや関節の傷みを招いてしまう可能性があります。コツは、指や肘の関節を筋肉が縮む方向に曲げることです。そうすることで、自然と余裕が生まれ開きやすくなります。
1.肘を曲げる
まずは、指を開く前に肘を内側にゆっくりと筋を伸ばすように曲げていきます。すると、自然と肘の関節に余裕が生まれます。
2.手首も曲げて更に余裕を作る
次に、肘を曲げた状態のまま、手首を深く曲げます。すると、自然と手首の関節に余裕が生まれ、指が開きやすくなります。
3.指を開く
肘と手首を曲げた状態を保ち、第3関節(MP関節)を支点に指を開いていきます。
拘縮が強く指が開きにくい方の場合、介助者の手で手首を固定します。そして、お互いの第1・2関節(IP関節)と第3関節(MP関節)を重ねた状態を作り、MP関節を支点に曲げ5秒程保持してから、重ねていた手の力を抜きます。すると、自然とIP関節に余裕が生まれ、指が開きやすくなります。
2.指の間を開く拘縮予防運動
MP関節が曲がった状態で指を開くことは、麻痺が無い方でも難しいです。指を開く拘縮予防運動を行う前に、前項を参考にして、指の拘縮を解き関節を動かしやすい状態にしておきましょう。
1.中指と人差し指の間を開く
MP関節を伸ばしたら、中指を中心に1本ずつ指を開いていきます。
肘と手首を曲げた状態を保ったまま、MP関節を伸ばし人差し指を中指から離していきます。この時、介護者は指を1本ずつ握るのではなく、すべての指を包むようにして握りましょう。
2.指を順番に開いていく
次に、中指と薬指の間→薬指と小指の間の順番に遠ざけるようにして開いていきましょう。
3.手首の拘縮予防運動
次に、手首の拘縮予防を行います。片麻痺の方は手首の拘縮を起こしやすいので念入りに行います。
1.手首の下を固定し、指入れる
前腕をベッドにつき固定させた状態で、手首の真下を手で固定します。そして、相手の指全体を包むようにして手を下から差し入れます。
2.掌の方に曲げる(屈曲)
前腕を固定した状態のまま、手首を内側にゆっくりと曲げます。
3.手首を手の甲に曲げる(伸展)
次に手首を手の甲の方にゆっくりと曲げていきます。甲側はもともとの可動域が狭いので注意が必要です。
4.手首を親指の方向に曲げる(橈屈)
手首を親指の方向に曲げます。最大25度しか曲がりません。
5.手首を小指の方向に曲げる(尺屈)
手首を小指の方向に曲げていきます。最大55度曲がります。
4.前腕の拘縮予防運動(回外・回内)
前腕をドアノブを回すように動かす関節可動域訓練です。右腕の場合、時計まわりを「回外」、反時計回りを「回内」と呼びます。
1.肘を固定して手首を握る
肘を体にくっつけた状態で、手を肘の下に入れ、肘と肩が動かないように肘を立てた状態で固定して手首を握ります。
2.掌を外側に回す(回外)
掌が頭の方を向くように回転させます(最大可動域は90度)。
3.掌を内側に回す(回内)
次に掌が足の方を向くように回転させます(最大可動域は90度)。
5.肘関節の拘縮予防運動
肘を頭側に倒す(屈曲)、足側に倒す(伸展)運動を行います。肘の関節も拘縮を起こしやすい部位ですので、関節可動域訓練で拘縮予防に努めましょう。
1.上腕を固定して手首をつかむ
脇を締めた状態で、手を肘の下に入れ、肘と肩が動かないように固定して手首を握ります。
2.肘を頭側に曲げる(屈曲)
肘を固定した状態のまま、肘を支点に頭側にゆっくりと曲げます(最大可動域は145度)。
3.肘を足側に伸ばす(伸展)
次に、肘を足側にゆっくりと伸ばしていきます。前腕が上腕と一直線になるように伸ばしていきます。
6.肩関節の拘縮予防運動(屈曲・外展)
