変形性膝関節症の装具療法(足底板・サポーター等)

年齢を重ねるにつれ、膝の痛みを訴える人は多くなってきます。特に高齢者の膝痛の原因として多いのが”変形性膝関節症”という病気です。

変形性膝関節症の治療法はいくつかありますが、ここでは足底板やサポーター等の装具を利用する「装具療法」について解説していきます。是非、参考にして下さい。

変形性膝関節症とは

装具療法とは

装具(サポーターや足底板等)による治療

まずは、装具療法がどのような治療法なのか説明していきたいと思います。

装具療法とは、”身につける道具(足底板やサポーターなど)によって、骨関節の安定性向上および負担軽減、ズキズキする痛みの緩和、動作の補助、保温などの効果を図る治療法”です。

例えば、装具を利用することで次のような効果が期待できます。

  • 骨関節の安定性向上および負荷の軽減
  • 疼痛(ズキズキする痛み)の緩和
  • 保温
  • 変形の予防あるいは矯正
  • 捻挫や脱臼などを予防する保護効果
  • 運動やリハビリテーションの補助
  • 失った機能の代償

このように様々な効果が期待できる装具療法は、変形性膝関節症の治療だけでなく、脳卒中後の麻痺や骨折・脱臼後の治療やリハビリの補助など、あらゆる目的に用いられます。

主に、装具療法は初期〜中期の変形性膝関節症に効果が見込める治療法です。

装具の種類は多種多様〜目的によって使い分ける

1つに装具といってもその種類は多く、病気の種類や重症度、期待する治療効果、障害のある身体部位、利用者の体型によって選択する装具は変わってきます。

それでは、ここからは変形性膝関節症の治療に用いる代表的な装具を4つピックアップして、各々の特徴(メリット・デメリット)をご紹介していきます。

  • 足底板
  • サポーター
  • 機能的装具

ここからの内容を参考に、各々の装具の持つ特徴をしっかりと理解し、適切な装具選びに役立てていただければと思います。

自分に合った装具を選ぶ際は、医師やリハビリスタッフ(理学療法士、作業療法士など)、義肢装具士などの専門家に相談しアドバイスを求めることをオススメします。

①足底板(足底装具)

足底板で膝の角度を調節し負荷を軽減・分散

足底板とは、足の裏に傾斜をつけ膝の角度を調節する装具です。

変形性膝関節症の患者さんの多くは、内側か外側のどちらか一方の軟骨がすり減っていて、O脚やX脚になっています。このような状態だと、内外どちらか一方の軟骨がすり減りやすくなるので、さらに変形性膝関節症が悪化していきます。

  • O脚(内反変形)は、内側の軟骨がすり減りやすい
  • X脚(外反変形)は、外側の軟骨がすり減りやすい

そこで、足底板を使用し足裏に傾斜をつけ、膝の角度を調節することでO脚やX脚を矯正し、片側に偏ってかかっていた負荷を分散・軽減させます。その結果、膝全体でバランスよく体重を支えられるようになり、膝の痛みの緩和、変形性膝関節症の進行抑制などの効果が期待できるのです。

足底板の選び方

体重がかかるのは、”股関節の中心”と”足関節の中心”を結んだ「荷重線」です。変形性膝関節症では、この荷重線が膝関節の中心からずれ片側だけに負荷が集中しているケースが多いです。

したがって、足底板で片側の足裏を底上げし、荷重線を関節の中心に正しく矯正させます。足底板の選び方は次の通りです。

  • ”O脚の場合は脚の外側”が高くなっている足底板を選ぶ
  • ”X脚の場合は脚の内側”が高くなっている足底板を選ぶ

日本人の変形性膝関節症の患者さんの多くはO脚です。O脚の場合、膝の内側の関節軟骨のすり減りが進んでいるので、足裏の外側を底上げする足底板を用いO脚を矯正します。

足底板には、靴のインソール(中敷)として使うタイプ、足にバンドで固定するタイプ、靴下のように履くタイプなどいくつかの種類があります。

なお、足底板は、初期〜中期の変形性膝関節症にはある程度効果が期待できますが、変形の強い末期の場合はあまり効果が期待できません。

英国・マンチェスター大学のMatthew J. Parkes氏らの研究報告によると、内側型変形性膝関節症の方への外側楔状足底板の使用による痛みの軽減効果が認められないとする見解もあります。

②サポーター

サポーターとは、スポーツショップや薬局等においている手軽に膝をサポートできる道具です。

サポーターも変形性膝関節症の装具療法として利用されることがあります。ですが、サポーターそのものには、強い矯正力や安定性、痛みの軽減などの効果はあまり期待できません。むしろ、保温や膝への意識づけ、精神的な安心感といった治療のサポートを目的に使用します。

サポーターは、大きく履くタイプと巻くタイプに分かれます。

  • 履くタイプのサポーターは、円筒状で膝全体を包み込むものが多く、主に保温目的で使用されます。膝が温まることで血流が改善し、新陳代謝が促進され痛み物質の排出が進み、痛みの緩和作用があるとされています。
  • 巻くタイプのサポーターは、軽く膝を締め付けることで、そこに意識を向けかばうようになり、無理な動作を避ける作用があるとされています。履くタイプと比べて、歩行などの際に比較的ズレにくい、締め付け具合を調節できるといったメリットもあります。

