ステロイド薬とは

ステロイド薬(SAIDs:Steroidal Anti-Inflammatory Drugs,副腎皮質ステロイド)というくすりをご存知でしょうか?

ステロイド薬は、作用が強くさまざまな病気に対して劇的な効果をもたらします。その一方で、ステロイド薬は副作用が多く、また重篤になりやすいので使用には注意が必要です。

つまり、ステロイド薬は強い効果と副作用を持つ「諸刃の剣」と言えます。したがって、皆さんもステロイド薬についてしっかりと学び理解する必要があるのです。

ステロイド薬とはどんな薬?

歴史

ステロイド薬がどのような薬なのか知る為に、まずはその歴史から説明していきたいと思います。

1940年代後半に、メイヨークリニックのヘンチ博士が、初めて関節リウマチの女性患者にステロイドホルモンの1つコルチゾンを使用しました。

その効果は劇的なもので、長年女性患者を苦しめてきた症状が、急速に改善し短期間で治ったのです。それはステロイド薬により、あたかも病気が治ったかのようでした。そして、ここからステロイド薬の劇的な効果が評判となり、爆発的に使用されるようになったのです。ヘンチ博士らはその功績の高さから後に、ノーベル賞を授与されるほどでした。

ところが、次第にステロイド薬の副作用の多さや重さが明るみになっていきました。また、乱用や大量投与が問題となり、使用が制限されていきました。

しかし、ステロイド薬は患者さんの第一の苦しみである痛みを軽減し、精神を明るくし生活の質(QOL)を高める効果があるため、現在でも重宝される薬の1つです。

副腎皮質ホルモンから作られる薬

ステロイド薬とは、腎臓の上にある副腎という臓器から分泌される副腎皮質ホルモンから作られる薬です。

副腎とは、左右の腎臓の上に位置し、生命を維持する上で大切な臓器です。副腎皮質とは、この副腎の表面の部分で、ここから分泌される糖質コルチコイド(グルココルチコイド)鉱質コルチコイド(ミネラルコルチコイド,電解質コルチコイド)男性ホルモン(アンドロゲン)を副腎皮質ホルモンと言います。

  代表的なホルモン 主な作用
糖質コルチコイド コルチゾール(ヒドロコルチゾン) 抗炎症作用、免疫抑制作用

糖、タンパク、脂質代謝への作用

鉱質コルチコイド アルドステロン 電解質代謝作用(Na+や水の再吸収促進、K+の排出促進)
男性ホルモン アンドロステンジオン 男性化作用

そして、一般に出回っているステロイド薬は、この副腎皮質ホルモンのうち糖質コルチコイドを合成し作用を強力にしたものです。この糖質コルチコイドには、体調を調節したり、炎症や免疫の働きを抑えたりする作用があります。

ステロイド薬は、糖質コルチコイドの作用に加え、弱い鉱質コルチコイドの作用も持っています。

剤形と投与方法

ステロイド薬は処方薬だけでなく市販薬も販売されています。

ステロイド薬の剤形は、内服薬(錠剤やシロップなどの飲み薬)や外用薬(軟膏やクリーム、ローションなどの塗り薬)、注射薬、坐薬など様々なタイプがあります。また、ステロイド薬の投与方法や投与量は、病気や病態により異なるので注意しましょう。

全身作用 注射剤 経口剤  
局所作用 軟膏剤 クリーム剤 ローション剤
点眼剤 点鼻剤 坐剤
吸入剤    

ステロイド薬の作用効果

ステロイド薬には、さまざまな生理作用・薬理作用があります。

中でもステロイド薬の一番の特徴は、強力な抗炎症作用、免疫抑制作用です。これらの作用による劇的な臨床効果や生活の質(QOL)の改善は疑いようはありません。

  • 抗炎症作用・免疫抑制作用・抗アレルギー作用
  • 代謝作用(血糖上昇、蛋白質分解促進、脂肪分解促進、血圧上昇)

また、効果が現れるまでの期間が短く即効性が高いのも特徴です。ステロイド薬以外に抗炎症作用を持つ薬として非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)があります。

非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)

ステロイド薬の適応疾患

ステロイド薬は”自己免疫性疾患”、”アレルギー性疾患”、”炎症性疾患”を中心にさまざまな病気の治療に使用されています。

目的 分類 代表的な適応疾患名
ホルモン補充療法として使用 副腎皮質機能不全
  • 慢性副腎皮質機能低下症(アジソン病)
  • 急性副腎皮質機能低下症
抗炎症薬、免疫抑制薬として使用 膠原病
  • 関節リウマチ
  • 全身性エリテマトーデス
  • 皮膚筋炎・多発筋炎
  • 全身性血管炎
呼吸器疾患
  • 気管支炎
神経疾患
  • 多発性硬化症
  • 脳浮腫
消化器疾患
  • 炎症性腸疾患
  • 自己免疫性肝炎
腎疾患
  • ネフローゼ症候群
  • 糸球体腎炎
眼疾患
  • ぶどう膜炎
皮膚疾患
  • 尋常性天疱瘡
その他
  • 薬剤アレルギー
  • ショック

血管疾患

  • 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
  • 溶血性貧血
抗がん剤として使用*
  • 急性白血病
  • 悪性リンパ腫

病的リンパ球の細胞死を誘導する効果がある

引用;医療情報科学研究所(編)(2015)『薬がわかる本vol.2』,pp144.

