変形性膝関節症の薬物療法

「薬を飲む」「湿布を貼る」「注射を打つ」といった薬物療法も、変形性膝関節症の治療法の1つです。

変形性膝関節症の治療の基本は、なるべく膝に負担をかけずに、膝関節周辺の筋肉を鍛えることで、痛みや炎症を和らげることです。その為には、日頃から「体重のコントロール」「生活動作の工夫」「運動療法」などに取り組むことが大変重要です。

ですが、それでも痛みが取れない場合には、”薬物療法”を試みることになります。

そこで、ここでは「変形性膝関節症の薬物療法」を中心に解説していきますので、膝痛がなかなか改善せずお困りの方は是非参考にして下さい。

1.薬物療法の目的は痛みや炎症の緩和

まず、変形性膝関節症の薬物療法について説明していくにあたり、1つ押さえておいて欲しい点があります

その点とは現在、変形性膝関節症を根本から治す薬が存在しないという事実です。

つまり、現在、変形性膝関節症の治療に使用されている薬は、”膝の痛みや炎症などの症状を和らげるもの”であり、”磨り減った軟骨を再生し病気を根本から治すもの”ではないということです。ですが、それでも痛みや炎症を抑えられる薬物療法は、なかなか膝痛の症状が改善しないという方にとっては大変効果的です。

なぜなら、膝痛の症状がある人は次に示すような悪循環に陥ってしまう可能性があるからです。

「膝痛がある人は、膝を使う動きを避け安静にし過ぎる傾向があります。安静にし過ぎると”筋肉量の低下”や”関節可動域の縮小”を招いてしまいます。すると、軟骨の磨り減りがより進み膝痛がより強くなり、ますます膝を動かしにくくなります。」

そこで、この変形性膝関節症の悪循環を断ち切る為に”薬物療法”が実施されるのです。

2.変形性膝関節症に使用する薬

それでは、変形性膝関節症に使用する薬には、どのようなタイプがあるのか確認していきましょう。変形性膝関節症の治療に用いられる薬は、期待される作用から2種類に大きく分かれます。

「鎮痛(痛みを抑える)作用」や「抗炎症(炎症を抑える)作用」のある薬
アセトアミノフェン、非ステロイド性抗炎症薬、オピオイド鎮痛薬、ステロイド薬
「関節内の潤滑を高める作用」のある薬
ヒアルロン酸

それでは次は、2種類の薬の詳細とその違いついて説明していきます。

鎮痛や消炎作用のある薬【アセトアミノフェン、NSAIDs、オピオイド鎮痛薬、ステロイド薬】

痛みや炎症を抑えるタイプの薬は、変形性膝関節症に対する薬物療法の大部分を占めます。これらの薬は、いわゆる「痛み止め」や「鎮痛剤」「消炎鎮痛剤」等と呼ばれています。

変形性膝関節症の痛みや炎症を抑える薬として、代表的なものは次の4つです。

  特徴 副作用 商品名
アセトアミノフェン 鎮痛作用がある(非ステロイド抗炎症薬より効果は弱い)。 食欲不振、胃痛などの胃腸障害(NSAIDsよりも副作用が出にくい)肝機能障害が問題となりやすい。 アンヒバ、カロナール、ピリナジンなど
作用が穏やかで比較的安全性が高い。
ただし、抗炎症作用はほとんどない。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs) 鎮痛と消炎の2つの作用効果がある消炎鎮痛剤で、アセトアミノフェンよりも痛みを抑える効果が高い。変形性膝関節症の薬として、最もよく使われている。

胃もたれ、胃痛、食欲不振などの胃腸障害が主な副作用。胃粘膜を保護する薬を併用することもある。

胃腸障害以外にも、心血管系障害(血栓ができやすく心筋梗塞を誘発するリスク)、発疹、腎機能障害、肝障害、眠気、めまいなどの副作用。

COX-1とCOX-2両方に作用するもの【ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)、ボルタレン、ナボールSR(ジクロフェナク)、インテバン(インドメタシン)など】
非ステロイド性抗炎症薬には、COX−1とCOX−2を共に抑えるものとCOX-2の働きだけを抑える「COX-2選択阻害薬」がある。 COX−2選択阻害薬【「セレコックス(一般名;セレコキシブ)」、「ハイペン・オステラックなど(エトドラク)」、モービックなど(メロキシカム)】
「COX-2選択阻害薬」は、比較的副作用が起こりにくい為、長期投与に向いている。ただ、両方の働きを抑えるもの比較し、やや鎮痛効果が劣る。
オピオイド鎮痛薬 強力な鎮痛作用がある医療麻薬。 便秘、めまい、吐き気、眠気などが主な副作用。 トラムセット(トラマドール)、ノルスパンテープ(ブプレノルフィン)など
ステロイド薬の関節内注射 より強力な鎮痛作用。 関節軟骨の新陳代謝を阻害、骨の再生を阻害。重い副作用として骨壊死、ステロイド関節症が現ることもある。 ケナコルト(トリアムシノロンアセトニド)など

