必見!地域包括ケアシステムの全容と課題を分りやすく解説

「地域包括ケアシステム」という言葉をご存知でしょうか?

日本は、世界でもトップレベルの長寿国です。今後も高齢者の数は増加することが予想され、人類が今まで経験したことのないほどの超高齢化社会を迎えようとしています。一方で、赤ちゃんの出生率は低く、ここ数十年大人2人に対し、1.5人以下となっており少子化が進んでいます。

この少子高齢化社会は多くの問題を抱えています。その一つが介護です。

介護が必要な高齢者が増える一方で、介護をする人が減っていく訳ですので、介護をする人の負担はますます重くなります。毎日のように介護職員不足や介護離職、介護自殺・殺人などの問題がニュースが取り沙汰されています。また、国や自治体の財政的な問題もあり、特別養護老人ホームや介護療養型医療施設を増やすことは難しいのが現状です。

一方で、介護される人の立場で考えると、それまでの住まいから離れた施設などに入所するよりも、「住み慣れた町や自宅で生活を続けたい」という希望があります。

そこで、この現状をどうにかして対応しようと政府が打ち出したのが「地域包括ケアシステム」なのです。

地域包括ケアシステムとは

地域包括ケアシステムとは、どのようなものなのでしょうか?

地域包括ケアシステムは、「ニーズに応じた住宅が提供されることを基本とした上で、生活上の安全・安心・健康を担保するために、医療や介護、予防のみならず、福祉サービスを含めた様々な生活支援サービスが日常生活の場で適切に提供できるような地域での体勢」とされ、「おおむね30分以内に必要なサービスが提供される圏域として、具体的には、中学区を基本とする」と定義されています。

難しいですね・・・この言葉を、ザックリと要約すると以下のような意味です。

医療保険や介護保険だけに頼らずに、自治会やボランティアなども活用し、住み慣れた地域の中で、その土地のその人の暮らしに合った多様なサービスを包括的に提供するケアシステム。

つまり、「地域密着でお年寄りをケアするシステム」という考え方です。

5つの要素が連携してケアする仕組み

出典:医療法人団体 さくら病院

地域包括ケアシステムを実現するには、以下のような5つの視点による取り組みが必要であり、またこれら5つが互いに連携することが大切とされています。

医療 24時間対応可能な在宅医療、訪問看護やリハビリテーションの充実
介護 24時間対応のヘルパーやデイサービスなどの介護サービスの充実強化
予防 要介護にならない為の介護予防の取り組み
住まい 持ち家のバリアフリー化やサービス付き高齢者向け住宅など
生活支援 認知症の増加や1人暮らし・高齢夫婦のみの世帯の増加へ対応する為の、見守りや配食といった「生活支援」や財産管理などの権利擁護サービスの充実強化

以上を連携させて、包括的に推進するように努めるとしています。お年寄りや障害をもった人も、住み慣れた地域でその人らしく暮らしていくことを支える地域包括ケアシステムを実現するということは、生活の場の整備=街づくりだともいえます。

地域包括ケアシステム実現に向けての4つの捉え方

そして、医療・介護・予防・住まい・生活支援を上手く連携させるには、次のような5つの視点が大切とされています。

本人・家族の選択と構え 単身、高齢者小見世帯が主流になる中で、在宅生活を選択することの意味を、本人・家族が理解し、そのための心がまえを持つことが必要
住まいと住まい方 生活の基盤として必要な住まいが整備され、本人の希望と経済力にかなった住まい方が確保されていることが、地域包括ケアシステムの前提。高齢者のプライバシーと尊厳が十分医守られた住環境が必要
生活支援・福祉サービス 心身の能力の低下経済的理由、家族関係の変化などでも尊厳のある生活が継続できるように生活支援を行う。生活支援には、食事の準備など、サービス化できる支援から近隣住民の声掛けや見守りなどの支援まで幅広く、担い手も多様。生活困窮者などには、福祉サービスとしての提供も
医療・看護・介護・ リハビリ・保険・予防 個人の抱える課題に合わせて「医療・看護」「介護・リハビリテーション」「保険・予防」が専門職によって提供される(いろいろなサービスが緊密に連携し、一体的に提供)。ケアマネジメントに基づき、必要に応じて生活支援と一体的に提供

地域包括ケアシステムとは、いわば植物のようなものです。

出典:厚生労働省HP

植木は、鉢・土のないところに植物を植えても育ちません。同様に、地域包括ケアシステムでは、高齢者のプライバシーと尊厳が十分に守られた「住まい」が提供され、その住まいで安定した日常生活を送るための「生活支援・福祉サービス」があることが基本的な要素となります。そのような養分を含んだ土があればこそ初めて、専門職による「医療・看護」 「介護・リハビリテーション」「保健・予防」が効果的な役目を果たすものと考えられます。

この地域包括ケアシステムを築く上で中心的な役割を担うのが、各地方自治体に設置されている「地域包括支援センター」です。地域包括支援センターでは、地域のお年寄りがより良い暮らしを送るための様々な支援を行っています。

>>地域包括支援センターの役割とサポート内容

地域包括ケアシステムの問題と課題

ここまでの説明では、地域包括ケアシステムは「お年寄りに住み慣れた町で過ごしやすいようにサポートしよう」という大変素晴らしいシステムに感じますが、問題もあります。

サーポートの充実とコストカットは相反するもの

なぜなら、地域包括ケアシステムは、介護保険利用者の増加による財政負担を軽減したいという目的もあるからです。お年寄りのサポートを充実させようと思うとその分お金や人が要ります。サポートの充実と財政負担の軽減は、相反するものなのです。

もしも、政府がコストカットばかりを優先にして、地域に何もかも丸投げしてしまうと地域包括ケアシステムは上手く機能しなくなります。

例えば、コスト優先で質の悪い業者が増えたり、介護保険で受けられるサービスが少なくなったり、介護保険の対象から外されることも考えられます。

正直、在宅介護はしんどい

また、地域包括ケアシステムは、在宅介護を推進していますそこに問題や課題があります。

筆者自身も4年間母を在宅介護しています。毎月、介護保険で使えるサービスを全て使わせて頂いていますが、それでも正直まだまだ足りず生活そのものはかなりハードです(超過することもあります)。また、行動や仕事も制限されます。当然、出張や転勤の多い営業職などは始めから選択肢には入らず、何度か介護離職も経験しています。

その為、「地域包括ケアシステム」は政府が掲げている「介護離職ゼロ社会の実現」と切っても切り離せない関係です。しかし、介護離職ゼロ社会の実現は困難であることは誰の目から見ても明らかです。

したがって、そういった点も踏まえて「地域包括ケアシステム」の在り方や今後の展開には注意が必要です。