誤嚥性肺炎とは?症状と予防・治療法を学ぼう!

誤嚥性肺炎ごえんせいはいえんとは、雑菌を含んだ食べ物や唾液、痰などを、誤って肺に入れてしまう“誤嚥”が原因で起こる“肺炎”のことです。特に、高齢者がかかりやすく、再発もしやすい病気です。

日本人の死因のうち、肺炎が占める割合は約1割と非常に高く「日本の3大死因」に数えられるほどです。

  • 日本人の死因、第1位は悪性新生物(ガン)28.7%、第2位は心疾患15.2%、第3位が肺炎9.4%(2011年に、肺炎がそれまで3位だった脳血管疾患を抜きました)。
  • 肺炎による年齢別の死亡率は、高齢者が95%以上であり、その多くが誤嚥性肺炎によるもので全体の60~80%以上を占めている。

<参考:平成27年 厚生労働省人口動態統計

超高齢化が進む日本では、ますます誤嚥性肺炎の死亡者が増えていくことが予想されます。それだけ誤嚥性肺炎は恐ろしい病気なのです。

「熱がある、激しい咳が出る、呼吸がしづらい」このような症状に身に覚えがある方は、もしかすると「誤嚥性肺炎」を患っているかもしれません。

そういった方は、この記事で誤嚥性肺炎という病気について、その症状から原因、予防・治療法に至るまでしっかりと学んで頂ければと思います。

1.誤嚥性肺炎の症状

誤嚥性肺炎は“肺炎”の1つです。そのため、誤嚥性肺炎でも「高熱」や「咳」といった肺炎の特徴的な症状が現れます。

  1. 高熱
  2. 激しい咳
  3. 黄色の濃い痰(膿性痰)が出る
  4. 呼吸が苦しい(呼吸不全)、肺雑音がある
  5. 食欲不振や体重減少
  6. 倦怠感や頭痛

ただし、初期の誤嚥性肺炎では、発熱や咳などの肺炎特有の初期症状が現れないことも多いです。特に、高齢者では「少し調子が悪い」など症状や訴えがハッキリしないこともよくあり、中には肺炎が重症化するまで気づかずにいる人も少なくありません。

したがって、高齢者の場合は、特に日頃の観察が重要です。「近頃、お父さんが痩せてきた、咳をする」などちょっとした異変を感じたら、誤嚥性肺炎を疑うくらいの意識が必要です。

2.誤嚥性肺炎を早期発見する為のガイドライン

3つの観察項目をチェックし誤嚥性肺炎を早期発見

誤嚥性肺炎の初期症状の特徴は「何となく様子がおかしい」です。この小さな異変を見逃さないことが病気の早期発見には必要不可欠です。

しかし、どうやってこの「小さな異変」を見つければよいのでしょうか?それには常日頃、次の「誤嚥性肺炎の3つの観察項目」をチェックし、これまでの生活や身体機能との変化つまりギャップに注目することです。

もし、いずれかの項目が当てはまる場合は、誤嚥性肺炎が疑われますので直ぐに医師に受診し診断してもらいましょう。

日常生活の観察項目

  • 元気がない
  • ぼーっとしていることが多い
  • 不穏な行動がある
  • 失禁するようになった

身体的な観察項目

  • 微熱が続く
  • 体重減少
  • 夜間に咳き込む
  • 濃い痰が出る、痰が絡んだ声を出す
  • 声がかすれている
  • 口の中が乾燥している、口が臭う、口が開いて口呼吸になっている

食事中の観察項目

  • 食欲が無くなっている
  • 食事時間が長くなった
  • 食後ぐったり疲れている
  • 口の中に食べ物を溜め込む
  • 飲み込まない、飲み込みが遅くつらそう

3.誤嚥性肺炎の原因とは

誤嚥性肺炎の原因は、他のタイプの肺炎とは少し違います。

ほとんどの肺炎(マイコプラズマ肺炎、カリニ肺炎など)は、呼吸を介して、細菌やウィルスが肺や気管に入り込み炎症を起こします。一方、誤嚥性肺炎は、食べ物や飲み物を媒介にして、細菌やウィルスが誤って気管に入ってしまう“誤嚥”が原因で炎症を起こします。

つまり、誤嚥性肺炎は、「嚥下機能(飲み込む機能)の低下」と「口内細菌の増殖(口の中の不潔さ)」の2つの要素が重なることで発症する肺炎なのです。

それでは、なぜ「嚥下機能の低下」や「口内細菌の増殖」が起こってしまうのかその原因を探ってみましょう。

嚥下機能の低下が誤嚥の原因になる

人間の進化過程で「食道」と「気道」が交わり誤嚥をしやすくなった

出典;バランス株式会社―誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)とは

誤嚥性肺炎は誤嚥によって起こります。しかし、そもそもなぜ誤嚥をしてしまうのでしょうか?

