食事介助を上手にする方法|嚥下障害や胃ろうの人でも諦めないで

「現在、嚥下障害や胃ろうをしているから、一生口からの食事は出来ないかも・・・」と諦めてはいませんか?

実は、嚥下障害の方の大半は、たとえ急性期に嚥下障害が改善できなくても、嚥下のリハビリを基礎から始め、段階的にレベルアップしていけば口から食事がとれるようになるのです。

その為には、退院してからも諦めずに言語聴覚士や看護師の指導を受けながら、嚥下の訓練を続けることが何よりも大切です。

もし今現在、嚥下障害や胃ろうの人でも諦めずに「口から食べること」にチャレンジしていただければと思います。

食事介助は本人・介助者にとっても根気強さが必要なことですが、頑張ってみるだけの価値があります。嚥下障害が改善されれば口から食べる楽しみがもたらされ、その後の生活の質に大きな好影響をもたらします。

介護者の方は、本人に食事を安全に楽しんでもらう為にも、以下の記事を参考に正しい食事・嚥下介助のやり方を実践していただければと思います。

参考リンク>>胃ろう(PEG)の基礎知識

1.食事の前の下準備

誰でもそうですが、高齢者にとっても食事は大切な時間です。食事に集中できる雰囲気で、ゆっくり食べてもらうことが大切です。

介護者は落ち着いた雰囲気作りを心掛け、要介護者にリラックスしてもらいましょう。リラックスできる雰囲気の中で食事に集中してもらうには、食事の前に次のような下準備をしておく必要があります。

また、食事前に「嚥下リハビリ体操」「口内ケア」と「口腔マッサージ」を行っていただくと嚥下がスムーズになります。

  • トイレを済ましておく
  • テレビを消し、本人の好みに合わせたリラックスできる音楽を流す
  • 手を洗うまたは、アルコールティッシュや濡れタオルで手を拭きキレイにする
  • 食べやすく安全な姿勢を確保する

2.食事介助の方法

1.食事の時の正しい姿勢

誤嚥を防ぐ姿勢は、健康な人が一番食べやすい姿勢と同じです。食べ物のほうを向き背筋を伸ばしてやや前かがみの姿勢で顎を少し引いて食べます。姿勢が悪いとおなかや腰に力が入りにくく、うまく飲み込めないので、できる限りイスや車いすに座って食事を取ってもらいましょう。

1.テーブルでの食事(食事中の椅子や車椅子の座り方)

座位が保てる人は、できるだけベッドではなく、椅子や車椅子に座りながら、テーブルで食事を取るようにしましょう。「さあ、食事の時間だ」という意識づけになり、食事への集中力を高めるスウィッチになります。

椅子には深く腰を掛け、テーブルに肘が乗せられるように椅子を引き寄せましょう。その時に床や車椅子の足置きにしっかりと足がついていることを確認してください。

2.ベッド上での食事(誤嚥を防ぐベッドや車椅子の角度)

自力で座位が保てない人は、ベッド又はリクライニング式の車椅子を利用して食事介助を行います。食事介助のやり方はテーブルでの介助とほぼ同じです。

ただし、ベッドの角度と介護者の座る位置に気を付ける必要があります。

車いすでの移動が難しく、ベット上でしか食事を取れない方には、頭に枕を入れて頭を起こし、リクライニングベットの角度をできる限り垂直にして食事を取ってもらうと嚥下がスムーズにいきます。

嚥下介助中はベッドの角度は本人の状態によって30~80度くらい起こして下さい。ちょうど首とアゴの間にゲンコツが入る程度の隙間があり、視線が前方を向く程度にアゴを引いた姿勢です。

頭が起きアゴを引いた姿勢になり首の緊張が取れて嚥下がスムーズになります。角度が無いと顎が上がってしまい、誤嚥の下になりますので、枕やクッションを頭の後ろに入れて顎を下げるようにしましょう。

3.片麻痺の人の誤嚥を防ぐ姿勢

片麻痺がある場合は、こうした基本姿勢に加えて、健康な側を下側にした姿勢を取ることもあります。これは、重力によって食べ物が健康な側の咽頭に集まり飲み込みやすくなるからです。

