訪問入浴サービス
日本人は何と言ってもお風呂が大好きです。
お風呂に入ることは、身体を清潔に保つと同時に、褥瘡(床ずれ)や感染症の予防・改善にも繋がります。また、ゆったりと湯船につかることは、心身ともにリラックスさせ、生きる意欲を向上させたり、ストレスを解消させたりする効果が期待できます。
ご飯が食べられなかった人が、「お風呂に入ったことを機に食欲が回復した」という話を聞くぐらい、お風呂に入って体を清めることは重要なことなのです。
しかし、以下のようなことが原因で「お風呂に入れない・入ってもらえない」という方もいると思います。
- お正月は、デイサービスも休みなので長い間お風呂に入ることが出来ないみたい・・・どうしよう?
- 父は病気が重症化してきて外出もままならない状態だけど、何とかして湯船に入れてサッパリさせてあげたい!!
この様なお悩みをお持ちのお年寄りやご家族に、是非お勧めしたいのが「訪問入浴」という介護保険サービスです。ここでは「訪問入浴とはどういったサービスか」ということを徹底的に分かりやすく解説していますので、在宅介護の参考にして下さい。
1.訪問入浴とは
1.簡易浴槽を使った入浴サービス
訪問入浴とは、数人のスタッフが簡易浴槽を持ち込み、入浴が困難な方を入浴させてくれるサービスです。介護福祉の世界では、30年も前から行われてきた歴史のあるサービスです。要介護状態にある方でも、在宅で入浴できるようサポートし可能な限り自立した日常生活が営めるようにすることを目的としています。
このサービスを利用することで、重度の認知症やパーキンソン病、片麻痺の方など1人でお風呂に入れない方でも安心安全にお風呂に入っていただくことが出来ます。
訪問入浴介護の対象は、要介護1~5の人です。なお要支援1・2の場合には、「介護予防訪問入浴介護」の対象となります。サービス内容は、訪問入浴介護とほとんど同じですが、利用できるのは自宅に浴室が無い、または病気などの理由で施設の浴室が使えない場合に限られます。
なお、訪問入浴利用するには主治医の入浴許可が必要であり、看護師などが実際の入浴状況を観察し、心身状況に問題が無いことを確認してから行われます。
2.サービス利用のメリット
介護保険制度開始以降、家で入浴出来ない高齢者はデイサービスやデイケアで入浴することが一般化しました。その為、訪問入浴サービスはやや下火になりつつあるものの、重度の要介護者にとって貴重なサービスであることには変わりありません。
「重度の認知症やパーキンソン病、片麻痺の方」や「感染症や病気により施設の浴室を使えない場合」などは、デイサービスやデイケアに通うことも困難です。また、デイサービスなどは入浴介助だけを専門に行っているのではないので、どうしても介助する人員が少なかったり、1人1人の技術にムラがあったりします。
その点、訪問入浴では入浴介助を専門にしているスタッフが「看護職員1人と介護職員2人」の3人体制でサポートしてくれます。また、看護師がいるので「血圧、脈拍、体温」といった入浴前後の体調管理もしてくれるので、要介護度が重い人でも在宅で入浴できる確実な方法であると言えます。
※訪問入浴の利用者は、自力で入浴することが困難な方が多く要介護度が4・5の人が70%以上を占めています(厚生労働省)。
訪問看護やデイサービス・デイケアで行われる入浴サービスに比べると利用料金は割高ですが、外出が難しく自宅での入浴が困難な場合などに適したサービスです。また、土日祝日や正月などデイサービスが休みの時に単発で訪問入浴を利用することも可能です。
3.入浴介助の流れ|健康チェックから入浴後のケアまで
訪問入浴サービスの流れとしては、まず数人のスタッフが簡易浴槽を車に積んで利用者の自宅を訪問します。基本的に入浴介助にあたるスタッフは看護師1名、介護職2名です。なお、利用者の体調が安定している場合には、主治医の了承のもと、介護職員3人のみでサービスが提供される場合もあります。
そして、脈拍や体温、血圧の測定といった健康チェックを行った上で入浴します。ただし、利用者の体調によっては部分浴(足浴や洗髪、陰部の洗浄など)の、清拭(身体拭き)のみで終わる場合もあります。