なお、サポーターの中には、金属やプラスチックでできた”支柱入りのサポーター”もあります。支柱入りのサポーターは、支柱無しのサポーターと比べて支える力が強く、膝の安定性は増します。

③機能的装具

機能的装具とは、膝関節の両側にプラスチックや金属製の蝶番形状の支柱、大腿(ふともも)と下腿(膝〜足首)に取り付けるバンドからできている装具です。

左右の支柱により横揺れを、膝関節上下を圧迫するバンドにより前後方向の揺れを防ぐ装具です。先ほどの”サポーターを強力にしたもの”とイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。

機能的装具は頑丈な形状なので、一般的なサポーターよりも膝の安定性を高めたり、膝への負荷を軽減したり、関節のバランスを矯正したりする効果が高いです。その為、機能的装具は医療用として使用されることも多く、変形性膝関節症が進んでいる段階でもある程度の効果が期待できます。

ただし、機能的装具はその頑丈さゆえに、装具自体がやや重く目立つ、装着が少し面倒、費用が高くなる等の欠点があります。ですが現在では、軽い素材でできた軽量タイプの機能的装具も多くなってきています。

④杖・歩行器

変形性膝関節症の装具療法では、杖や歩行器が使用されることもあります。

杖や歩行器を持つことで、起立時や歩行時の安定性を高め、膝への負担を軽くすることができます。また、転倒予防にもなります。したがって、長時間立っていたり、長距離を歩くような時には、杖や歩行器を使用することをオススメします。

杖や歩行器は、直接的に膝をサポートするものではありませんが、初期〜末期の変形性膝関節症の方まで幅広くご使用いただけます。杖の種類や選び方については、下のリンクをご覧ください。

杖の種類と選び方

装具購入の際の注意ポイント

”専門家と一緒に選ぶ”または”オーダーメイド”で自分に合った装具を

それでは、足底板やサポーター、機能的装具、杖などの装具は、どこで手に入れれば良いのでしょうか。

これら装具は、福祉用具販売店やインターネットなどで既製品(レディメイド)を購入することができます。ですが、素人判断で自分の症状や体型に合わない装具を付けていると、血行不良や角度調整の不備などにより痛みが悪化することもあります。これでは、せっかくの変形生膝関節症の治療も逆効果になってしまいます。ですので、装具をご購入の際は、医師やリハビリスタッフなど専門家に相談しアドバイスを求めることをオススメします。

また、自身の体型や症状に合わせたオーダーメイドの装具を作ってもらうのも良いでしょう。医師やリハビリスタッフと、義肢装具士という装具の専門家が連携してあなたに合ったオーダーメイドの装具を製作します。義肢装具士が採寸や型取りを行い、試着と微調整を経て完成します。少し時間はかかりますが、自分の体型や症状にあったものを作れることは大きなメリットです。

どちらにせよ、実際に使用してみて自分に合わない、故障したなどの問題が出てきた場合は、すぐに使用を中止し、専門家にアドバイスを求めることが大切です。

医療保険や身体者障害者手帳、介護保険を利用し安く済まそう

いざ、装具を購入しようと思っても、高額なので購入を躊躇ちゅうちょしているという方も少なくないでしょう。オーダーメイドの装具を作ってもらうとなると尚更です。

このような場合は、公的な制度を利用することをオススメします。公的医療保険や身体障害者手帳、介護保険など各種公的制度を利用することで、装具の利用にかかる費用を安く済ませることができます。

例えば、各種医療保険や身体障害者手帳を利用することで、装具(オーダーメイドも含む)購入費用の一部を免除してもらうことが可能です。また、介護保険の福祉用具貸与という制度を利用することで、装具(主にレディメイド=既製品)をレンタルすることも可能です。

身体者障害者手帳と介護保険とでは、原則として介護保険が優先されるため、福祉用具貸与制度を利用した既製品のレンタルとなります。しかし、身体状況などを考慮しオーダーメイドの装具の必要性が認められれば、障害者総合支援法による補装具費支給を受けることができます。

介護保険の対象となる身体障害者であって要介護状態又は要支援状態に該当するものが、介護保険の福祉用具と共通する補装具を希望する場合には、介護保険による福祉用具の貸与が優先するため、原則として、本制度においては補装具費の支給をしないこととしているが、身体状況に適合させるため、オーダーメイド等により個別に製作する必要があると判断される者である場合には、更生相談所の判定等に基づき、本制度により補装具費を支給して差し支えないこととしています。

《引用:平成25年度障害者総合福祉推進事業 補装具費支給制度の適切な理解と運用に向けた研修のあり方等に関する調査 補装具費支給事務ガイドブック》

福祉用具貸与制度について

なお、購入・レンタル可能な装具の種類、購入費用の一部助成かレンタルどちらが適用されるか、自己負担額の割合といったことは、その方の症状や利用する公的制度の種類によって変わってきます。ですので、装具の購入・レンタルをお考えの方は、あらかじめ市町村やケアマネージャーに問い合わせてみましょう。