変形性膝関節症の物理療法(温熱・寒冷等)
変形性膝関節症の治療法は、何も手術だけではありません。保存療法という手術を行わない治療法も存在します。
この保存療法はいくつかの方法に分けられるのですが、ここでは”温熱”や”寒冷”、”電気”といった物理的な刺激を利用する「物理療法」について解説していきます。是非、高齢者の膝痛の原因の多くを占める”変形性膝関節症”の治療の参考にして頂ければと思います。
物理療法とは
それでは一体、物理療法とはどのような治療法なのか、その概要を確認していきましょう。
物理エネルギー(温熱・寒冷・電気・光線等)を用いる治療法
物理療法とは、物理的エネルギー〔温熱、寒冷、電気、光線(赤外線・レーザーなど)等〕を身体に加えることで、血流の改善、炎症や疼痛(ズキズキする痛み)の緩和、筋や関節の柔軟性の向上をはかる治療法です。つまり、膝を温めたり冷やしたりすることで、痛みを和らげたり、筋肉や関節を動かしやすくするのです。
物理療法と呼ばれるものには、次のようなものがあります。
- 温熱療法
- 寒冷療法
- 電気刺激療法
- 牽引療法
変形性膝関節症に対する主な物理療法
この中でも変形性膝関節症の治療としては、”温熱療法”と”寒冷療法”がよく用いられています。
温熱療法 | 温める効果のあるもの。患部を暖めることで血流を改善し新陳代謝を促すことで、痛みの緩和、関節や筋肉の緊張をほぐし柔軟性の向上を図る。主に慢性の炎症に有効です。 |
---|---|
寒冷療法 | 冷やす効果のあるもの。患部を冷やすことで炎症症状を改善することで、腫れや痛み、熱感の緩和を図る。主に急性の炎症に有効です。 |
それでは、変形性膝関節症の”温熱療法”、”寒冷療法”の中身について説明していきます。
※物理療法の推奨グレードは、OARSI(変形性関節症の国際的な学会組織)によるエビデンス(科学的根拠)に基づくガイドラインでは、運動療法と比べて低くなっています。また、物理療法を実施する際は、主治医やリハビリスタッフに相談し安全性を確保しましょう。
※物理療法は変形性膝関節症だけでなく、打撲、捻挫、変形性関節症、肩関節周囲炎(四十肩、五十肩)、関節リウマチ、ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症といった症状・疾患でも広く実施されている治療法です。
① 変形性膝関節症の温熱療法
変形性膝関節症による痛みや炎症を和らげるには、患部を温めることは効果的です。身体が冷えると、血管は収縮し血流が低下します。すると筋肉の動きが悪くなったり、痛み物質が排出されにくくなったりすることから、いつもより痛みを感じやすくなります。
温熱療法で期待できる効果
温熱療法では膝を温めることで、血管を拡張させ血流を促進し、新陳代謝を促します。温熱療法には以下のような効果が期待できます。
- 痛み物質(サイトカインや軟骨の破片)の排出を促進することで、痛みの鎮痛、消炎作用が期待できる
- 筋肉や靭帯の緊張をほぐすことで、膝関節の柔軟性向上が期待できる
医療機関では、保温性に優れたゲル状の特殊な温熱材が入った「ホットパック(温湿布)」や「赤外線・レーザー・マイクロ波(超短波)を起こす装置」など様々な方法を用いて膝を温めます。
医療機関で行う装置を用いた温熱療法のメリットは、より深部を温められることです。ただし、「マイクロ波療法は、ペースメーカーなど体内に金属が埋め込まれている患者さんの場合は、受けることができない」など使用機器や対象者の身体状況によっては、これら療法が禁忌になることもあるので、医療関係者としっかりと相談した上で取り組む必要があります。
家庭でできる温熱療法
温熱療法は、特殊な道具や機材を揃えなくても、ご家庭で気軽に取り組んでいただけます。例えば、蒸しタオルを患部に当てたり、お風呂に入ったりなどして、患部を温めれば良いのです。入浴後に軽い体操やストレッチを行うとより効果的です。
②変形性膝関節症の寒冷療法
寒冷療法では、膝を冷やすことで、血管を収縮させ腫れを抑えたり、細胞の新陳代謝を低下させ炎症を鎮めたりする効果が期待できます。
最も手軽な寒冷療法は、氷嚢やビニール袋をタオルで包んだものを用意し、その中に氷水を入れて患部に当てて冷やす方法です。患部を冷やす時間は、約10〜20分前後にとどめ、その間は位置を移動させましょう。長時間同じ場所を冷やしすぎると、凍傷などの皮膚トラブルを招くことがあります。
膝の痛み・腫れの程度に応じて、温熱療法と寒冷療法を切り替える
では、どのようにして「温熱療法」と「寒冷療法」を使い分ければよいのでしょうか?
変形性膝関節症のような慢性疾患の場合は、普段は「温熱療法」が適しています。温熱療法により膝の痛みを和らげたり、運動やリハビリ前に膝が動かしやすくしたりします。一方で「寒冷療法」は、捻挫や過度なスポーツをした後など、酷い痛みや腫れ、熱感を感じるような場合に適しています。寒冷療法により膝を冷やすことで炎症を抑え、痛みの感覚を鈍くします。
これは、痛みや腫れがない場合に、患部を冷やしてしまうことで症状の悪化を招いてしまう恐れがあるためです。なので、炎症が強い時を除き、膝はなるべく冷やさないようにします。そして、数日~1週間ほど冷やしながら様子見をしてもらい、膝の痛みや腫れ、熱感が引いたら再び温熱療法に切り替えます。
なお、”どのような方法が本人に適応しているのか”、”各療法の切り替えのタイミングはどこか”といった本人に最適な物理療法を実施する為には、医師やリハビリスタッフとよく相談しましょう。
なるべく膝を冷やさないよう注意する
先ほど説明したように、膝の痛みや腫れが酷くない場合は、なるべく患部を冷やさないようにするのが基本です。
したがって、膝をそのままむき出しにするのではなく、長ズボンやロングだけのスカート、タイツなどを着用し、膝を露出しない服装を心がけましょう。また、ブランケットなどの膝掛け、保温作用のあるサポーターを利用するのも良いでしょう。
特に、冬の寒い時期やクーラーが効いている場所では膝を冷やさないように注意しましょう。