パーキンソン病の嚥下リハビリ|発声訓練とカラオケで誤嚥予防

好きなものを好きなだけ自由に食べたい!!

本来、楽しいはずの食事が病気により、恐怖の対象になってしまうことがあります。パーキンソン病もそのような病気の1つです。

パーキンソン病が進行してくると、食べ物がのどに詰まる「嚥下障害えんげしょうがい」や声がどもったり、小さくなったりする「構音障害こうおんしょうがい」が現れることがあります。

こうした口や喉に関係する障害は、気を付けておかないと命にも関わる重大な問題を引き起こすことがあります。

この記事では、口や喉に関係するパーキンソン病の症状に打ち勝つ為のリハビリテーションについて解説しています。嚥下障害や構音障害にお困りの方は、是非参考にして下さい。

パーキンソン病では発声や嚥下(食べ物の飲み込み)の障害が現れる

パーキンソン病では、発声や嚥下(食べ物の飲み込み)に関わる障害が発生します。

構音障害(喋り方の障害) 声が小さくなる、抑揚がなくなる、吃音(どもり)になる、発音が不明瞭で聞き取りづらくなる
嚥下障害(飲み込みの障害) 食べ物を上手く咀嚼できない、食事を上手く飲み込めない、よだれが口に溜まる

嚥下障害や構音障害の原因

しかし、なぜパーキンソン病では、このような構音障害や嚥下障害が現れるのでしょうか?

それは、パーキンソン病を発症することで筋固縮や筋力の低下が進み、顔や口、のどの筋肉が強ばりスムーズに動かなくなるからだと考えられています。

「食べる」「喋る」「呼吸する」という行為は私たちの想像以上に、複雑な運動です。声を出したり、呼吸をする時は、肋骨ろっこつと肋骨との間にある肋間筋ろっかんきん胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきん斜角筋しゃかくきんなどの筋肉が働き、胸郭きょうかくがしっかりと動く必要があります。しかし、パーキンソン病になると、これらの筋肉がスムーズに動かなくなるのです。

パーキンソン病の死因のトップは嚥下機能の低下

パーキンソン病になると、食べ物や水分が上手く飲み込めなくなる「嚥下障害」が起こりやすくなります。誰でも、食べ物を詰めることはありますが、その多くは咳払いをしむせることで上手く吐き出します。しかし、パーキンソン病の方は喉に詰まった食べ物を上手く吐き出すことが難しくなります。

嚥下障害が現れると、食べ物が誤って気管に入ってしまう「誤嚥」を起こす確率が高くなります。それと同時に、口の中の菌が肺まで到達し炎症を起こす「誤嚥性肺炎ごえんせいはいえん」にかかると命を落としてしまうこともあります。

誤嚥性肺炎とは

嚥下障害は、パーキンソン病がある程度進行した中期以降に見られる症状です。ですが、初期のころから嚥下障害が起こるという報告もあります。

実は、パーキンソン病の患者さんは、病気そのものが直接的原因で亡くなることはありません。死因の多くは、嚥下障害からの誤嚥性肺炎や気管支炎、呼吸困難など嚥下機能の低下によるものが占めています。したがって、パーキンソン病の治療や介護を行う上で、嚥下機能を維持し、安全に食事を摂ることは大変重要です。

ですが、嚥下障害や構音障害といった症状は、薬が効きにくいことで知られています。それでは、どのような方法でこれらの機能を維持したら良いのでしょうか?その答えは、口やのどの筋肉を鍛える「嚥下のリハビリ体操」や「発音のリハビリ|プッシング・プリング法」を実践することです。

嚥下のリハビリ体操

一度でも、のどに食べ物を詰めてしまうと食べることに恐怖心を抱き、食事を摂らなくなってしまう人がいます。しかし、食事を摂らずにいると栄養状態の悪化を招き、ますます口や喉の機能が低下してしまう、という負のスパイラルに陥ってしまいます。

したがって、嚥下障害が現れる前でも、パーキンソン病の発症が分かった時点で、嚥下のリハビリ体操を実施することをオススメします。嚥下のリハビリについては、以下の記事で詳しく解説しています。

嚥下をスムーズに!食事の前に必ずやっておきたいこと(リハビリ体操編)

発声のリハビリ|プッシング・プリング法

パーキンソン病の方の声は、本人の想像以上に小さいものです。声が小さかったり、スムーズに言葉が出てこない構音障害も、口や喉の筋肉の低下や障害で現れやすい症状です。

したがって、大きな声を出し口やのどの筋肉を鍛えることは、パーキンソン病患者にとって大変効果的なリハビリです。そこでご紹介するリハビリが「プッシング・プリング法」という自宅で簡単にできる発声訓練です。

プッシング・プリング法

プッシング・プリング法は、のどの筋肉を鍛え、しっかりと閉じるためのリハビリです。反射的に息こらえができるように、声門を閉鎖し気管に食べ物が侵入することを防ぐようトレーニングします。プッシング・プリング法のやり方は、次の通りです。

  1. 壁の前に立ち、両手の掌で壁を押します。
  2. 両手で壁を押しながら、「アーーー」と大きくハッキリした声で発声します。
  3. 男性は30秒、女性は20秒を目標に声を出します。

また、椅子に座った状態で両手を椅子の縁にかけて押したり、両手を拝むように構えて押しあったり、その状態で大きな声を出すことでも同様の効果が期待できます。「アーーー」と大声を出すだけでは、つまらないという方は、「あ・い・う・え・お」と50音を発声するなど工夫してみるのも良いでしょう。

カラオケはパーキンソン病に効果的

リハビリの効果を高めるには、何よりも自分から積極的に進んで、継続的にリハビリに取り組むことが一番です。さらに、リハビリを楽しく取り組めたらより効果的です。

そこで、オススメしたいリハビリが「カラオケ」です。カラオケで大きな声を出して歌うのこと自体が、口や喉といった口周りの筋肉を鍛え、嚥下障害や構音障害の予防・治療効果が期待出来ます。

また、パーキンソン病は”ドーパミン”という脳内の神経伝達物質が減少・不足する病気です。このドーパミンが不足することで、パーキンソン病では運動症状などが現れます。実は、このドーパミンは”快楽・幸福を感じる時”に増加し、逆に”落ち込んでいる時やストレスを感じている時”には減少することが研究からも分かっています。ですので、カラオケで好きな曲を大声で歌い楽しい時間を過ごすことが、パーキンソン症状の改善に繋がるのです。

体と心の両面からリハビリができるカラオケは、パーキンソン病の方にうってつけです。

ドーパミンを増やすことで病気を治療する2つの方法

日常生活もリハビリ

普段の日常生活も、パーキンソン病の方にとってはリハビリです。家族や友達との会話も自分が思っている2割増しの大きな声で喋りましょう。また、リハビリだけでなく、万が一、誤嚥が起こった時の為に、口腔ケアを徹底しておくことも大切です。

なお、パーキンソン病の4大運動症状に効果的なリハビリについては、下の記事で解説しています。

パーキンソン病の運動症状に対するリハビリ治療