生物学的製剤とは

生物学的製剤せいぶつがくてきせいざいは、関節リウマチの治療に飛躍的な進歩をもたらした最新の薬です。

日本では、2003年に初めて関節リウマチへの生物学的製剤として「インフリキシマブ(商品名:レミケード®)」が国から承認を受けました。その後も続々と新薬が承認されていき、現在その数は7種類になります。

まだ普及して間もないですが、生物学的製剤の目覚ましい効果に多くの期待が寄せられており、より効果が高く安全な新薬の開発が進められています。

生物学的製剤とは|生物由来のバイオ医薬品

生物学的製剤とは、生物由来の材料を使い、最先端のバイオテクノロジー技術(遺伝子組換え技術や細胞培養技術など)を活用して製造されたバイオ医薬品です。

”従来の薬”はさまざまな原料を化学的に合成して作られるのに対し、”生物学的製剤”は人間や動物などの生きた細胞が作り出すタンパク質を利用して作られます。

効果

強力な免疫抑制作用で関節リウマチを改善

生物学的製剤は、「抗リウマチ薬(メトトレキサートなど)」で解決できない問題を克服するために開発されました。

生物学的製剤の大きな特徴は、強力な免疫抑制作用めんえきよくせいさようです。

関節リウマチは、免疫システムを誤作動させ、本来異物ではない正常な細胞(滑膜や骨など)を攻撃する病気です。この免疫異常を、生物学的製剤の強力な免疫抑制作用で改善し病気を治療します。

本来、免疫はウィルスや細菌等から、私たちの体を守るために必要不可欠なシステムです。また、炎症反応もその過程で起こるものです(風邪の時に熱を出し、外敵をやっつけるなど)

”抗リウマチ薬”も免疫異常を改善させる効果がありますが、”生物学的製剤”はそれ以上に高い効果が認められています。その為、抗リウマチ薬で効果が現れなかった場合でも、有効な症例が多く報告されています。

生物学的製剤には次のような効果が認められています。

  • 関節症状(関節の腫れや痛み、こわばり)の改善効果
  • 関節破壊抑制への高い効果。破骨細胞はこつさいぼう(=骨を壊す細胞)や滑膜細胞の働きを抑制
  • 死亡率を下げ、寿命を長くする効果

また、生物学的製剤は、寛解かんかい(関節リウマチの症状がなくなった状態)の達成率が高く、最終的には薬の投与を中止しても寛解状態が継続するまで改善する可能性も指摘されています。

メトトレキサート(リウマトレックス®)とは

抗リウマチ薬との併用でさらに高い効果

生物学的製剤と抗リウマチ薬の両薬を併用することで、有効率や寛解率がより高くなることが分かっています。中でも、インフリキシマブは、抗リウマチ薬のメトトレキサートと併用することで、画期的に関節症状を改善することが知られています。

作用

生物学的製剤は「炎症性サイトカイン」や「T細胞」に作用する

生物学的製剤は、「サイトカイン」や「T細胞」など炎症にかかわる物質や細胞に狙いを定めて作用します。

サイトカインは、細胞から分泌されるタンパク質の1種で体内に100種類以上存在し、細胞同士の情報伝達に使われます。いわば伝令役です。サイトカインの中には、炎症や関節破壊を促す作用を持つタイプも存在し、これらは「炎症性サイトカイン」と呼ばれています。

関節リウマチでは免疫異常により、免疫細胞(リンパ球やマクロファージ等)が炎症性サイトカイン(TNF-αティーエヌエフアルファILインターロイキン-1、IL-6)を過剰に放出します。なお、免疫細胞は炎症を起こす働きがあるため炎症細胞とも呼ばれています。

炎症性サイトカインには、炎症(痛みや腫れ)を促す働きがあります。免疫細胞表面にある「レセプター(受容体)」に取り付き合体し炎症を引き起こします。また、免疫細胞を呼び寄せ攻撃させる作用もあり、炎症が悪化していきます。さらに、破骨細胞や滑膜細胞とも合体し「活性化しろ!」と命令するため、骨の破壊や滑膜の肥大が進んでいきます。

製剤の種類でターゲット(TNF-α、IL-6、T細胞)が異なる

生物学的製剤は、炎症性サイトカインが免疫細胞のレセプターに取り付く前に、それらと合体しその働きを邪魔します。すると、炎症性サイトカインから免疫細胞へと上手く情報が伝わらなくなり、炎症や関節破壊が効果的に抑えられるのです。また、サイトカインを分泌し免疫細胞を指揮するT細胞の活性化を阻害する作用がある生物学的製剤もあります。

現在、最も生物学的製剤で多いタイプは、炎症性サイトカインの中でも「TNF-α」の働きを阻害するものです。他にも、「IL-6」の働きを阻害する製剤や、炎症性サイトカインではなく免疫活動を指揮する「T細胞」を標的にした製剤があります。

TNF阻害薬(TNFの働きを防ぐ) ”TNF-αを標的にした抗体(特定の異物を除去する働きのある分子)”や”TNF-αの受容体”として働き、TNF-αからの情報が伝わらないようにする。 インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブ ペゴル
IL-6阻害薬(IL-6の働きを防ぐ) IL-6受容体の働きを阻害して、IL-6からの情報が伝わらないようにする。 トシリズマブ
T細胞選択的共刺激調整薬(T細胞の活性化を防ぐ) T細胞(免疫の司令塔)が放出するサイトカインを減らすことで、情報の流れを元から断ち切る。 アバタセプト

用法(点滴または皮下注射で投与)

