在宅介護で誤嚥を防ぐための嚥下介助の4つのポイント
私の母は、ものすごく「食べることが大好き」な人でした。しかし、脳出血で倒れ後遺症の麻痺の影響で、食べ物を上手く飲み込めなくなりました。あんなにも「食べることが大好き」だった母の食欲が段々と減っていき、食欲の低下に比例して、頭の回転も悪く元気もなくなっていきました。
そして、何よりも「食べることが大好き」だった母が上手に食べられないイライラからか、出された食事を床にわざと落としてしまうほど「食べることが大嫌い」になってしまったのです。しまいには、前まで飲めていた飲み物まで飲めなくなり、胃ろうを増設しました。
しかし、2年に及ぶ壮絶なリハビリによって、段々と食事の回数、量が増えるにつれ、母の元気が戻り、頭の回転もよくなり、胃ろうを外し口から食事を取ることが出来るまでに回復しました。そして、今では「次のごはんはいつですか?早くして下さい」とご飯を食べ終え1時間もしないうちに次の食事を要求してくるまでに回復しました(しかも、目を少女のように輝かせ)。
この様に、食事を口から取ることは、栄養補給の為だけではなく、脳の活性化や、何よりも「食べ物がおいしい」「食事が楽しみ」という感情を持てることに繋がります。人生を楽しむ為にも、口から食事を摂取する事は非常に重要です。食事を楽しんでもらうことは、在宅介護をする上できっとプラスに働きます。その為にも、以下で説明する安全に食事を取ってもらうポイントを押さえて頂ければと思います。
食べることは非常に複雑な運動の組み合わせ
私たちは普段は何気なくしている食事ですが、老化、脳出血のマヒ、認知症などによって、食べ物の飲み込みが上手にできなくなることがあります。俗に嚥下(飲み込み)障害といわれる障害で、そのままにしておくと、「窒息」や「誤嚥性肺炎」を引き起こし、最悪死に至ることもあります。
みなさんが日常当たり前のようにしている「食べる(嚥下)」という行為は、実は非常に複雑な運動の組み合わせによって成り立っています。
例えば、固形物を食べる場合、次のような運動の組み合わせから成り立っています。
- 食べ物を口に入れる
- 口の中で噛み砕き
- 唾液によって湿り気を与え、食塊(飲み込みやすい塊)にしてのどの奥に入れる
- 嚥下反対(飲み込み運動)によって
- のど仏のあたりが上前方へ上がり
- その運動で喉頭蓋がさがり食道の前面にある気管の入り口をふさぎ、食べ物を食道へと進ませる
- さらに、食道の蠕動運動(送り込み運動)と重力によって胃へと食べ物を送る。
これだけの複雑な運動の組み合わせによって成り立っている「食べる(嚥下)」という行為は、老化による筋肉量の低下、脳出血によるマヒなど何らかの原因で飲み込み運動が上手くできないと、窒息や誤嚥性肺炎を引き起こしてします危険性があります。
誤嚥を防ぐための嚥下介助の4つのポイント
通常食べ物は、次の順番で運ばれます。
口→口腔→咽頭→食道→胃と運ばれます。
しかし、誤って口→口腔→咽頭→気管→肺に運ばれてしまうことがあります。これを誤嚥といいます。さらに、誤嚥により細菌が入り肺炎を発症することを誤嚥性肺炎と呼びます。
誤嚥を防ぎ、安全に食事を取ってもらうには以下の誤嚥を防ぐための嚥下介助の4つのポイントをしっかりと押さえてください。
- まず本人の目が覚めている状態で食事を取ってもらう
- 食べ物の形態は適切かどうか
- 口に入れる量が多すぎないかどうか
- 食事をとるときの姿勢・角度は適切かどうか
1.まず本人の目が覚めている状態で食事を取ってもらう。
誤嚥を防ぎ上手に食べてもらうには、まず第一にしっかりと目が覚めているかを確認してください。寝ぼけている状態で食事を取っては、嚥下障害でない人でも食べ物を詰まらせてしまいます、誤嚥障害がある人なら尚更です。なので、食事の前に口腔マッサージや嚥下体操を行い、嚥下をスムーズにするリハビリも兼ねつつ、本人に目を覚ましてもらいましょう。
誤嚥を防ぎ嚥下をスムーズにする方法(マッサージ編)誤嚥を防ぎ嚥下をスムーズにする方法(リハビリ体操編)
2.食べ物の形態は適切かどうか
食べ物の形態は、噛みやすい食事、飲み込みやすい食事など本人の嚥下能力にあった安全な形態の食事を取ってもらうことが大切です。ただし、「噛む力が弱い」「飲み込む力が弱い」など、機能の低下の見られる部分やレベルはその人の症状により変わってきますのでその人に適した食べ物の形態にしましょう。
3.口に入れる量が多すぎないかどうか
嚥下障害のある人に食事を取ってもらうときに食べ物の形態とともに気を付けていただきたいのが、一口の量です。せっかく食べ物の形態に気をつけていても、飲み込める能力以上の量の食べ物を口に含んでしまうと、誤嚥を招きかねません。一口の量はおよそ3~8gぐらいが適当です。その人に合わせて、スプーンの大きさや深さで一口の量を調整しましょう。
4.食事をとるときの姿勢・角度は適切かどうか
誤嚥を防ぐ姿勢は、健康な人が一番食べやすい姿勢と同じです。食べ物のほうを向き背筋を伸ばしてやや前かがみの姿勢で顎を少し引いて食べます。姿勢が悪いとおなかや腰に力が入りにくく、うまく飲み込めないのでできる限りイスや車いすに座って食事を取ってもらいましょう。
また、車いすでの移動が難しく、ベット上でしか食事を取れない方には、頭に枕を入れて頭を起こし、リクライニングベットの角度をできる限り垂直にして食事を取ってもらうと嚥下がスムーズにいきます。
食事介助を上手にする方法|嚥下障害や胃ろうの人でも諦めないで
まとめ
嚥下障害のある方を介護する上で、食事介助には特に注意が必要です。また、在宅介護の場合、病院のように誤嚥してしまった場合、すぐに医師は駆けつけてくれませんので注意深く介助してあげてください。
大変かもしれませんが食事を取るということは、栄養補給だけではなく、「おいしい」「楽しみ」という感情を生み人生を楽しむことにも繋がりますので、できる限り気長に協力していただければと思います。