2.介護用エプロンをかけましょう

介護用エプロンをかけることで、食べこぼしの処理や衣服へ汚れがついてしまうことを防ぐことができます。 エプロンをかけてテーブルの上に広げその上に、食事を並べて下さい。エプロンはしっかりと広げておきましょう。シワになっていたりヨレたりしていると、食べこぼしがエプロンから落ちてしまうことがあります。

3.食事の前にお茶を出し、水分補給を促しましょう。

お茶を飲むことは、水分補給はもちろんのこと、喉を潤し嚥下をスムーズにし誤嚥のリスクを減らすためにも行うと良いでしょう。

また、水分補給は熱中症や脱水症の予防にもつながります。

嚥下障害のある人には、とろみ剤を付けたお茶を出しましょう。

4.献立メニューの説明をする

食欲をそそるように献立の説明をしましょう。ミキサー食やペースト状の介護食のような形のないものの献立も説明しましょう。料理の材料などを伝え、何を食べたいのか尋ねながら介助をしましょう。

食事介助の際の献立の説明事例集

  • 「きょうの献立は好物のピーマンと鶏肉の炒め物ですよ」
  • 「どれから、食べますか?」
  • 「好きなもの・嫌いなものはないですか」
  • 「食べやすいもの・食べにくいものはないですか」
  • 「焦らずゆっくり噛んで食べて下さいね」
  • 「旬のお魚で今が一番おいしいですよ」

5.食事介助者の位置

介護者は本人と同じ高さの姿勢をとりましょう。介助者が立ったまま上から下へ食べ物をあげると顎が上がってしまい誤嚥の原因になってしまいます。

介助者は本人と同じ高さになるように、座るなどして横あるいは下から食べ物を口に入れるようにしましょう。

また、同じ目線で嚥下介助をすることで、親近感や優しさが伝わり食べやすい雰囲気になります。

5.嚥下介助のポイントと注意点

嚥下障害がある人の場合

本人の食事ペースに合わせ、1回に入れる量を決め、誤嚥のないように気を付けましょう。
1回ごとにしっかり飲み込んでいることを確認してから、次の分を口に運びましょう。

片麻痺がある人の場合

脳梗塞の後遺症などで片麻痺のある人は、麻痺のある側の口腔に食べ物を入れると咀嚼できないことがあります。その場合は、介助者は麻痺のない方に座り、麻痺のない側の口角(口の端)から食事を入れるようにしましょう。

食べカスが麻痺側に溜まってしまうようなら、時々両手で頬を支えて、少し首を傾けて麻痺のない側に食べカスが移動させるか、介助者の方がとってあげるようにしましょう。その時スプーンが歯茎や歯に当たらないように気を付けましょう。

汁物から介助する

好みがある場合は好みを聞きながら、汁物から介助し、主食、副食と交互にバランスよく介助しましょう。

楽しく食事をしてもらうことも大事なので、声掛けによるコミュニケーションを心掛けながら介助しましょう。ただし、飲み込むときに声をかけてしまうと嚥下の妨げになったり誤嚥してしまったりする原因となってしまうのでご注意下さい。

まとめ

正しい方法で食事介助を行うことで、今現在、嚥下障害や胃ろうをつけている方でも、口から食事がとれるようになる可能性がございます。

本人にとって食事を口から取り味わうということは、人生を楽しむ上でも大切なことですので、食事介助をする人はできる限り気長に協力していただければと思います。

嚥下障害の人が食べやすい「食べ物の形態」「一口の量」については、『嚥下に問題がある人に「食べやすい」ごはんの作り方のコツ』で詳しくご説明しております。

著者の母も脳出血の後遺症で片麻痺が残ると同時に嚥下障害になりました。母は誤嚥の恐怖から段々と口から食べ物を食べなくなり、しまいには胃ろうを付けることになりました。 しかし、胃ろうになっても諦めず、家族やリハビリの先生が食べたいものを聞き出しそれを出したり、誤嚥しにくい姿勢を気を付けたりして、何度も母とともに「口から食べる」ことにチャレンジしました。何度も、母は「食べ物を口に入れては吐き出し、また入れる」ということを繰り返しながら、果敢に「口から食べること」にチャレンジしてくれました。 そんな母の努力の甲斐もあって、脳出血発症から1年半後にようやく口から食べることが出来ました。そして、それから半年後、ようやく胃ろうを外すことが出来ました。今では、母の人生の一番の楽しみは「食べること」だそうです。