MCI(軽度認知障害)を早期発見し、認知症を予防する方法
認知症になる一歩手前の段階があることを知っていますか?
この認知症になる一歩手前の段階のことを、MCI(軽度認知障害)と言います。
最近の研究により、MCIの段階でMCIを早期発見し、これからご紹介する方法を実践することで認知症を予防することが出来ることが分かってきました。
この記事は、「MCIとは何なのか?」「その発見方法とは?」「どのような方法で、MCIから認知症に移行することを防ぐのか?」といったことを解説していきたいと思います。
(2015年11月14日にNHKで放送された「シリーズ認知症革命|ついにわかった!予防への道」を参考に作成)
MCI(軽度認知障害)
MCI(軽度認知障害)とは?
引用:NHK「認知症革命|ついにわかった!予防への道」
認知症の一歩手前のMCI (軽度認知障害)とは、具体的には次のような状態のことを指します。
MCI とは、正常と病気の間の段階のことです。いわば、MCIは認知症の予備軍です。
現在、MCIの疑いがある方は、日本で約4百万人にも上ると言われています。
とはいっても、MCIと認知症の違いは一体なんなのでしょうか?
MCIと認知症との違い
MCIと認知症の違いは、次の通りです。
- MCI(軽度認知障害)
- 年相応以上の記憶障害などの認知機能の低下
- 認知症
- 生活に支障を来すほどの認知機能の低下
MCIから認知症への移行率
一般的に、MCIから認知症に移行するまでの期間は、およそ5~6年程度と言われています。
その期間の間に、予備軍であるMCIから本格的な認知症に移行する割合はどのくらいなのでしょうか?
アメリカで実施された、MCIと診断された高齢者600人を対象とした追跡調査でその移行率が明らかにされました。5年以内に、MCIから認知症へと移行する割合は次の通りです。
認知症に移行 | 50% |
---|---|
MCIのまま維持 | 40% |
MCIから正常域に改善 | 10% |
引用:NHK「認知症革命|ついにわかった!予防への道」
5年間の間にMCIから認知症へと移行した人は、およそ半数に上ります。
しかし、移行しなかった人も半数存在し、その中の10%の人においては、なんとMCIから正常域に戻っていたのです。
つまり、MCIと診断された人が、何らかのきっかけでMCIの状態から抜け出したのです。
したがって、この10%の人の共通点を探ることで、MCIの状態から脱却し、認知症の発症を予防する為の方法がきっと分かるはずです。
MCIを早期発見する方法
「MCI(軽度認知障害)をから脱却し、認知症の発症を予防できる!」そうは言っても、MCIの段階で早期発見し、予防法を実施する必要があります。
MCIは、発見が難しい
しかし、MCIの発見は非常に難しく、気が付いたころにはMCIの時期を過ぎ、本格的な認知症に移行しているケースが多く存在しています。
一体なぜ、MCIの発見が遅れてしまうのでしょうか?それは、CTやMRIといった脳の変化を診る画像診断でMCIを発見することが非常に困難なためです。
認知症(アルツハイマー型) | 多くの方で脳の萎縮が確認できる |
---|---|
MCI | 脳の萎縮が確認できる方が少ない |
その為、MCIを早期に発見することは医師などの専門家でない限り難しいことです。
しかし、最近の研究で、MCIの人の脳でどのような変化が現れているのかが分かってきました。この変化を捉えることが出来ればMCIを早期発見することが出来るはずです。
MCIと脳内ネットワークの弱まり
アメリカのワシントン大学を中心としたチームの研究により、MCIの方の脳内を調べてみると、次のような変化が起こっていることを突き止めました。
MCIでは、「脳内ネットワーク」の結びつきが弱まっており、認知症に移行するとその結びつきがより一層弱まっていることが分かったのです。
ここで「脳内ネットワーク」とは、どのようなものか確認しておきましょう。
人間の脳内には無数の神経細胞が存在し、それぞれの神経細胞がネットワークを組み互いに協力し合うことで「見る」「聞く」「記憶する」といったことを行っています。この神経細胞のネットワークのことを「脳内ネットワーク」と呼びます
また、1つの「脳内ネットワーク」がまた他の「脳内ネットワーク」と結びつき協力し合うことで料理を作る、コミュニケーションを取るといったより高度なことを行っています。
したがって、MCIを早期発見するには、この「脳内ネットワーク」が弱まっているかどうか見れば良いのです。
しかし、どのようにして「脳内ネットワーク」の弱まりを発見するのでしょうか?
「脳内ネットワーク」の弱まりを発見する方法
最近のアメリカの研究で、「脳内ネットワーク」の弱まりを発見する方法が分かってきました。
「脳内ネットワーク」の弱まりを発見する方法は以外かつ簡単なもので、日常生活のある動作を見るだけです。
その動作とは「歩行」です。
「歩行」でMCIを早期発見
MCI(軽度認知障害)の人は、正常の人の「歩行」と比較して以下のような違いがあると報告しました。
- MCIの人は正常の人と比べて歩くスピードが遅い
- MCIの人は正常の人と比べて小幅が狭い
- 足の運び方が乱れていてふらつきやすい
つまり、MCIの方は、「歩行速度」が遅いのです。したがって、「歩行速度」をスピードウォチで計測する ことでMCIの可能性があるかチェックすることが出来るのです。
アメリカの研究チームが、世界17か国2万7000人を調査歩く速さと認知症の発症するリスクの関係を調査した結果、その「歩行スピード」が明らかにされました。
引用:NHK「ついにわかった!予防への道」
MCIの人では、「歩行速度」が秒速80cm以下(時速2.9km以下)であることが分かったのです(ひざなどに異常が無いことが前提)。
「歩行速度」が秒速80cm以下の場合、そうで無い人と比較して、MCIである可能性が1.5倍に、さらに、記憶力の低下の自覚があると2倍に増加するのです。
具体的な「歩行速度」はどれくらい?
