認知症対応マニュアル10選|こんな時はどう接するの?

認知症の人が何か「問題行動」や「意味不明な行動」を取った場合、どう対応するのが正解なのか悩んだことはございませんか?

認知症の人のそういった行動に対し、ひとたび誤った対応をしてしまうと認知症を更に悪化させてしまう危険性がございます。「それじゃ、認知症の人にどう接すればいいの?」といった疑問を解決する為に、この『認知症対応マニュアル10選』を作成しました。

この『認知症対応マニュアル10選』は実践編ですので、その前に『認知症の上手な対応~接し方1つで症状が良くも悪くもなる~』を先に読んでいただければより理解が深まります。

1.外出する機会が減り、外出するとトラブルばかり起こす

定年後、夫は趣味の釣りや旅行に、毎日のように忙しくしていました。しかし、最近は家にいることが多くなり、TVの前に座ってボーっと眺めていることが多くなりました。また、外出先ではトラブルばかり起こすようになりました。

1.してしまいがちな間違った対応

たまにはゆっくりと休むことも必要だと思い、そっとしておきます。家族もそれぞれ仕事や学校、家事などで忙しいので積極的に話しかけたりしません。また、トラブルを起こすことを責め立てる。

2.なぜこのような行動をするの?

認知症の中核症状により、意欲や自発性が低下しているのかもしれません。また、認知機能の低下により自分で判断できないことが増えている為に、人と接することや外出先での意図しない状況にストレスを感じているのかもしれません。

3.どう対応・接すればいいの?

放っておくと認知症の症状が悪化してしまい悪循環に陥ってしまいます。基本的な挨拶はもちろんですが、積極的に話しかけてみましょう。家族の中で役割を決め接する機会を増やすことも大切です。例えば、お風呂掃除を頼む等のお願いをし、「ありがとう」といった感謝の言葉をかけ、必要な存在であることを伝えましょう。また、外出などを躊躇している場合は、家族も一緒に付き添いし安心感を持ってもらうことも大切です。

2.物盗られ妄想・物忘れ(認知障害)

認知症の母を介護しています。ある日、母が「お前が私の財布を盗みやがった。返せ~」とあなたを責めてきました。

しかし、財布はいつもの引き出しにしっかりとしまっています。

1.やってしまいがちな間違った対応

「盗んでないし、いつもの引き出しにあるよ」と責め立てる。その内自分で見つけると思って無視しておく。

2.なぜ、このような行動を取るの?

認知症の物盗られ妄想の症状が出てしまっていると考えられます。

3.どう対応・接すればいいの?

「本当ですか?財布がないと困りますね」と共感的な言葉をかけながら一緒に財布を探し、本人に見つけてもらうようにさりげなく誘導することが正解です。
犯人扱いされた人は嫌な気持ちがしてしまうかもしれませんが、すべては認知症が悪いと割り切りましょう。探し物は家族が先に見つけた場合でも、一緒に探して本人が見つけられるように誘導します。通帳などは決まった場所へ保管し、その都度本人と一緒に確認しましょう。

3.食事を終えた直後に「ご飯はまだ?」と催促してくる

昼食を終えて間もなく、「お昼ご飯はいつ?」と言ってきます。食事を終えたばかりでも、「まだ食べていないと」言い張ります。お腹が空いているのか、食事中に何度もご飯をお代わりします。

1.してしまいがちな間違った対応

家族は食べたことを前提に会話をするので、話がかみ合いません。おかわりは元気な証拠といって応じます。

2.なぜこのような行動をするの?

認知症により記憶力が低下している為、直前に食事をしたことを覚えていないことが原因だと考えられます。また、満腹中枢に障害が起きて、満腹感を感じていないのかもしれません。

3.どう対応・接すればいいの?