さらに、入浴後の「着替えの介助やドライヤー、水分補給、体調の確認」といったアフターケアも訪問入浴のサービスとして含まれています。
ただし、訪問入浴では自宅に浴槽を持ちこんで入浴介助が行われる為、室内にはある程度のスペースや自宅の設備の状況などを確認する必要があるので、事前に事業者による訪問調査が行われるのが一般的です。
4.入浴介助スキルとプライバシーの保守を考慮して事業者を選ぼう
訪問入浴を実施している事業所の半数以上は、民間企業である社会福祉法人によって運営されています。
ですので、訪問入浴のサービスの質は事業者によってかなりの差があると言われています。丁寧に体を洗ってくれる事業所もあれば、ただ湯船につけ軽く体を洗うだけという事業所もあるのが現状です。したがって、訪問入浴の事業所を選ぶ際には、実際にサービスを利用した人から話を聴くなど、出来るだけ情報を収集し、慎重に選ぶ必要があります。
また、入浴介助は非常にデリケートなサービスです。特に女性の場合、異性からの介助に抵抗を感じる人も多いです。しかし、訪問入浴は「浴槽を車から家に搬入する」「利用者を湯船に安全に移す」という力仕事がある為、スタッフの中に男性がいることは珍しくありません。
ですので、事前に事業者に「異性のスタッフがいるかどうか」訪ねましょう。そして、異性のスタッフが入浴介助にあたる場合は、本人に「異性による介助が大丈夫か」といったことをしっかりと説明した上で訪問入浴を利用しましょう。また、本人が嫌がる場合などは、入浴時だけでも席を外すよう事業所にお願いしてみるのも手です。
2.訪問入浴の介護報酬と利用料金
1.スタッフの人員配置やサービス内容で単価が変化
訪問入浴の利用料金は、訪問入浴介護費という国が定めた介護報酬単価が用意されています。要介護か要支援でそれぞれプランがあり、
- 入浴介助をするスタッフの人員配置(看護職員がいるかどうか)
- サービス内容(全身浴か部分浴か清拭)
の2項目を基本に料金が変化します。
看護師が付かない場合や部分浴と清拭の場合は、基本の訪問入浴介護費から利用料金が減額されます。そして、訪問入浴の利用者は、最終的に介護報酬単価の1~2割を自己負担します。
看護職員1名+介護職員2名(通常の方法) | 1,234単位/回 |
介護職員3名(主治医が医療上問題ないと認めた場合) | 1,172単位/回(所定単位数の95%) |
清拭または部分浴看護職員1名+介護職員2名(全身入浴が困難で、利用者の希望がある場合) | 834単位/回(所定単位数の70%) |
看護職員1名+介護職員2名(通常の方法) | 834単位/回 |
介護職員3名(主治医が医療上問題ないと認めた場合) | 792単位/回(所定単位数の95%) |
清拭または部分浴看護職員1名+介護職員2名(全身入浴が困難で、利用者の希望がある場合) | 584単位/回(所定単位数の70%) |
2.自己負担費用をシミュレーション計算してみよう
それでは実際に、訪問入浴に掛かる月額の介護サービス費用を、下の条件でシミュレーション計算してみましょう。
- 利用者は要介護3
- 入浴方法は、看護職員1名と介護職員2名の通常の方法
- 1月1日から1月3日までの三が日の利用(計3回)
以上のサービスを利用した場合、次のように料金計算できます。(1単位=10円、個人負担=1割負担の場合)
【計算式】
【訪問入浴の自己負担費用(3回)】=1,234単位(基本料金)×3=3,702単位
訪問入浴以外でも、デイサービスやデイケアといった通所サービスにおいてもお風呂に入ることができます。しかし、これら通所サービスでも、入浴介護は人手を要することもあり、入浴時に介助がいる場合は別途入浴介助加算などの加算項目が設けられています。通常の利用料金に加算(入浴介助加算1日50単位)する形で行われます。
デイサービスやデイケアでは入浴介助加算などの料金加算が発生はしますが、訪問入浴を利用するよりも割安でお風呂に入ることができます。
したがって、利用者自身の健康状態やデイサービスやデイケアの入浴設備環境・体制などを総合的に考慮し、ベストな選択をしましょう。分からないことがあれば、担当のケアマネージャーに相談しましょう。