肩関節は人間の関節の中で最も可動域が広くなっています。それだけ重要な関節なので、しっかりと関節可動域訓練を行い拘縮予防に努めましょう。
1. 肘を固定して手首を握る
介助者は本人の横に座ります。右肘を体に付け脇を締め、掌が体側を向いた状態で、介助者の左手で固定し、右手で手首を握ります。
2.腕を一直線に伸ばす(屈曲)
先ほどの状態を保ちながら、肩を支点に腕を前方に動かし頭部の方に上にあげていきましょう。腕が体と平行になる位に一直線に伸ばします。
拘縮が進んでいる場合などは無理をし過ぎないようにしましょう。
3.腕を横にあげる(外転)
始めの状態に戻します。まずは、肘を固定し掌が体側を向いた状態を保ちながら、肩を支点に真横に腕を動かし、可能な範囲で耳に当たるくらいまで動かします。
両手を使う関節可動域訓練(自動運動)
- 健側(麻痺のない側)の手で患側(麻痺のある側)の手を握り、ゆっくり持ち上げたり下げたりします。
- 患側の手に力がついて来たら、指を組んで動かしましょう。
- 慣れてきたらおもりを使って、筋力強化を行いましょう。
7.肩関節の拘縮予防運動(内旋・外旋)
肘を軸にして肩関節を動かします。肘関節の訓練のように見えますが、肩関節が動いています。
1.肘を肩のラインと平行に固定し手首を握る
介助者は本人の横に座ります。右肘を肩のラインと平行にし、介助者の左手で右腕の肘を直角に固定し、右手で手首を握ります。
2.肘を軸に下げる(内旋)
肘を軸にゆっくりと前腕を足側に下げます。
3.肘を軸にあげる(外旋)
肘を軸にしてゆっくりと頭側に上げます。
下半身の拘縮予防運動のやり方
1.股関節の拘縮予防運動(伸展)
車椅子やギャッジアップべッドで長時間座っていると、股関節や膝関節に拘縮が発生しやすくなります。これは関節の上にあるハムストリングスが短縮する為です。
1.下肢に両手を添える
仰向けの状態になってもらいます。右足の下に介助者の両手を添えます。
- 左手は、膝関節の少し下あたりに添える。
- 右手は、アキレス腱のあたりに添える。
2.足を持ち上げる
足をゆっくりと持ち上げ伸展させます。
3.膝を押さえて関節・ハムストリングを伸ばす
無理がない位置まで足をあげ、その状態を保ちます。そこから、左手を膝関節の上に置いて、そこを支点にして右足を上げます。こうすることで、膝関節やハムストリングが伸びます。
2.股関節の拘縮予防運動(外転)
1.下肢に両手を添える
股関節の伸展と同様に、両手を片足に添えます。
2.足を外側に開く(外転)
膝を固定しながら右足をゆっくりと外側に開いていきます。
3.足を内側に戻す(内転)
開いた足をゆっくりと元の状態に戻していきます。
3.股関節を回す拘縮予防運動(内旋・外旋)
1.片足を上げる
仰向けの状態になってもらいます。右足の下に介助者の両手を添えます。そこから膝をゆっくりと曲げていきます。
- 左手は膝の下あたりに添える。
- 右手はカカトの下あたりに添える。
2.内側と外側に曲げる
ほぼ90度の位置まで上げそこで固定し、膝を支点にして、足を内側に曲げます。そして、外側に曲げていきます。
4.膝関節の拘縮予防運動(屈曲・伸展)
膝関節は、足が曲がった状態で固まる「屈曲拘縮」と、伸びきった状態で固まる「伸展拘縮」のどちらかを起こす恐れがあります。
1.手を添えて固定する
右足を両手で支えます。この時頭の下に枕やクッションを敷いておくと首への負担が少なります。
- 左手は膝下に添える。
- 右手は足裏に添える。
2.膝を曲げていく
膝を曲げていきます。途中で膝下に入れた左手を抜いて、膝を皿に曲げます。無理が無い範囲で行いましょう。