ステロイド薬の副作用

ステロイド薬の作用は多様で強力ですが、裏を返すと、多様でかつ重篤な副作用が現れやすいという意味です。

例えば、ステロイド薬の免疫抑制作用により、肺炎やインフルエンザ、B型肝炎、カンジタ症などの感染症のリスクが高まります。

ステロイド薬の副作用として高い頻度で現れるのが骨粗鬆症です。その他にも、感染症、白内障、縁内障、糖尿病、脂質異常症、精神神経障害、消化管障害、満月様顔貌(ムーンフェイス)などがあります。

また、副作用を避けようと薬を急速に減量・中止すると「ステロイド離脱症候群」や「病気の再発」を招きます。そして、それを抑えるために再びステロイド薬の大量投与を繰り返すという悪循環に陥る可能性があるわけです。

ステロイド離脱症候群とは、急にステロイド薬を減量・中止により起こる”発熱”、”めまい”、”吐き気”、”血圧低下”、”だるさ”、”頭痛”などの変調反応のことで、時には命に関わる状態になることもあります。

これらの症状は、これまで薬により副腎皮質からのステロイドホルモンの分泌が抑えられていた為、急な薬の減量・中止により、副腎皮質のステロイドホルモン分泌が追いつかず起こる症状です。

ステロイド薬の副作用は、全身に作用し、特に代謝に大きな影響を与えるので、大量投与や長期投与時には注意が必要です。

特に注意すべき副作用(高頻度かつ重症化) 高頻度の軽症副作用
  • 感染症(全身性及び局所)の誘発・憎悪
  • 骨粗鬆症・骨折、幼児・小児の発育抑制、骨頭無菌性壊死
  • 動脈硬化病変(心筋梗塞、脳梗塞、動脈瘤、血栓症)
  • 副腎不全、ステロイド離脱症候群
  • 消化管障害(食道・胃・腸管からの出血、潰瘍、穿孔、閉塞)
  • 糖尿病の誘発・憎悪
  • 精神神経障害(精神変調、うつ状態、痙攣)
  • 異常脂肪沈着(中心性肥満、満月様顔貌、野牛肩、眼球突出)
  • 痤瘡、多毛症、皮膚線条、皮膚萎縮、皮下出血、発汗異常
  • 月経異常(周期異常、無月経、過多・過少月経)
  • 食欲亢進、体重増加、様々の消化器症状
  • 白血球増加
他の注意すべき副作用 稀な報告例・因果関係不詳の副作用
  • 生ワクチン*による発症
  • 不活化ワクチンの効果減弱
  • 白内障、緑内障、視力障害、失明
  • 中心性漿液性網脈絡膜症、多発性後極部網膜色素上皮症
  • 高血圧、浮腫、うっ血性心不全、不整脈、循環性虚脱
  • 脂質異常症
  • 低K血症
  • 尿路結石、尿中カルシウム排泄増加
  • ミオパチー、腱断裂、ムチランス関節症
  • 膵炎、肝機能障害
  • アナフィラキシー様反応、過敏症
  • カポジ肉腫
  • 気管支喘息、喘息発作
  • ショック、心破裂、心停止
  • 頭蓋内圧亢進、硬膜外脂肪腫

*麻疹・風疹・流行性耳下腺炎・水痘・ロタウィルス・BCG

浦部 晶・島田 和幸・川合眞一(編)(2016).『今日の治療薬 解説と便覧』,pp.252,南江堂.

知っておきたいステロイド薬を使用する上での注意点

できるだけ必要最低限の量で短期的な使用に止める

ステロイド薬の副作用の頻度・重症度は、用量が増えれば増えるほど、多く・重くなる傾向があります。また、ステロイド薬を長期的に使用すると、止めた時に痛みが増すので、休薬することは困難となっていきます。ステロイド薬が「麻薬」と言われる理由もここにあります。

その為、通常ステロイド薬は、必要最低限の量で、短期的な使用に止めることが基本です。

なので、病気の活動性が弱まり、体調が良くなって、ステロイド薬の減量が可能と思われた時にはいつでも減量を試みる気持ちでいることが大切です。

医師から指示された用量・用法を守ることが大切

ステロイド薬を使用する際は、必ず医師の指示に従って、用量・用法を守りましょう。また、勝手な自己判断で薬の減量・中止をするとステロイド離脱症候群を招く危険性があるので絶対にやめましょう。副作用が現れた場合は、必ず医師に相談してください。

看護ケアのポイント

ステロイド薬は、多様な副作用が現れるので周りの人間が心身をケアすることも大切です。

顔が丸くなるムーンフェイスでは、精神的なケアも必要となってきます。また、骨粗鬆症や小児の低身長などについても長期的なケアが必要です。

そして、ステロイド薬の副作用を心配しすぎる方には、しっかりと医師や薬剤師が協力して、その必要性を説明することも治療には必要になってきます。

<参考文献>

  • 山中 寿(2015)『関節リウマチのことがよくわかる本 (健康ライブラリーイラスト版) 』,講談社.
  • 橋本 明(2007)『関節リウマチQ&A』,保健同人社.
  • 浦部 晶夫・島田 和幸・川合眞一(編)(2016).『今日の治療薬 解説と便覧』,南江堂.
  • 医療情報科学研究所(編)(2015).『薬がみえる vol.2』,株式会社メディックメディア.
  • 田中良哉(2009)『40歳からの女性の医学 関節リウマチー新しい治療、正しい知識で克服する』,岩波書店.