これらの薬には、内服薬(飲むタイプ)、外用薬(塗る・貼るタイプ)、座薬(お尻から挿入するタイプ)、関節内注射など様々な種類があります。どの薬でどの剤型のものを使用するかは、患者さんの膝の症状や副作用に注意して決めます。

ただし、いずれも長期間使うものではなく、痛みや炎症が治ると使用を中止するのが原則です。

関節内の潤滑を高める作用のある薬【ヒアルロン酸】

関節内の潤滑を高めるタイプの薬は、ヒアルロン酸です。ヒアルロン酸とは、もともと関節液に含まれている粘り気のある無色透明の液体で、滑らかさや弾力性に優れています。いわば、潤滑油みたいなものです。

ヒアルロン酸は、「膝関節の動きをスムーズにしたり、膝関節への衝撃を和らげたり、軟骨を保護したりする作用」があります。さらには、直接的に痛みを引き起こす物質に作用し、「炎症や痛みを和らげる作用」が確認できるとする研究報告もあります1,2,3)。

加齢や炎症で減少したヒアルロン酸を補う

しかし、このヒアルロン酸の量は、加齢に伴い徐々に減少していくことが分かっています。その為、年齢を重ねるにつれ、関節液の粘り気が失われサラサラの状態になるとともに、滑らかさや弾力性も失われていくのです。この老化現象に加え、変形性膝関節症の人では、滑膜の炎症により多量に関節液が分泌されてしまう為、ヒアルロン酸の濃度はさらに薄まり、潤滑液としての働きが十分に果たせなくなります。

そこで、ヒアルロン酸を関節内に注射し補充することで、関節液の滑らかさや弾力性を補い正常な状態に近づけます。

ヒアルロン酸の関節内注射の効果を上げる2つのポイント

なお、ヒアルロン酸の関節内注射でより高い効果を得る為には、次の2つのことに注意します。

  • 炎症が鎮まるないしは改善した状態で行った方が良い
  • 膝に水が溜まっている状態(関節水腫)の場合は、先に水を抜き取ってから行った方が良い

変形性膝関節症の関節内注射に使われるヒアルロン酸の分子量はいくつか種類があり、分子量が高いものほど、効果が長く持続すると考えられます。なお、何回目の注射で効果が現れるかは、人によって異なります

ヒアルロン酸関節内注射の副作用

ヒアルロン酸の関節内注射は、副作用がほとんどない治療法です。ですが、全くゼロという訳ではありません、稀に次のような副作用が現れることを覚えておきましょう。

  • ヒアルロン酸に対するアレルギー反応
  • 注射を刺すことで細菌が関節内に入り増殖して化膿性関節炎を起こす

3.剤形(外用薬、内服薬、座薬)の違いで上手く薬を使い分け

変形性膝関節症の治療に使う薬の剤形は、内服薬(飲むタイプ)、外用薬(塗る・貼るタイプ)、座薬(お尻から挿入するタイプ)、関節内注射など様々です。これら剤形の違いによって、特徴(メリット・デメリット)に違いが出てきます。

剤形 メリット(長所) デメリット(短所)
外用薬(貼り薬、塗り薬) 皮膚から成分が直接浸透、吸収されるので、関節だけに効率よく成分が運ばれる。 皮膚が弱い人は、副作用として、かぶれやただれが起こることがある。
作用は、穏やかであり、内服薬に比べ副作用が現れるリスクは低い。 内服薬と比較して、強い痛みには適さない。
経口薬(飲み薬) 効果が高く、手軽で扱いやすい。 成分によっては、胃腸障害などの副作用が起こりやすい(成分が血液に吸収され、全身に運ばれるため)。
坐薬 即効性があり、重い副作用が比較的起こりにくい。 扱いに慣れていない人には使いにくい。

各剤形には、それぞれ特徴(メリット・デメリット)があるので、どの剤形の薬を使うかは、患者さんの症状、使いやすさ、体質、体調などを考慮し、医師や薬剤師とよく相談した上で選択することになります。

4.変形性膝関節症に対する薬物療法の流れ

変形性膝関節症の薬物療法の基本は、「作用が穏やかで体に負担が少ない薬から試し、もし効果がみられない場合は、もう一段階強い薬を試す」という具合に、必要最低限の強さの薬で上手く症状を和らげ、副作用を最小限にとどめることが大切です。