3.膝を伸ばす
抜いた左手を膝上にのせて固定し、膝を支点にして上方向に伸ばしていきます。
5.足関節の前後運動
足首が拘縮するとつま先立ちのまま固定されてしまいます。こうなると、歩きにくくなり転倒の原因になります。したがって、足首の関節と足指の関節の拘縮予防に努めましょう。
1.足関節の持ち方
- 左手で右足の足首の上をおさえる。
- 右手でつま先をつかむ。
2.足首を上下に曲げる
- 足を固定した状態で、足底側に曲げる。
- 次に、頭側に足首をゆっくりと曲げる。
6.アキレス腱を伸ばす
1.アキレス腱運動の持ち方
右手の指先で踵を固定し、そこから右手の前腕を足裏に沿うようにくっつける。
2.踵を軸にして足を頭側に曲げる
先の状態を保ったまま、踵を支点に足を頭側に曲げていきます。膝を曲げた状態と伸ばした状態で行います(最大伸展20度)。
3.踵を引くように足を曲げる
先の状態を保ったまま、踵を引くように足を曲げていきます。膝を曲げた状態と伸ばした状態で行います(最大伸展20度)。
7.足首を左右に動かす
1.足首の持ち方
- 左手で右足の足首を固定する。
- 右手でつま先をつかむ。
2.つま先を左側に曲げる
1の状態を保ったままつま先を左側に曲げ、その後右側にも曲げる。
8.足指の曲げ伸ばし
1.足指の持ち方
- 左手で右足の甲を固定する。
- 右手と足指の関節をあわせる。
2.足指を足底側に曲げる
1の状態を保ったまま、右手で足指を足底側に曲げます(最大屈曲35度)。
3.足指を頭側にそらせる
足指を頭側にそらせます(最大伸展60度)。
拘縮を予防するポジショニング
拘縮予防は、何も関節可動域訓練だけではありません。ベッド上での姿勢作りも大切です。
片麻痺があると、患側(麻痺のある側)の筋肉が緊張し、重力の影響も加わって、肘や手首の関節などが曲がり、膝関節が伸びず、足首の関節が下を向くという不自然な姿勢を取りがちです。その為、この不自然な姿勢をとり続けると関節が固まってしまいます。
したがって、拘縮を予防する為のポジショニングも重要です。クッションやタオル使用し、正しい姿勢を整えます。仰向けの場合は、肩関節や腰の下にクッションを当て、関節の不自然な曲がりを防ぎます。
手指が曲がったままになるのを防ぐ為に、丸めたタオルを握らせることもあります。また、足首が直角になるよう足裏にクッションやフットボードを置き、保持することが大切です。
良い姿勢は拘縮予防の基本
まず、不自然な形で関節が固まらないように、安静時の*仰臥良肢位の姿勢を取り筋肉と関節を自然な形に保ちます。良い姿勢に整えてから、関節可動域訓練を始めましょう。
*仰臥良肢位とは、 足関節は背屈・底屈0度の状態です。仰臥良肢位の状態は、枕は低めにし、患側は脇を少し開いた状態で肘を伸ばしたり、膝関節の下側にクッションを置いて下肢を伸ばしたりしながら作ります。
まとめ
拘縮は、リハビリテーションを専門的に行っている病院でも発生しているのが実情です。それだけ、拘縮予防は難しく、治療が困難なことも物語っています。ましてや、在宅介護では、拘縮予防にまで介護の手が回らないことも多いと思います。
しかし、だからといって日頃から拘縮予防や体位変換を行わないでいると、ますます拘縮が進み、介護負担が重くなります。したがって、朝夕2回でもいいので、拘縮予防のリハビリを行うことが大切です。
また、寝たきり状態では、ますます拘縮が進行するため、日常的に車椅子に乗り、定期的な体位変換を行うようにしましょう。そうすることで、拘縮予防だけでなく廃用症候群の予防にも繋がります。