信号機のある横断歩道は、秒速100cmで歩き渡れるように作っています。したがって、青信号で横断歩道を渡りきれない場合、MCIの疑いがあります。
「歩行速度」以外にも、歩行のリズムが乱れたり、ふらつくきが多くなったりします。特に、歩行のリズムの乱れは一番最初に現れるMCIのサインです。
「歩行」に違いが現れる理由
しかし、なぜMCIの人と正常の人とでは、「歩行スピード」や「歩幅」に違いが生じるのでしょうか?
その答えは、先の「脳内ネットワーク」の話と深く関わっています。つまり、「歩行」はさまざまな「脳内ネットワーク」を使った高度な動作だからです。
- 「視覚」や「空間認識」に関わる「脳内ネットワーク」を使用し、人や障害物の動きなど刻々と変化する周囲の状況を瞬時に捉える
- 「バランス」や「運動」に関わる「脳内ネットワーク」を使用し、階段を上る時や歩行自体を行う
この様に、沢山の「脳内ネットワーク」が同時に働くことで初めて「歩行」が可能になるのです。
しかし、MCIの人では、「脳内ネットワーク」が弱っている為、歩行スピードが遅かったり、バランスが悪くなり小幅になったりするのです。
MCIのサイン|MCIの人に見られる7つの変化
「歩行」以外にも、MCIの人に見られる変化があります。
次のリストの内、3項目以上当てはまる場合は、MCIが疑われます(このリストも、「脳内ネットワーク」の弱まりによってもたらされるものです。)
MCIの人に見られる7つの変化 | |
---|---|
外出するのが面倒 | |
外出時の服装に気をつけない | |
同じことを何度も話す回数が増えたと言われる | |
小銭の計算が面倒、お札で払うことが多くなった | |
手の込んだ料理を作らなくなった | |
味付けが変わったと言われる | |
車をこすることが増えた |
もし、リストをチェックした結果、MCIが疑われる場合は、認知症の専門医に受診してみることをオススメします。専門医の探し方は「認知症の病院・専門医の探し方&良い医師・悪い医師の見分け方」で詳しく解説しております。
残念ながらMCIの疑いがある方でも、次にご紹介する「MCIを改善する方法」を実践することで認知症を予防することが可能です。
MCI(軽度認知障害)を改善する方法
「脳内ネットワーク」を結びつける神経細胞は、血管から栄養や酸素を受け取ることで活動しています。認知症の方の脳内では、小さな出血(微小出血)が増え、神経細胞が死滅していることが分かっています。
それなら、血管の状態を保ち神経細胞の死滅を防ぐことが出来れば「脳内ネットワーク」を改善し、病気を予防できるはずです。
ウォーキング(早歩き)でMCIを改善
アメリカのイリオイ大学のクレイマン教授の研究により、「脳内ネットワーク」を改善する効果的な方法が発見されました。
あることを1年間続けるとそれら病気の原因に改善が見られ、認知症の予防が期待できると報告されました。その方法とは・・・
息がはずむ程度のウォーキング(早歩き)を1回1時間週3回行うだけです。たったそれだけで、脳や血管の神経細胞に驚くべき変化が見られたのです。
- VEGFという傷ついた血管の代わりに新しい血管を作る物質が放出される
- BDNFという新たな神経細胞を作るよう促す物質
ウォーキング(早歩き)によって、血管や神経細胞が新たに生み出されることで、「脳内ネットワーク」の結びつきが改善され、脳が若返り健康になるのです。
認知症予防フィンガー研究|ライフスタイルの改善でMCIを改善
引用:NHK「認知症革命|ついにわかった!予防への道」
ウォーキング以外にも、いくつかのことを組み合わせるとより相乗効果が期待できることが分かっています。
2015年、フィンランドの「フィンガー研究」という1260人のMCIの疑いのある方を対象に、大規模かつ適正に設計されたデザインに基づき実施された研究があります。
その「フィンガー研究」の研究報告では、しっかりとしたデータに基づき「ライフスタイルを改善することが認知症予防に効果がある」ことが示されたのです。
「フィンガー研究」では、MCIの疑いのある方に、以下のことを2年間取り組んでもらいました。
- 週3回30分程度の早歩き(歩数よりも、脈拍120くらいで少しドキドキする程度のウォーキング)
- 軽い筋トレ
- 食生活の改善(動物性脂肪や塩分を減らす、野菜や魚から抗酸化物質を摂る)
- 記憶力ゲーム週三回10分程度神経衰弱のようなもの
- 血圧管理(高血圧を管理し微小出血を防ぐ)
2年間以上この様なライフスタイルをMCIの疑いのある方が取り組んだ結果、取り組まなかった方を比較したところ、なんと認知機能が 平均25%も改善していたのです。
予防に効果的な食べ物については「食の改善で認知症や若年性アルツハイマー病予防!効果的な食べ物を大公開」
血圧管理については「血圧を下げる方法!高血圧を改善する」で詳しく解説しております。
いきなりのライフスタイルの改善が困難な方
フィンガー研究では週3回30分のウォーキングを実施しましたが、いきなりこれだけの運動が難しい方は、1日10分でも良いので継続すると効果が期待できます。また、ウォーキング中は、何かを考えながら歩くとより脳に良いことが分かっています。
そして、ウォーキング時は、いつもより歩幅を少し長く取る「ちょい足しウォーキング」がおススメです。
まとめ
MCIは、認知症を予防する為のラストチャンスです。
MCIの人もそうでない人も、今回ご紹介した予防法を実践していただき病気予防ひいては介護予防に努めていただければと思います。