基本としては、「外用薬→アセトアミノフェン→非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)→オピオイド鎮痛薬→ステロイド薬の関節内注射」の順で試していきます。

「外用薬」

最初に使う薬は、抗炎症作用のある外用薬(湿布薬や塗り薬)から始めます。外用薬は、比較的作用も穏やかで、副作用も現れにくいのがその理由です。

「アセトアミノフェン」

もし外用薬で効果がない場合は、”鎮痛作用”があるアセトアミノフェンを服薬します。アセトアミノフェンは、非ステロイド性抗炎症薬よりも、胃腸障害が現れにくいとされています。

ただ、その一方で、アセトアミノフェンは、痛みを抑える作用は比較的弱く、抗炎症作用(炎症を抑える効果)もほとんど期待できない薬です。

「非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)」

もしアセトアミノフェンで効果がない場合は、抗炎症作用のある非ステロイド性抗炎症薬を服薬します。

変形性膝関節症による膝痛の主な原因は『炎症』です。その為、非ステロイド性抗炎症薬が最もよく用いられ、医師によっては初めからこの薬を処方することもあります。

非ステロイド性抗炎症薬には、COX(シクロオキシゲナーゼ)という炎症や痛みに関わる酵素の働きを抑える”抗炎症作用”があります。このCOXという酵素には、COX-1とCOX-2という2つのサブタイプがあります。

  1. COX-1 胃粘膜を保護する酵素
  2. COX-2 炎症時に働く酵素

なので、変形性膝関節症に非ステロイド性抗炎症薬を使う場合は、胃粘膜を保護するCOX-1には作用せず、炎症に関わるCOX-2だけに作用する「COX-2選択阻害薬」がよく用いられています。COX-2選択阻害薬を使用することで、胃腸障害などの副作用が比較的起こりにくくなります。また、COX-2選択阻害薬は、作用持続時間も長いことも変形性膝関節症のような慢性的な病気で広く用いられている理由の1つです。

なお、古くから用いられている「ロキソニン」などのCOX-1とCOX-2両方の働きを抑える非ステロイド性抗炎症薬を使用する場合は、胃もたれ、胃痛、食欲不振などの胃腸障害が起こりやすいため、胃や腸の粘膜を守る薬を一緒に飲むことが大切です。

非ステロイド性抗炎症薬薬(NSAIDs)とは

「オピオイド鎮痛薬」と「ステロイド薬の関節内注射」

以上の薬を用いても、変形性膝関節症の症状が改善しない場合は、より強力な鎮痛作用を持つ「オピオイド鎮痛薬」を用います。

また、痛みが非常に強い場合は、最後の切り札として例外的に「ステロイド薬を関節内注射」する場合もあります。

ステロイド薬は、非常に高い鎮痛・抗炎症作用が期待できます。しかし、副作用として関節軟骨の新陳代謝を妨げたり、骨の再生を妨げたり、骨壊死を招いたり、など関節そのものに対して強い悪影響を及ぼすことがわかっています。したがって、短い期間に過度に使用すると、逆に関節内の状態を悪化させ痛みが強くなるので、最低でも6週間以上は開ける方が望ましいと考えられています。

ステロイド薬とは

「ヒアルロン酸の関節内注射」

その後、炎症が落ち着いてきたら、ヒアルロン酸の関節内注射を開始し膝関節の潤滑を高めます(関節内注射を薬物療法の最初から始める場合もあります)。

5.薬だけに頼らず、運動やダイエットを行い、生活動作を工夫する

これまで様々な薬を使った変形性膝関節症の治療法について解説してきました。ですが、薬だけに頼る治療では、この病気の進行を食い止めることはできません。また、薬には必ず何らかの副作用が付き物です。

したがって、薬だけに頼らず、日頃から運動療法に取り組むとともに、体重のコントロール、生活動作の改善を行い、膝に負担をかけず、膝周りの筋肉を鍛えることで、痛みを和らげることが大切です。

ただ、もしこれら保存療法を試してみても、膝の痛みを和らげることができない場合は、手術を検討します。

正しい薬飲み方・扱い方膝OAの運動療法(リハビリ)膝OAと体重管理

<参考文献>

1)Day R, et al:A double blind, randomized, multicenter,parallel group study of the effectiveness and tolerance of intra articular hyaluronan in osteoarthritis of the knee. J Rheumatol 2004;31:775―782.

2)山下 泉ほか:ブラジキニンを用いたラット膝関節疼痛モデルにおけるプロスタグランジンE2とヒアルロン酸ナトリウムの影響. 日整会誌 1995;69:735―743.

3)Asari A, et al:Molecular weight―dependent effects of hyaluronate on the arthritic synovium. Arch Histol Cytol 1998;61:125―135.