本人の言葉を否定しないで、具体的な分かりやすい言葉で、「食事を済ませたこと」や「回数」等を伝えます。「今は夜の7時ですよ。夕飯は美味しかったですね」ねど、分かりやすい言葉で伝えましょう。また、1回の食事を数回に分けて対応するのも効果的です。

4.季節に合わない服を着ようとする

父は、真冬にもかかわらず、半袖一枚で行動しており、暖房も何もついていない状態です。外出に誘うとそのままの格好で出かけようとします。

1.してしまいがちな間違った対応

「お父さん何してるの?頭がおかしくなったの?」と本人を責めたり、人目が気になり父が抵抗しているにもかかわらず、無理やり着替えさせようとする。

2.なぜこのような行動をするの?

認知症により判断力・体温調整機能の低下、見当識障害で時期が分からなくなっていることが原因と考えられます。

3.どう対応・接すればいいの?

無理やり着替えさせたり、バカにしたりしては、逆効果です。しばらく様子を見て「寒いからもう何枚か服をきてみたら?」と具体的な状態を示しながら、尋ねてみる感じで着替えを促してみましょう。会話の中で現在の季節について話してみたり、一緒に服を選んだり、玄関先など本人の目がふれるところに季節に合った服や置物・インテリアを置いて自分で気づいてもらうのもよいでしょう。 

5.家族や友人が誰だか分からなくなる

父は、孫の名前と息子の私の名前を間違えます。孫が「私の名前は、○○それはお父さんの名前」と訂正しても、本人は首を傾げたり、「そうだった、そうだった」と空返事をしたり本当に理解はしてないようです。

1.してしまいがちな間違った対応

間違えるたびに訂正したり、呼び間違えを周囲がおもしろがったりする。「わからないの?もう年だねお父さんも」など、年齢のせいにしたり、本人を不快にさせる会話をする。

2.なぜこのような行動をするの?

認知症による記憶障害がかなり進行した重度の状態だと考えられます。昔の記憶程鮮明に覚えていたり、自分を実際の年齢よりも若いと思っている為に、孫を自分の娘だと勘違いしたりします。

3.どう対応・接すればいいの?

認知症の症状がかなり進んだ状態であると考えられますので、訂正しすぎたり、バカにしたりすると本人はパニック状態に陥ってしまいます。孫を娘だと思うなら娘のままで、知らない人であれば、はじめましてのごあいさつで大丈夫です。本人の世界に合わせてあげることが大切です。 

6.家にいるのに、「自分の家に帰る」といって家を出ていこうとする。

昨年母がなくなり、認知症の父を私が介護することになりました。その際、父の家を売りに出しそのお金で、私の家を2世帯住宅にリフォームし父を連れてきました。しかし、父は自宅にいるにもかかわらず、「自分の家に帰る」といって元の自分の家に帰ろうとします。

1.してしまいがちな間違った対応

「お父さんの家は売りに出したよ。今家にいるでしょ」と本人の行動を止める。警察のお世話や近所の目などの世間体を気にして、本人を責める。

2.なぜこのような行動をするの?

アルツハイマー型認知症の物忘れに代表されるように、認知症では新しい記憶から失われていく傾向があります。例えば、本人の住み慣れていない土地に引っ越して間もない時期だと、自分の家だと思えなかったりします。また、元の自宅に戻ろうとします。

3.どう対応・接すればいいの?

本人の「帰りたい」気持ちを受け入れて、帰りたいと思っている先の話を聞いたりしましょう。頻繁に出ていこうとする場合は、玄関先に元のお家に飾っていた絵やディスプレイを飾るなど、自分の自宅と認識してもらいやすくしましょう。また、本人のお気に入りのものを玄関に置いておき、他に気持ちが行くよう工夫したりするのも効果的です。

いざというときの為に持ち物に連絡先等を書いておくと良いでしょう。

7.寝付きが悪く、すぐに起きて家の中を徘徊する

父は、夜中に目を覚ますとそのまま寝付かず真夜中に家中を徘徊します。TVを大音量でかけたり、大声で家族を起こします。たまに、服を着替えて「会社に行く」といって外に出かけようとします。

1.してしまいがちな間違った対応

眠れないのが本人だけであれば、そのまま放置しておく。家族も起こされると「お父さん!今何時かわかってる?」、「もう定年しているじゃない」と本人を責めたり、バカにする。

2.なぜこのような行動をするの?