生物学的製剤は、点滴または皮下注射で直接血液の中に送り込みます。主な注射部位は、腕やお腹、太ももです。

なぜ経口投与ではないかというと、生物学的製剤がタンパク質で作られており、口から飲むと胃で消化・分解されてしまい期待した効果が得られないためです。

なお、生物学的製剤は病院で点滴や注射してもらうのが基本ですが、自身で自己注射することも可能なものもあります。自己注射をする場合は、しっかりと医師の指導に従い行いましょう。

生物学的製剤一覧

【種類別】生物学的製剤一覧表
一般名 商品名 標的 投与方法 投与間隔(頻度) 効果の出方 MTXとの併用
インフリキシマブ レミケード® TNF-α 点滴(約2時間) 初回投与後の2週後、6週間後。その後は8週間隔 早い 必須
エタネルセプト エンブレル® TNF-α 皮下注射(在宅自己注射可能) 週1~2回 早い 単独可
アダリムマブ ヒュミラ® TNF-α 皮下注射(在宅自己注射可能) 2週に1回 早い 単独可
ゴリムマブ シンポニー® TNF-α 皮下注射(在宅自己注射可能) 4週に1回 早い 単独可
セルトリズマブ ペゴル シムジア® TNF-α 皮下注射(在宅自己注射可能) 初回投与後の2週後、4週間後。その後は2または4週間隔 早い 単独可
トシリズマブ アクテムラ® IL-6 点滴(約1時間) 4週に1回 やや遅い  単独可 
皮下注射も可能(在宅自己注射可能) 2週に1回
アバタセプト オレンシア® T細胞 点滴(約30分) 初回投与の2週間後,4週間後。その後は4週間隔 やや遅い  単独可 
皮下注射も可能(在宅自己注射可能) 週1回

2017年5月までに承認された生物学的製剤です。いずれも医療保険の適用も受けられます。

現在、日本で使用可能な生物学的製剤は表の7種類です(2017年5月現在)。このうち「最初にどの薬を使用すべき」かという明確な指針はありません。各々に特徴(標的とする物質、投与方法、投与間隔、効果の出方、費用など)があります。また、それがメリット・デメリットにもなります。

例えば、投与間隔は短い薬は面倒です。しかし、逆に薬の半減期も短くなるので副作用に対処しやすくなります。

したがって、何を優先的に使えば良いかは人によって異なります。実際の治療では、医師が適宜検査を行いながら用量・用法などを慎重に調整していきます。どの薬剤もメトトレキサートと併用することで高い効果が期待できます。

なお、インフリキシマブは、ヒト由来だけでなくマウス由来のタンパク質も含み、効果を弱める抗体が現れることがあるので、メトトレキサートとの併用が必須とされています。

副作用

薬にはどうしても副作用が付き物です。生物学的製剤もその例外ではありません。

生物学的製剤は、関節リウマチに対して強い免疫抑制作用を発揮し画期的な効果をもたらします。しかし一方で、この強い免疫抑制作用があだとなり全身の免疫力の低下を招き、ウィルスや細菌などによって引き起こされる感染症にかかりやすくなります。

その為、風邪やインフルエンザ、結核、肺炎、B型肝炎などの感染症のリスクは避けられません。また、成分として生物由来のタンパク質が含まれているため、アレルギー反応(アナフィラキシー)が稀に起こる可能性もあります。

ただし、生物学的製剤は、他の従来の抗リウマチ薬にあるような臓器障害(血球減少、肝障害、腎障害など)はほとんどなくその点ではむしろ安全ともいえます。しかし、生物学的製剤とメトトレキサートを併用することが多いので、メトトレキサートの副作用にも十分に注意しましょう。

身体のだるさ、口内炎、せき、息苦しさ、発熱、たん、鼻水など体の異変に気が付いたらすぐに受診しましょう。副作用を防止するためにも、お薬手帳をうまく活用しましょう。

お薬手帳

費用

高額な生物学的製剤

生物学的製剤は、しばしば高額な値段が問題視されます。

どんな薬も開発や技術、生産に莫大な費用がかかっています。さらに、生物学的製剤は、最先端のバイオテクノロジー技術や動物由来の抗体を使うため薬価がどうしても高くなってしまいます。

なんと、医療保険適用(3割負担)でも、年間50万円前後の費用がかかると言われます。

例えば、「インフリキシマブ」は1本(100mg)約10万円です。体重1kgあたり3mg投与します。したがって、体重55kgの人では、インフリキシマブの1回分(2本=200mg)は約20万円になります。医療保険を使い3割負担に抑えても1回あたり約6万円、8週間ごとですから年間では36万円

今後、薬の普及とともに薬価は下がることが期待されていますが、バイオテクノロジー技術は難しく、安価な「バイオシミラー(バイオ後続品)」の登場は簡単ではなさそうです。

「バイオシミラー」と「ジェネリック」は同じ後発の医薬品です。しかし、「バイオシミラー」はその製造工程の難しさから化学合成医薬品の「ジェネリック」とは区別され、品質・安全性・有効性において厳しい基準が設けられています。先行バイオ医薬品と同等、同質であるかの臨床試験が求められます。

高額療養費制度などを賢く利用

病状や体重によって薬の使用量が異なりますが、診察料や検査料、他の薬代などを含めて患者さんにとっては大きな負担です。

したがって、こうした生物学的製剤を使用する場合は「高額療養費制度」など、医療費負担の軽減制度を利用すると良いでしょう。

高額療養費制度

また、病状が進んでいて身体障害者手帳を持っている方は、「重度心身障害者等医療費助成」を利用することで医療費の一部あるいは全額の免除を受けることができます(自治体により対象等級が異なる)。

なお、自治体や健康保険の種類によって、補助の金額や方法が異なりますので、お住いの自治体の福祉担当などに相談してみると良いでしょう。

<参考文献>