それは、人間が独自の進化を遂げた過程で「食道(食べ物が通る道)」と「気道(空気の通る道)」が交わったことが深く関係しています。

人間以外の哺乳類(犬や猫など)は、口から入る食べ物は「食道」へ、鼻から入る空気は「気管」に、必ず入るように立体交差しています。したがって、誤嚥することはありえません。
一方、人間は「二足歩行」や「言葉を話せる」といった独自の進化を遂げる過程で、鼻だけでなく口でも呼吸が出来るようになり、「気道」と「食道」が咽頭(喉元)で合流することになったのです。しかし、これは思わぬ弊害を生む結果となりました。それが「誤嚥」なのです。

もちろん、誤嚥を防ぐために「食べる・呼吸する」という行為に合わせ、瞬時に気道の入り口を閉鎖して誤嚥を防ぐ嚥下反射が出来るようになりました。この嚥下反射のおかげで、誤嚥することなく自然に食べ物を胃に送り込むことが出来るのです。

また万一、気管に食べ物や水分などの異物が侵入しても、咳払いをすることで異物の侵入を防ぐ防御機能が十分働いていれば、誤嚥性肺炎は起こりません。

嚥下障害があると上手く飲み込めず誤嚥が起こる

しかし、どうして「嚥下反射」や「咳払い」という対誤嚥用の機能が備わっているにもかかわらず、誤嚥が起こるのでしょうか?

それは、嚥下障害が影響している為です。嚥下障害により「噛む、食塊形成(食べやすく食べ物をまとめる)、飲み込み運動、嚥下反射、誤嚥防止の咳反射」といった食べる行為のいずれか1つの働きが悪くなったら、食道に入るはずの食塊が誤って気道に入る危険性があるのです。

例えば、以下のようなものが誤嚥の原因となります。

  • 脳卒中やパーキンソン病による運動障害が生じ、咀嚼や食塊の形成、口の開閉、飲み込み、嚥下反射が上手にできない
  • 体力が著しく低下し飲み込む機能が正常に働かない
  • 認知症や脳卒中、廃用症候群などで意識障害や認知障害が生じ、嚥下がスムーズにいかない
  • 唾液分泌の不足や舌の動きが低下により、食塊形成が上手くできない
  • 食道の蠕動運動(臓器の収縮運動により内容物を移動させる機能)が不十分で、通過障害や胃食道逆流が起こる
  • 呼吸障害により、咳払いによる誤嚥防止機能が上手く働かない
嚥下障害を引き起こす主な疾患
脳梗塞 脳出血 くも膜下出血 多発性硬化症 頭部外傷
筋委縮性側索硬化症 パーキンソン病 ギランバレー症候群 多発性筋炎 末梢神経障害(ニューロパチー)
アルツハイマー型認知症 レビー小体型認知症      

口内細菌の増殖で誤嚥性肺炎のリスクが高まる

しかし、誤嚥したからといって、直ぐに誤嚥性肺炎になるとは限りません。口の中に常在している細菌が肺に入らない限りは、誤嚥性肺炎は発症しません。つまり、口の中が汚れていて不衛生な状態だと誤嚥性肺炎のリスクが高まってしまうのです。

一方で、口の中の清潔が保たれ、細菌の繁殖を抑えることが出来れば、たとえ誤嚥をしたとしても肺炎に至る危険は少なくなります。

「胃ろう」や「胃食道逆流」でも誤嚥性肺炎は起こる

なにも誤嚥性肺炎は、「口から食べる」人に限って発症する病気ではありません。「胃ろう」や「経鼻経管栄養」を使った経管摂取が原因となり発症することもあります。また、食べ物だけではく、唾液や胃食道の逆流により発症することもあります。

胃ろう(PEG)とは

唾液の誤嚥

唾液は、嚥下には欠かすことができない機能です。

  • 唾液には、殺菌成分が含まれており、体内に侵入する細菌の繁殖を抑える効果がある。
  • 唾液には、食べ物を塊にまとめて胃にスムーズに送り届ける作用がある、

一方で、歯磨きなどの口腔ケアが不十分な方の唾液には、多くの雑菌が存在しています。そして、この雑菌を多く含んだ唾液を誤嚥してしまった場合、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。