睡眠障害は認知症ではよく見られる症状です。見当識障害が影響して、時間が分からなくなっていると考えられます。

3.どう対応・接すればいいの?

日中は、一緒に散歩に出かけたり、会話をするなどして活発に動くことで、寝つきを良くし生活のリズムを正したり、時間を意識させるような会話を心掛けるようにしましょう。医師に相談してお薬を処方してもらうのも1つの手です。

8.幻覚・幻視症状(見えないものが見えている)

リビングで家族でくつろいでいたら、突然、父が部屋の隅や天井に向かって、「こっちに来るな、殺される!」など、見えない何者かと会話をしています。

あなたは父にどのような接し方をしたら良いのでしょうか?お考えください。

1.やってしまいがちの間違った対応

突然のことなので、驚きや気味悪さを感じ「お父さん誰と話しているの?誰もいないじゃないの」と怒ったり、「気持ちの悪いこと言わないでよ」と笑いながらバカにしたりなど、不快感をあらわにした対応や相手をバカにした対応を取ってしまいがちです。しかし、このような対応を取ってはいけません。それでは、どのような対応がよいのでしょうか?

2.なぜこのような行動をするの?

幻覚・幻視・幻聴は、レビー小体型認知症によく見られる症状が現れていることが原因と考えられます。

3.どう対応・接すればいいの?

例え幻覚でも本人にとっては実際にそれが”見えたり、聞こえたりしています”。なので、介護者さんは、それを否定も肯定もせずに、「私には見えないけど、怖いですね」「一緒にやっつけよう」など本人の驚きやおびえた気持ちに共感を示し、相手の不安を取り除く対応・接し方を取ると良いでしょう。

9.パーキンソン病に似た症状(すぐ転ぶ、小俣歩行)

ちょっとした段差などで転んでしまうことが多くあります。また、外出した際など歩くのが遅いことがよくあります。こういう症状がみられる場合どのような対応を取ったら良いのでしょうか?

1.やってしまいがちな誤った対応

転んでしまうことを見て見ぬふりをしてしまう、または、気づかない。小股で歩くのが遅いことにイライラして起こってしまう。外出に連れて行かない。

2.なぜこのような行動をするの?

レビー小体型認知症に見られるパーキンソン病に似た症状が出ていることが原因として考えられます。

3.どう対応・接すればいいの?

レビー小体型認知症はパーキンソン病の症状(つまずく、転倒)が出ますので、障害物を取り除く、スロープを付けるなど住宅をバリアフリー化すると良いでしょう。介護保険の住宅改修費用の援助制度を使うと費用を抑えることが出来ます。また、外出に連れて行かないなど家に閉じこめてしまうとレビー小体型認知症が悪化してしまう可能性がございますので、温かくせかさずに見守ってあげることが大切です。

10.暴力的になる

父は認知症になるまでは、とても穏やかな人でした。そんな父が最近急に怒り出し、私を殴りつけ、止めに入った夫も思い切り投げ飛ばすという事件が起きました。

1.してしまいがちな間違った対応

突然のことなので暴力をふるう本人の動きを後ろから抑え力づくで抑えようとします。「何するんだ」と父は叫ぶと、「先に暴れたのはお父さんでしょ?」などといって言い争いになります。

2.なぜこのような行動をするの?

前頭側頭型認知症によく見られる症状で、もの事の善悪を判断する能力が低下して、さらに、被害妄想や抑うつ症状など、色々な症状が関係していると考えられます。

3.どう対応・接すればいいの?

無理やり抑えつけようとしても事態はさらに悪化してしまう可能性がございます。認知症のせいだということを理解し、その場を落ち着かせましょう。あなたまでカッカしてしまってはいけません。どんな時に暴力的になるのかを良く観察しておき、医師に相談するなどして対策を練っておくことで、未然に予防することも可能です。