さらに、唾液の厄介なところは「むせたり、咳が出たり」といった自覚症状が無く、寝ている間など気づかぬうちに唾液が気管に入る「不顕性誤嚥ふけんせいごえん」から誤嚥性肺炎を発症するケースが多いことが問題です。

胃食道の逆流

胃食逆流とは胃の中にはいった食べ物などが食道に逆流することを言います。夜間寝ている時は、胃食道逆流は「不顕性誤嚥」にも繋がるので注意が必要です。

本来、食道と胃のつなぎ目の部分は「下部食道括約筋」が蓋の働きをして、胃の中の物が逆流しないようになっています。しかし、以下のような事が原因で胃食道の逆流が起き、誤嚥性肺炎のリスクが高まります。

  • 加齢とともに、下部食道括約筋の働きが弱くなる
  • 胃炎や胃潰瘍、食べ過ぎ、飲み過ぎによって胃の働きが弱くなり食べ物の消化が悪くなる。

胃ろう時の胃食道逆流による誤嚥

胃ろうは、口から食べられない人が、お腹から胃にチューブ通し栄養を摂る方法です。「口から栄養を取らないので誤嚥はしないだろう」と考える方も多いと思いますが、むしろ胃ろうを使って食事をする人の方が誤嚥性肺炎を起こしやすいのです。

口から食べる場合は、食べ物を噛む時に、殺菌成分が含まれた唾液の分泌量が活発になり、雑菌の繁殖を防げます。しかし、胃ろうを使った場合は、咀嚼はしないので唾液の分泌量が減り、雑菌が繁殖しやすくなります。

また、胃ろうは栄養剤を直接胃に入れるわけですが、咀嚼することも味わうこともないので、消化管の働きは不活発で、栄養剤は胃の中に長時間溜まり続けます。さらに、栄養剤は液体なので簡単に胃から逆流を起こし、誤って気管に入ってしまうこともあります。

以上の理由から、胃ろうは、口から食事を摂取するよりも誤嚥性肺炎を発症する確率が高くなるのです。

経鼻経管栄養による誤嚥

鼻からチューブを通し栄養を摂る「経鼻経管栄養」も、胃ろうと同じく口を使う機会が減るので、口腔ケアを怠ると口の中が汚染され、誤嚥性肺炎の原因となります。他にも経鼻経管栄養は以下のような理由で誤嚥性肺炎を起こしやすいです。

  • 鼻にチューブが通っているため、鼻呼吸がしづらく口呼吸になる。その為、乾燥してしまい唾液も少なく殺菌作用が低下し、細菌が繁殖しやすく、また口の潤いが無くなるので嚥下がしづらくなる。
  • 鼻垢(鼻くそ)や鼻水などの汚れが管にこびりつきます。それらは細菌が繁殖する温床となる。
  • 胃の入り口にある「括約筋」により、胃食道の逆流は防止されるが、そこに管が通ることでわずかに隙間ができてしまう。
  • 飲み込む時に、最も重要な動きをする咽頭に管が通るので、咽頭部の動きが阻害される。

高齢者に誤嚥性肺炎が多い理由

誤嚥性肺炎は再発しやすい病気です、特に高齢者の方は注意が必要です。年を重ねると、食欲とともに嚥下のための筋力も低下するので、誤嚥を起こしやすくなります。

そして一度、誤嚥性肺炎になると「体力も奪われ廃用症候群を招く→ますます嚥下が困難になる→誤嚥性肺炎を発症する→」という負のスパイラルに陥ってしまうのです。

嚥下障害の直接の原因として脳卒中やパーキンソン病による運動障害がありますが、それ以外にこのような廃用症候群による体力や筋力、呼吸機能の低下が及ぼす嚥下障害は非常に多いです。

以上が、肺炎による死亡が高齢者に多い理由です。したがって、高齢者は、普段から誤嚥性肺炎の予防に努めることが大切です。

4.誤嚥性肺炎の予防

誤嚥性肺炎は再発しやすい病気です。一度でも、発症すると何度も再発を繰り返し、やがて死に至ってしまったというケースも非常に多いです。その為、誤嚥性肺炎を発症しないよう予防することが大切です。

何度も確認するように誤嚥性肺炎は、「嚥下障害」と「口腔内の不衛生」が原因で起こります。逆に、嚥下機能を維持・向上させ、日常的に口腔内を清潔にしておきさえすれば、誤嚥性肺炎の発症を予防することが可能なのです。

嚥下のリハビリ訓練、食事介助、口腔ケアの3ステップ

誤嚥性肺炎は、肺炎球菌で発症する他の肺炎とは違い、本人や介護者の努力次第で十分予防できる病気です。

その為には、「嚥下のリハビリ」と「口腔ケア」、「正しい食事介助」の3ステップが重要になってきます。食前の口腔ケアを励行し、口から食べなくても、咀嚼の動き、唇や舌のリハビリ運動などを行うことが胃食道逆流の予防、ひいては誤嚥性肺炎予防に繋がるのです。

特に、嚥下障害がある人は、重度の人も多いので介護・看護する人はしっかりと看てあげましょう。

1.嚥下のリハビリ

脳卒中やパーキンソン病による運動障害がある人は、嚥下障害があり誤嚥をしやすくなっています。したがって、嚥下のリハビリ訓練により少しでも嚥下機能が維持・向上できるように努めましょう。

パーキンソン病の嚥下リハビリ|発声訓練とカラオケで誤嚥予防

2.口腔ケア

何度も繰り返しますが、口の中に常在している雑菌も誤嚥性肺炎の原因になります。口の中が汚れていると口の中に常在する雑菌が増殖し、食べカスと一緒に誤嚥され肺炎のリスクがより高まります。口腔ケアは口の中をキレイにして、唾液が持つ自浄作用を促します。口の中の清潔を保つことはとても大切なことなのです。それは介護の基本であり、高齢者の生活を支える要でもあります。

誤嚥予防のための口内ケア

3.正しい食事介助

嚥下しやすい食べ物、しにくい食べ物を良く知るとともに、嚥下がしやすく調理・工夫する、正しい食事介助を学び実施することも誤嚥性肺炎を予防するためには大切なことです。胃食道逆流の予防としては、食べ物や栄養剤にトロミを付けたり、食べるスピードや注入するスピードを遅くすることです。あわせて注入中から注入後にかけて座位を取りカラダを起こすことも重要です。

食事介助を上手にする方法|嚥下障害や胃ろうの人でも諦めないで

誤嚥性肺炎を予防する9つのポイント
口から食べる 水分をよく摂る よく噛み、ゆっくり食べる
座位で食事 よく話し、よく笑うコミュニケーション 口腔ケア
嚥下機能に合わせた食事 運動やリハビリをする 正しい呼吸をする

5.誤嚥性肺炎の治療|抗生剤+再発予防

誤嚥性肺炎の治療は、肺炎の治療と肺炎にまつわる廃用症候群の予防の2つを考えなければなりません。まず、肺炎を治療することです。

起炎菌を抗生剤でやっつけろ

誤嚥性肺炎の起炎菌を調べ、それに合った抗生剤を投与して菌を殺します。

その結果、発熱のある人は熱が下がった、咳や痰が多く出る人はそれが減った、酸素不足で呼吸不全に陥った人は呼吸が改善されたかなどを確認します。

ただし、この抗生剤による誤嚥性肺炎の治療には問題もあります。それは、誤嚥性肺炎は再発しやすい特徴があるので、それにより抗生剤に対して耐性を持つ菌が発生し治療を困難にする可能性があります。そのため優れた抗菌薬治療が開発されている現在でも治療が困難なことが多いのです。

再発予防を徹底して負のスパイラルから脱出!

誤嚥性肺炎は再発するたびに、そのリスクが高まり治療期間が延びていきます。

肺に炎症を引き起こす感染症である点では、肺炎も誤嚥性肺炎も同じですが、誤嚥性肺炎が一般の肺炎と異なるのは、抗生剤の投与だけでなく、嚥下障害を起こす根本的な問題を解決する必要があるということです。したがって、先ほどご紹介した「誤嚥性肺炎の予防法」を実施することは、治療においても大変重要です。必要に応じて介護ベッドの背を高くするなどの対応をするなどのちょっとした心がけが誤嚥性肺炎の治療に繋がるのです。

また、「病気が治るまで絶食して安静にしましょう」などの介護対応ではあっという間に、廃用症候群になって誤嚥性肺炎を起こしやすくなります。誤嚥性肺炎の治療で大切なコトは安静が必要な時期でも、寝たまま安静にしないことです。自ら動くことが難しい場合でも、出来る限り座位の姿勢を取ることが大切です。